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渡れぬ橋の謎 道との段差65センチ 住民と行政の思惑複雑 福岡

西日本新聞 1月17日(日)8時0分配信

 記者のもとに一本の不可解な電話がかかってきた。「造りは立派なのに渡れない橋がある-」。決してなぞなぞではない。一体どういうことなのか。調べると、かつては渡れたのに、ある時からなぜか渡れなくなったことが判明。背景には福岡県、久留米市、地元住民たちの思惑が複雑に絡み合った理由が隠れていた。
 橋は県管理の樋ノ口川に架かり、久留米市田主丸町とうきは市吉井町をつなぐ全長12メートル、幅6メートルの小さなもの。周囲に田畑があり、民家も点在する地域だ。そばにはダイハツ九州久留米工場があり、工場も多く立地している。少し迷ったがたどり着くことができた。橋の上に置かれた障害物が自動車の「通行不能」のサインになっている。

【写真】ガードレールでふさがれ、通行不能になっている橋。

 なぜ通れないのか。理由は「段差」にある。田主丸町側の堤防道路と橋の間には、驚いたことに65センチほどの高低差がある。吉井町側は道路整備されているため橋に進入できるが、田主丸町側に抜けようとすると、段差を降りなければならず、車が通行できない状態になっている。

 久留米市田主丸総合支所によると、橋は2代目らしい。初代は、ある土木業者が資材置き場に往来しやすくするため、県から占用許可を取って架けたものだった。だが2001年度になって事態は一変する。県が実施した河川改修工事で、川幅が広がることになったからだ。県は機能回復をしようと、同じ場所に2代目の橋を架けたという。
 周辺は砂防指定地のため、通常の河川より高い位置に橋を造らなければならない決まりがある。樋ノ口川には数十メートルおきに橋が架かっていて、橋にさしかかるたび、かさ上げされた堤防道路はアップダウンを繰り返す。県は橋を渡れるようにするために、堤防道路のかさ上げ工事に着手したが、地元住民が「アップダウンが激しくなると道路の見通しが悪くなる」などと要望し“待った”をかけた。

 その後、県、旧田主丸町、地元住民が協議を重ねた。既に堤防道路のかさ上げが完成した04年度になって、旧田主丸町が堤防道路を平らに戻す工事を行うことで合意。橋が使えなくなることから、所有者である土木業者は橋の必要性を訴えたが、最後は「やむなし」と受け入れたという。こうした経緯で、渡れない橋ができたのだ。
 その土木業者はすでに廃業。06年3月、橋の管理は市町合併後の久留米市に移った。車は通行できないため「人道橋」として取り扱っているが、まともに人も通れない状態のまま10年が過ぎようとしている。市は今後、階段や手すりの設置を検討するといい、人道橋としてふさわしい形に変えていく方針だ。

 うねるようにアップダウンする堤防道路は、車での走り心地は決して良いものではなかった。今回の“不思議な橋”は、渡れることより路面の凹凸軽減を優先するという地元の強い思いが表れた痕跡だった。

西日本新聞社

最終更新:1月17日(日)13時18分

西日本新聞