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「心は殺された」 在日3世が意見陳述 人種差別撤廃施策推進法案

カナロコ by 神奈川新聞 3月23日(水)0時33分配信

 ヘイトスピーチ(差別扇動表現)を含む人種差別全般を禁じる人種差別撤廃施策推進法案の審議が22日、参院法務委員会で行われた。参考人の一人として川崎市川崎区の在日コリアン3世、崔(チェ)江以子(カンイジャ)さん(42)が意見陳述に立った。共に生きる街、桜本に迫ったヘイトデモで負った心の傷をさらし、法律の早期成立を訴えた。

 「心は殺されました」

 与野党の委員を前に、静かな語り口が響いた。

 在日集住地域、桜本を目がけてヘイトデモが押し寄せてきたのは昨年11月と今年1月。「日本人も在日もフィリピン人も違いを尊重し、多様性を豊かさとして誇り、共に生きる街に土足で踏み入ってきた」

 差別主義者たちは、大切にしてきた違いをもって殺害・排斥の対象とみなし、言葉のナイフを胸に突き立ててきた。「一人残らず日本から出て行くまでじわじわと真綿で首を絞めてやる」「韓国、北朝鮮は敵だ。敵国人に死ね、殺せと言うのは当たり前」。それも差別を禁じる法律がないため合法的、かつ警察に守られながら-。目の当たりにした様子を再現する崔さんの口元がわなないた。

 「誰もが力いっぱい生きられるために」を掲げ、桜本を拠点に子どもの学習支援から高齢者・障害者福祉を手掛ける社会福祉法人で働き20年。「まさか法律をつくらなければ命を守ってもらえない時がくるとは」

 地域の子どもたちはヘイトデモ参加者と居合わせるのではないかと、エレベーターに乗るのを怖がるようになった。中学1年生の長男は、崔さんが地元の法務局に救済を申し立てると言った。「駅のホームの一番前に立っちゃ駄目だよ」

 崔さんは冒頭、言わねばならなかった。「被害を語ると反日朝鮮人と中傷される。私は反日の立場で陳述するのではありません」。望みは安寧な暮らしを取り戻したい、それだけだ。

 長男は福田紀彦川崎市長に手紙を書いた。〈『朝鮮人は敵。敵はぶち殺せ』と学校で言えば、先生は注意する。表現の自由だから尊重するなんて言わない。市長さんはどう考えますか?〉。返事が来た。〈とても残念に思います。しかし、現行法令での対処が難しいため、国に対して法整備などを要望する準備を進めています〉

 口調が熱を帯びる。

 「差別があっても法律がないからと放置されたままでは、いつか私たちは本当に殺されます」

 法案は、国と自治体は人種差別をなくす施策を策定、実施する責務がある、と明記する。持ち時間の15分を目いっぱい使い、崔さんは結んだ。

 「差別の問題に中立、放置はあり得ない。止めるか否か。国がヘイトスピーチをなくす側に立ち、差別は違法と宣言してほしい。そのために法をすぐに成立させてほしい」

 ◆人種差別撤廃施策推進法案 骨子は▽特定の人に対し、人種や民族を理由とする差別的な取り扱いや言動をしてはならない▽人種や民族が共通する不特定の人に対し、著しく不安や迷惑を与える目的で、公然と差別的言動をしてはならない▽国と自治体は差別防止施策を策定する▽国は差別実態を明らかにする調査を行う▽有識者でつくる審議会を内閣府に置く。昨年5月に民主、社民両党と無所属議員でつくる議員連盟が参院に提出し、今国会に継続審議となった。

最終更新:3月23日(水)7時3分

カナロコ by 神奈川新聞