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【連載】会社員が自転車で南極点へ8「時速1キロの自転車旅行」

THE PAGE 5/3(火) 15:25配信

出発早々ケンカに ペースの違いから

【連載】会社員自転車で南極点へ8「時速1キロの自転車旅行」

 南極点に向かって自転車で走りはじめた僕とエリックのチームだったが、出発早々、喧嘩になった。走行のペースの違いから、お互いがはぐれるという事態が起こったからだ。

【前回分】会社員自転車で南極点へ7「大氷原でガイドとの破局」

「僕はお前のペースについていけない」

 「なぁ、エリック。僕たちのミッションはなんだ?おまえ一人で南極点に行くことか?」

 僕は、静かに、しかし、怒りを込めながら言った。エリックが、それは誤解だ!俺はおまえが南極点に立つために、ここにいるんだよ、と言うので、「じゃあ、お前がしてることはなんなんだよ。重い荷物を僕に押し付けて、一人でさっさと先に行ってるじゃないかよ。おまえ一人でゴールしても意味がないんだよ。チームで進まないと、ここでは生き残っていけないんだ」

 「テントや通信機器は僕が持っているんだからさ。僕とはぐれて困るのはお前だろう。わかるか?エリック。僕もお前も、今はチームにとって何が最善考えて動かないといけない。お前が速いのはよくわかった。しかしぼくはおまえについていけないんだ。この意味がわかるか?」

 「僕は弱いんだよ!」 「・・・本当に、ごめん。僕はお前のペースについていけない」

数百メートルごとに後ろを確認してくれることに

 南極の大氷原で口論したことは、意外な結果を僕たちにもたらした。「Yoshi、俺が悪かった。 これから、しばらく進んだら、後ろを都度確認するよ」

 エリックはそういって、次からは数百メートルごとに後ろを確認してくれることになったのだ。僕達は手信号を共有しあい、それからは、都度、お互いが離れないように、確認作業を続けていった。

 困難は続いた。チームで走っているため食べ物、飲み物が思うようにとれなかった。空腹、喉の渇きをはっきりと感じるようになった。いつもならば、一人なので、お腹がすく前に携帯食料を口にほおりこんでいるし、喉が渇く前にこまめに水分を補給している。

 しかし、他人のペースに合わせなければいけない複数での行動においては、自分の体調は二の次にされるのだ。彼が休憩するまで、僕も休憩できない。やがて、足に力が入らなくなった。ハンガーノックと呼ばれるエネルギー不足の状態だ。それでも、歯を食いしばりながら、なんとかエリックと歩調を合わせようとする。

 長い長い時間を、僕は何も考えずに歩いた。 意識が朦朧としていたと思う。

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最終更新:9/2(金) 14:32

THE PAGE

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。