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オフィス賃料は再上昇、訪日外客数増はホテル市場に加え地価を牽引-不動産クォータリー・レビュー2016年第1四半期

ZUU online 5月11日(水)18時50分配信

■要旨

◆2015年度の実質GDP成長率は、民間消費がふるわず0.7%に留まった。全国の住宅着工は駆け込み需要の反動減からは回復した模様だが、首都圏の分譲マンションについては供給の減少が続き平均価格が上昇している。2016年の地価公示は、8年ぶりに全国全用途で上昇に転じ、上昇地点割合は継続的して増加している。

◆東京オフィス市場は、Aクラスの賃料が、新規供給の影響で前期に一旦下落したが再び上昇、空室率も3.3%と低水準だが、一部では賃料水準が高まったことでテナント誘致に時間がかかる傾向も見られる。東京主要5区のマンション賃料は上昇を続けていたが渋谷区以外では横ばいになってきている。

訪日外国人客数の過去12ヶ月合計は、2016年1月から3月の各月で2,000万人を超え、ホテル稼働率は好調を維持。大型物流施設市場は、首都圏、近畿圏ともに需要が強いが、首都圏では大量供給の影響から空室率が上昇してきている。

◆2015年第1四半期のJ-REIT市場は、マイナス金利導入の発表を受け長期金利が大きく低下したことなどから前年末比8.5%上昇した。J-REITによる物件取得は、昨年第4四半期に大きく鈍化したものの、2016年に入り再び高い水準を回復している。

■経済動向と住宅市場

2015年10-12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、民間消費の大幅減少などから前期比▲0.3%のマイナス成長となった。雇用情勢は、人口減少、少子高齢化を背景とした人手不足の高まりにより改善がつついているが、民間消費は伸び悩んでいる。

2016年3月の日銀短観は、業況判断指数(DI)が、大企業製造業・非製造業ともに低下した。マイナス金利が追い風となる傾向がある不動産業はわずかに上昇した。しかし3ヵ月後の景況感は不動産業も含め、総じて数値が低下している。

ニッセイ基礎研究所は3月8日時点で、実質GDP成長率を2015年度0.7%、2016年度1.2%、2017年度0.0%と予測している(*1)。ただしこの予測は2017年4月の消費税率引上げを前提としており、それにともなう景気減速を反映しているが、引上げが見送りとなった場合には改善する可能性がある。

新設住宅着工戸数は、2014年3月の消費税率引上げの反動から2015年は回復してきており、2016年に入って以降は前年同月比プラスで推移、3月も前年同月比8.4%増となった。

新築マンションについては、2016年1-3月の首都圏供給戸数は金融危機後の低迷で供給が少なかった2009年と同程度の低水準となっており、過去1年(2015年度)の供給戸数は前年比14.4%の減少となった。一方で、戸あたり価格、㎡坪単価は4年度連続して上昇、都心での富裕層向けの高額物件供給が価格水準を底上げしている。

実需層に手の届く新築マンションの供給が少ないことも影響し、中古マンションの流通量が増加、価格も顕著に上昇してきている。東日本不動産流通機構(レインズ)によれば、2016年第1四半期の首都圏中古マンションの成約件数は9,784件(前年同期比+3.4%)、同3月の平均㎡単価は47.78万円(前年同月比+5.5%)であった。

建築工事費は、15年前半がピークで後半からは低下傾向となっているが、引き続き高い水準にある。中古マンションの流通量増加の要因の一つに、建築費上昇の影響を直接受けないため割安とみられていることが挙げられるが、前述のように中古マンションの価格も上昇してきており、割安感は減りつつある。

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(*1)斎藤太郎『2016・2017年度経済見通し~16年10-12月期GDP2次速報後改定』ニッセイ基礎研究所、Weekly エコノミスト・レター、2016年3月8日
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■地価動向

3月に公表された2016年1月公示地価は、全国全用途で+0.1%となり、8年ぶりに上昇に転じた。商業地、住宅地の双方で上昇地点割合は増加し、横ばいも増加したことから、下落地点割合が減少した。

全国商業地では、前回上昇のピークだった2008年より下落地点割合が低下した。三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)と地方中枢都市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では全ての用途で平均変動率がプラスとなったが、地方平均では改善はみられたものの全ての用途でマイナスとなった。

商業地の全国上昇率1位と2位は大阪の商業中心エリアで占められた。1位の「心斎橋」は前年から45.1%、2位の「道頓堀」は40.1%であった。インバウンド効果による商業販売が好調なエリアで地価も大幅に上昇した。住宅地では「虻田郡倶知安町(北海道ニセコ周辺)」が19.7%と全国で最も上昇している。

当該エリアは、豪州や中国等の外国人にリゾート地として評価されており、住宅地においてもインバウンド効果の影響が見られる結果となった。

■不動産サブセクターの動向

(1)オフィス

東京のオフィス市場では、賃料の上昇トレンドがより確かなものになってきている。三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料データに基づくオフィスレント・インデックス(*2)によると、2016年第1四半期の東京都心部オフィス賃料は、Aクラスビル(*3)で33,995円/坪、前期比+3.4%、前年同期比+9.1%となった。

2015年第4四半期は、大型物件の供給の影響から一旦下落したものの、当期は再び上昇に転じ、2012年以降の回復基調が継続した。空室率については、前期から横ばいの3.3%で需要は底堅い。しかし、一部では賃料水準が高まったことからテナント誘致に時間がかかる傾向も見られるため、今後上昇ペースは緩和する可能性がある。

Bクラスビル(*4)の賃料も前期比+9.4%の大幅上昇となり19,971円/坪まで回復、空室率も5期連続で前期比マイナスの3.0%まで低下した。オフィス賃貸市況の改善は地方主要都市にも波及しており、仙台を除く主要都市で空室率の改善が見られた。

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(*2)三幸エステート株式会社『オフィスレント・インデックス』 http://www.sanko-e.co.jp/data/rent-index/publish-2016
(*3)述床面積10,000坪以上、基準階貸室面積300坪以上、築年数15年以内。
(*4)基準階面積200坪以上でAクラスに含まれないビル(築年数経過でAクラスの対象外となったビルを含む)。
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(2)賃貸マンション

東京都心5区のマンション賃料は、2012年以降緩やかな上昇基調を続けてきたが、16年に入り渋谷区以外では上げ止まり感がある。また、東京都心部の高級賃貸マンションは、空室率の低下傾向が続き2016年第1四半期は6.27%となった。

前回同程度の空室率に低下した2006年第4四半期には、賃料が16,000円/坪を超えているが、当期は、15,601円/坪と16,000円/坪に届いておらず、空室率が下がっても以前ほどには賃料が上昇していない状況にある。賃料負担力のある外国駐在員等が減少し、入居者層が変化していることが要因の一つと考えられる。

(3)商業施設・ホテル・物流施設

業態別の商業販売額は、百貨店の変動幅が大きいが、総じて前年同期比プラスで推移している。特にコンビニエンスストアは、安定的に前年同期比プラスで推移している。

東京および地方主要都市のプライム商業エリアの路面店舗賃料の推移を示した。銀座は2015年上期までは上昇が続いたが、2015年下期は前回ピークの2008年の水準までは届かずに上昇は一服した。地方主要都市では、心斎橋、天神(福岡)などが上昇基調にある。

訪日外客数の過去12ヶ月合計値を各月で見ると、2016年1月以降は既に年間2,000万人を超えている状況にある。円安が顕著になってきた2015年に入って以降、増加のペースも上がってきている。その影響もあり、ホテル客室稼働率は好調が続いている。

2016年に入り、全国61都市のホテル客室稼働率は2015年とほぼ同水準を維持、2016年3月は、前年同月比+0.7ポイントの82.6%であった。

力強い需要を背景に、既存ホテルへの投資が活発化し価格が上昇するとともに、新規開発計画も相次いでいる。2015年度の宿泊業用建築物の着工床面積は、前年比40%増、着工棟数は34%増となった。しかし2005-8年の水準には戻っていない。

シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の16年第1四半期空室率は前期から1.4ポイント上昇し8.3%となり、2010年第4四半期以来の高い水準となった。

新規需要は高水準ではあったが、当該四半期における12万坪の新規供給を吸収しきれなかった。竣工1年以上の空室率は1.7%と引き続き低いことから需要は底堅いが、それを上回る供給により空室率が高まった。第2四半期は13万坪を、第3四半期は9万坪をそれぞれ超える新規供給が予定されていることから、その間は空室率が高めで推移すると考えられる。

近畿圏の空室率は0.1ポイント低下の3.4%となった。近畿圏では第3四半期に8万坪弱の過去最高となる供給が予定されていることから、2016年の後半は空室率が高まる可能性が高い。首都圏、近畿圏ともに供給増の影響で全般に賃料はやや下がると予想されるが、物件に希少性があり複数の消費地を後背地として持つ外環道周辺(首都圏)や京都周辺(近畿圏)では足元賃料は上昇しており、今後も下落リスクは相対的に低いと思われる。

■J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場

2016年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は、日本銀行が1月末に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を発表し長期金利が大きく低下したことなどから前年末比8.5%上昇した。セクター別ではオフィスが9.0%、住宅が4.8%、商業・物流等が9.3%上昇した。

3月末時点の分配金利回りは3.3%(対10年国債利回りスプレッド3.3%)、NAV倍率は1.3倍、市場時価総額は11.7兆円である。J-REITによる第1四半期の物件取得額(引渡しベース)は5,509億円(前年同期比+11%)となった。

J-REITの外部成長ペースは昨年第4四半期に大きく鈍化したものの、2016年に入り再び高い水準を回復している。銘柄数は2/17にラサールロジポート投資法人が運用資産8物件・1,614億円で上場し53社に増加した。

マイナス金利はJ-REIT市場の分配金を押し上げる効果が期待できる。2015年下期(7-12月期)における市場全体の収益構造を示している。投資家の受け取る分配金原資(1,531億円)は、保有不動産が稼ぎ出す賃貸事業収益(3,223億円)から、運用資産額にほぼ連動する減価償却費(814億円)と資産運用報酬等(523億円)、及び融資関連費用を含む支払利息(356億円)を引いた金額である。

このうち、有利子負債額(約5.7兆円)に対する支払利息の利率は年率1.2%であり、マイナス金利導入後の新規の借入利率は0.7%と推測される。したがって、既存の借入金のリファイナンスが進んで借入利率が現行水準から0.5%低下した場合(1.2%→0.7%)、支払利息の減少によって分配金は144億円増加し9%の増益要因となる。

2016年第1四半期に公表・報道された不動産投資取引では、外資系ファンドによる出口売却に加え、上場リートによる物件売却などが確認できた。価格の上昇が物件売却を促している状況がうかがえる。

外資系ファンドによる売却では、大型物件は見られず、中小型物件の売却がほとんどであった。物件取得において競合が厳しい状況が続く中、ファンドが保有する大型物件については売却せずに継続保有とする判断もある模様だ。売却先としては、国内不動産会社や建設関連の会社などであった。

また一方で、外資系ファンドは物件取得も行っているが、これについても小ぶりな物件が多く、所在地は東京都心5区に加え、相対的に割安な周辺区へ拡大する傾向が見られる。

国内勢の取引では、上場リートによるポートフォリオの入れ替えのための売却物件を取得するケースが含め、事業会社等が物件を取得する事例が多く見られた。日本土地建物による虎ノ門の2物件取得は、再開発を踏まえたものであり、当該エリアの開発が複数個所で本格化している状況を反映している。

マイナス金利の環境下、金利水準との相対感から、さらに取引利回りが低下する可能性があるものの、一方でプライム物件は希少で市場に出にくい状況となっていることから、実際に取引実行になる案件は限定されると思われる。一方投資対象は、相対的に利回りの高い地域・用途に拡大する傾向にある。

加藤えり子(かとう えりこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産運用調査室長

最終更新:5月11日(水)18時50分

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