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三菱自、 環境技術軽視で墓穴

ニュースソクラ 5月11日(水)16時0分配信

環境負荷の低減を経営目標の中心に据えよ

 三菱自動車が燃費を実際より良く見せる不正行為を続けていた。対象車は当初は軽自動車だけとしていたが、ほぼ全車種に及ぶことが11日明らかになった。

 対象数は軽自動車だけで62万5千台に達するという。タイヤの抵抗や空気抵抗の数値を改ざんし、燃費効率を実際より5~10%高く見せるようにしていた。不正発覚のきっかけが提携先の日産自動車からの指摘だったことも情けない話で、三菱自動車の自浄能力に疑問が投げかけられている。

 三菱自動車といえば、2000年と04年に大規模なリコール隠しが発覚し経営危機に陥ったことがある。外部に知られなければ、少々の不正を働いても構わない、同社のこんな企業風土が今回の不正事件につながっていたのではないか。思い切った体質改善に取り組まなければ、消費者からの不信を招き、企業として存続することが難しくなるだろう。

 今度の改ざん事件が同社の企業統治(ガバナンス)の欠如にあることは否定できない。利益優先主義の旗の下で企業統治が損なわれてしまった。下部組織の失敗が上部組織に報告されない、不正改ざんを担当部門が隠蔽する、国が定める方法とは異なる方法で燃費計算を20年以上も続けきた、など事件発覚後、企業として好ましくない組織の現状が次々に明らかになっている。

 今回発覚した不適切な燃費計算の背景として、地球環境悪化や資源枯渇など今世紀の地球が直面している危機への配慮が著しく欠けていることが指摘できるだろう。

 昨年独・フォルクスワーゲンがディーゼル車の排ガス規制を逃れるためデータの偽装をしていたことが明らかになった時、環境への取り組みに熱心な「あのフォルクスワーゲンが、どうして?」といった驚きの声が世界中を駆け抜けた。そして、驚きの後に、「日本でも同様のケースがあるのでは」といった不吉な予言が自動車業界の一部で囁かれていた。それが現実になってしまった。

 高度成長期の日本を振り返ってみると、経済と環境は対立関係にあった。経済成長のためには厳しい環境規制は好ましくない、逆に環境規制を厳しくすれば成長が損なわれてしまう。企業にとっても同様で、利益拡大のためには環境コストを低く抑えたい、環境コストを増やせば利益が減少してしまう。この悩ましい利益相反関係は、マクロ政策の分野でも個別の企業活動の分野でも20世紀末頃までは経済優先で展開されてきた。

 だが、経済活動のエンジン役である石炭・石油などの化石燃料の消費が温室効果ガスのCO2(二酸化炭素)を大量に発生させ、世界的に異常な気候変動をもたらすことが判明して以来、企業活動にもCO2の発生抑制が強く求められるようになってきた。今世紀を生き残るためには自動車業界にとって燃費効率の向上は至上命令だった。

 だが燃費効率改善のためには巨額の研究開発投資が必要になる。短期的には収益の圧迫要因になる。巨額な環境投資を避けながら、厳しい環境規制をくぐり抜けるための秘策はないか。

 悪魔の囁きに導かれて踏み切ったのが不正データの作成だった。昨年9月不正が発覚したフォルクスワーゲンの場合はディーゼル車が排出する窒素酸化物排出量を検査中だけ減少させる違法なソフトの利用だった。

 その対象車は世界で1100万台に達した。その代償は大きかった。巨額な制裁金、保障金などの支払いで優良企業だった同社の経営は大幅に悪化してしまった。長年培ってきた企業としての信用も失われた。

 三菱自動車もフォルクスワーゲンも環境コストを惜しみ、環境の重要性を軽視し、収益拡大に走り、不正行為に手を染めた。その結果は企業の存続を問われるほどの打撃となった。

 地球に負荷を与えるような方法でしか利益を挙げられない企業は今世紀に生き残ることはできなくなるだろう。環境負荷の低減を経営目標の中心に据え、環境保全、環境改善に貢献すればするほど利益があがるそんな経営がこれからの企業に求められている。

■三橋規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。

最終更新:5月11日(水)16時0分

ニュースソクラ