ここから本文です

データで見る保育園待機児童問題-潜在待機児童や地域差を考慮した政策を

ZUU online 5月12日(木)10時0分配信

■要旨

「保育園落ちた」ブログを契機に、改めて保育園待機児童問題に対する社会的関心が高まっている。本稿では改めて統計データを用いて待機児童の実態を捉えていく。

政府の保育の受け皿拡大計画は当初以上に進行しているが、待機児童は5年ぶりに増加。待機児童の内訳は9割が2歳までの低年齢児で、7割は都市部に集中。

待機児童増加の背景には働く女性の増加があり、待機児童の多い南関東や近畿で女性の就業率上昇が目立つ。

待機児童問題の主な課題には、(1)政府統計に計上されていない潜在待機児童数の把握、(2)保育園用地の確保、(3)保育士の確保があげられる。保育士不足は特に深刻であり、他業種より低水準にある給与の引き上げをはじめとした処遇改善が検討されている。

待機児童の解消を早急に進めるには、需要と供給の量・スピードを合致させるべき。潜在待機児童の把握のほか、保育士の処遇改善にも地域差や雇用形態の特徴を考慮した優先順位付けが重要。さらに今、目の前で困っている家庭の救済措置も必要。

■はじめに

「保育園落ちた」ブログを契機に、改めて保育園待機児童問題に対する社会的関心が高まっている。待機児童問題の解消は、第二次安倍政権の成長戦略において喫緊の課題として盛り込まれた。

「待機児童解消加速化プラン」(*1)では保育需要のピークが見込まれる2019年度末までに解消を目指している。しかし、ブログが子育て世代の大きな共感を呼んだように、依然として厳しい状況は続いている。

保育園待機児童の実態はどうなっているのか。政府の計画は進んでいるのか。本稿では、保育園待機児童問題について、改めて統計データを用いながら全体像を捉えていく。

----------------------------
(*1)内閣府「日本再興戦略-Japan is back-(平成25年6月14日)」
----------------------------

■保育園待機児童問題の現状

◆保育園定員数と利用者数の推移~計画以上に保育量は拡大、全体では増加傾向で若干定員割れ

まず、全体像を把握するために、認可保育園(*2)の定員数と利用者数の状況を確認する。両者とも増加傾向にあり、いずれの年も定員数が利用者数をやや上回って推移している。なお、2015年は従来の認可保育所に加え、同年4月に施行された「子ども・子育て支援新制度」(*3)にて新たに位置づけられた「幼保連携型認定こども園」等をあわせた数となっている。

つまり近年、認可保育園の定員数は増加しており、年齢や地域をならして全体で見ると、むしろ若干定員割れをしていることになる。なお、待機児童問題は児童の年齢や地域等による違いが大きいため、次項以降で詳細を述べていきたい。

一方、政府の計画はどうなっているのだろうか。冒頭で述べた「待機児童解消加速化プラン」では、2014年度末までに約20万人、2017年度末までに合計約40万人の保育の受け皿拡大を掲げている。表1より、保育量(定員数)は既に2014年度までに21.8万人分増えており、さらに2017年度までに合計45.7万人まで増える見込みである。つまり、保育量は当初の計画以上に拡大していることになる。

◆待機児童数の推移~減少傾向だったが5年ぶり増加

保育量は計画以上に増えているが、待機児童は解消していない。待機児童数は、近年減少傾向にあったが、2015年は5年ぶりに増加に転じている。

なお、厚生労働省では例年4月と10月に待機児童数を集計している。保育量拡大の多くは4月に行われ、年度途中には少ないため、例年、4月の待機児童数は2万人台だが、10月には+2万人程度増えて合計4万人台となる。

◆年齢別待機児童数~9割は低年齢児、「3歳の壁」も

待機児童の内訳を年齢別に見ると、2015年4月では0歳が14.1%、1・2歳が71.8%、3歳以上が14.1%だが、10月では0歳が43.2%(4月より+29.1%pt)、1・2歳が48.8%(△23.0%pt)、3歳以上が7.9%(△6.1%pt)であり、0歳の割合が大幅に上昇する。

これは、0歳では生まれ月が遅い場合は生まれ年の翌年度の4月ではなく、年度途中からの利用希望が多いためである。4月と10月では0歳の割合は変わるが、いずれの時点でも0~2歳の低年齢児の占める割合が圧倒的に高い(4月は合計85.9%、10月は合計92.1%)。また、近年、低年齢児の割合は、やや上昇傾向にある。

この背景には定員枠の少ない低年齢児を中心に、保育園利用希望者が増えていることがある。図3より、保育園の利用率は全体的に上昇しているが、1・2歳の上昇幅が比較的大きい。2010年から2015年にかけて、全体では上昇幅が+6.9%ptであるのに対し、1・2歳は+8.5%pt上昇している。なお、少子化は進行しているが、保育園の利用率上昇により保育園の利用者数は増えている。

この現状を踏まえ、政府は「子ども・子育て支援新制度」にて、2歳までを対象とする小規模保育や家庭的保育(保育ママ)等を新たに認可事業とした。

つまり、待機児童の大半を占める低年齢児に特化した保育施設を拡充することで、待機児童の解消を図ろうとしている。しかし、これらの児童はいずれ成長していく。依然として3歳以上の待機児童も解消しない中では、3歳からの居場所がなくなる「3歳の壁」が出来ぬよう、3歳以上の保育量もあわせて拡充する必要がある。

◆地域別待機児童数~7割は都市部に集中、全国では約16万人の空き

待機児童は年齢による違いも大きいが、地域による違いも大きい。都道府県別に待機児童数を色づけした全国待機児童マップを見ると、待機児童のいない白色の地域が半数を占めて多い一方、東京を中心とした首都圏や大阪を中心とした近畿圏、札幌市をはじめとした政令指定都市を含む地域では待機児童が多い傾向がある。

また、都市部(首都圏や近畿圏、政令指定都市等)とそれ以外の地域の待機児童数を比較すると、都市部が待機児童の実に7割以上を占めている。

なお、保育園の定員数から利用者数を差し引いた数を仮に「保育園の空き」とすると(*4)、全国では約16万人分の空きがある。つまり、4.5万人の待機児童に対して、全国では3倍以上の空席があることになる。

----------------------------
(*4)分かりやすさのため、単純に定員数から利用者数を差し引いたが、実際は年齢ごとの定員数を考慮する必要がある。
----------------------------

■女性の就労状況

◆女性の就業率の変化~子育て世代で上昇、南関東や近畿で目立つ

保育園の利用率が上昇した背景には、子育てをしながら働く女性が増えたことがある。少子高齢化による労働力不足が懸念される中、政府の成長戦略でも、特に従来から離職者の多い子育て世代の女性の就業率上昇が期待されている。

有配偶女性の就業率の変化を見ると、近年、特に20~30歳代における上昇幅が大きくなっている。

なお、前述の通り、待機児童数は地域差が大きいため、地域別に有配偶女性の就業率の変化を確認する。表3で、保育園児を持つ割合が高いと予想される30~34歳と35~39歳に注目すると、2010年から2015年にかけて、南関東や北関東・甲信、近畿では有配偶女性の就業率が+5%pt以上上昇している。

なお、本来、保育園待機児童問題と女性の就業率の関係を論じるには未就学児を持つ女性の就業率を見るべきである。また、地方部では祖父母との同居等による家族内保育も可能であるため、女性の就業率と待機児童の状況が必ずしも一致するわけではない。しかし、特に待機児童の多い南関東や近畿では、子育て世代の女性の就業率は確かに上昇している。

■待機児童解消の課題

◆潜在待機児童の存在~さらに1.1万人の追加

これまでに述べた通り、待機児童問題の背景には、子育て世代で働く女性が増え、特に都市部や低年齢児で保育需要が高まっていることがある。保育需要が集中する地域では需要が供給を上回るために、待機児童が解消しないという面もあるが、「潜在待機児童」の存在も注視すべきである。

実は、政府の公表する待機児童数には、認可保育園の選考にもれて認可外へ預けた場合や育児休業を延長した場合、保護者が求職中などを含めていないケースも多い(自治体により解釈が異なる)。

そこで今年3月に厚生労働省は、親が育児休業中や求職活動を休止している場合も含めると、待機児童はさらに約1.1万人存在し、合計約6万人となることを発表した。さらに「どうせ保育園に空きがないから申し込まない」といったケースも含めると、「潜在待機児童」は170万人にも達するとの報道もある(*5)。

「潜在待機児童」の状況が十分に把握されていないこと、また、保育量の拡大によって保育需要が喚起されることもあるため、待機児童問題はなかなか解消しない。

----------------------------
(*5)日本経済新聞(2016/4/22朝刊3面)等
----------------------------

◆保育園の用地不足~公園・庁舎の活用や小規模保育に期待

「待機児童解消加速化プラン」により全体では計画以上に保育量が増えているが、個別自治体では、用地不足や保育士不足のために保育園開設が難航しているケースもある。

都市部では地価の高さや過密した環境から、認可保育園に適した用地や物件を確保することが難しい。さらに、子どもの声や交通量の増加を理由に、近隣住民が保育園建設を反対する地域もある。

これらの現状を踏まえ、政府は昨年、国家戦略特区における規制緩和策として、都市公園内に保育園の設置を解禁した(都市公園法では認められていない)。既に東京都世田谷区や品川区などで進められている。このほか、都市部では庁舎などの活用も検討されている。

公園や庁舎敷地内に保育園を設置することは、用地不足の解消とあわせて、騒音や交通量の問題も解決でき、画期的な解決策と言える。また、従来の認可保育所と比べて用地や設備の制約が少ない小規模保育を増やすことでも、待機児童の解消が進められている。しかし、既に指摘した通り、3歳以上の居場所にも留意すべきである。

◆保育士不足~給与引上げなどの処遇改善に期待

保育士不足も深刻だ。2015年11月の保育士の有効求人倍率は全国で2.09倍、待機児童の多い東京都では5.72倍にもなる(*6)。

厚生労働省は、2013年度から2017年度にかけて、新たに6.9万人の保育士が必要と推計している(*7)。しかし、保育士養成施設卒業者のうち、約半数しか保育園へ就職していない。保育園で働く保育士は2013年度で約43万人だが、潜在保育士は約76万人と推計されている。

この背景には待遇面の課題がある。東京都の調査によれば(*8)、保育士の職場における改善希望は「給与・賞与等の改善」(59.0%)が圧倒的に多い(*9)。

保育士の給与は設置・運営主体(公設・民設/公営・民営)や雇用形態(正規・非正規)で異なるが、公設・公営で正規職員の場合は地方公務員となり、給与は地方公務員法に従う(先の調査では回答者の10.8%)。

一方、多数を占めるであろう公務員以外の保育士の平均年収は、女性の55歳以上を除けば、男女とも概ね全業種平均を下回る(表4)。また、都道府県別に見ても、全ての地域で保育士の年収は全業種平均を下回る(*7)。

この要因として、保育士は経験やスキルに応じた資格区分がなく昇給しにくい仕組みであることや平均就業年数が短いこと(全業種平均12.1年に対して7.6年)等があげられる。

これらの現状を踏まえて厚生労働省は、保育士の経験や役職等に応じた賃金加算や住宅支援などの処遇改善の方針をまとめている(*7)。また、先月、政府は「1億総活躍国民会議」にて、2017年度から保育士の賃金を月額約1万2千円引き上げることや、経験豊富な保育士には更に上乗せすること、定期昇給制度を導入した保育園には助成金を出すこと等の方針を固めた。

このほか保育士確保に向けて、資格試験の回数・実施場所の増加やキャリアアップに向けた研修の充実、離職者(潜在保育士)の再就職支援なども進めている。さらに、保育士不足を補うために、保育士の配置基準を緩和して一定の研修を受講した保育補助員を代用すること等も進められている。

----------------------------
(*6)厚生労働省「「保育士確保集中取組キャンペーン」について」(平成27年12月25日)
(*7)厚生労働省「保育士等確保対策検討会 報告書及び各回会議資料」(平成27年11月~12月)
(*8)東京都福祉保健局「東京都保育士実態調査報告書」(平成26年3月)
(*9)次いで、2位「職員数の増員」(40.4%)、3位「事務・雑務の軽減」(34.9%)。
----------------------------

■おわりに

待機児童の解消に向けて、政府の計画は当初の計画以上に進んでいる。また、政府は保育園の用地不足や保育士不足等の把握できている課題については着実に対処している印象も受ける。しかし、待機児童の状況は依然として都市部を中心に厳しい状況が続いている。

この大きな要因として、需要と供給の量・スピードが合致していないことがあげられる。

需要については、「潜在待機児童」の存在を考慮し、その量に見合う政策を実施する必要がある。国全体として女性の労働力に期待をかける中では、少なくとも「すぐに働きたい意志はあるのに、認可保育園の選考にもれて育児休業を延長した」「保育園に入れないために求職活動を休止している」といった「保育園に空きがないから働けない」という状態は待機児童に含めるべきだ。

また、待機児童問題の原因として、育児休暇を取りにくい非正規雇用者が増えたことで低年齢児からの利用意向が高まったことがあり、非正規雇用者も含めた育児休業の徹底が必要との指摘もある(*10)。需要側である子育て世代の雇用環境の改善も検討すべきだ。

供給については、「潜在待機児童」を把握した上で、保育園用地の確保に向けた更なる施策や保育士の処遇改善を早急に実施すべきだ。用地確保については国家戦略特区など地域の特徴が利用された施策もあるが、保育士確保に向けても地域差等の特徴を考慮した対応も検討する必要がある。

政府は、保育士の給与を1.2万円引き上げる方針を固めたが、待機児童の状況は地域により大きく異なる。また、1.2万円引き上げても全産業平均との年収差は埋まりにくい。

限りある財源を効果的に投下するには、保育士の給与を一律に上げるのではなく、人手不足が深刻な地域や一般的に厳しい雇用環境にある民間企業の保育士、特に非正規職員として働く保育士の処遇から手厚く改善していくという考え方もある。

政府が女性の活躍促進を打ち出す中、保育需要は全国的に高まっていくとすると、地域によらず保育士の平均給与が全産業と比べて低水準であることは課題であり、最終的には保育士の給与が底上げされることが理想的かもしれない。しかし、深刻な保育士不足を早期に解決していくには、地域差や雇用形態を考慮することが効果的だろう。

また、待機児童マップで見た通り、待機児童のいない県と待機児童の多い県が近接しているところもある。都市部では保育士の定着を目的に住宅補助や育児休暇中の補助金を支給する自治体もあり、給与だけでなく福利厚生面の充実を図ることで、保育士の人手に余裕のある近接県から保育士を呼び込める可能性もある。

さらに供給については、今、目の前で困っている家庭の救済措置も必要だ。現在、認可保育園の選考にもれて待機児童となってしまった場合、成すすべはない。

東京都の多くの自治体では、認可保育園に入れずに東京都認証保育所(*11)を利用する場合、認可保育園との差額を給付している。例えば、この給付の仕組みを拡大し、認証保育所以外の認可外保育施設等や自宅内でのベビーシッターによる保育にも適用できれば、少しでも救済につながるのではないだろうか。

以上のように、待機児童の解消に向けては、需要側と供給側の課題を着実に、かつ極め細やかに解決していく必要がある。

----------------------------
(*10)前田正子「待機児童問題の視点(上)需要側からも解決策探れ、1~2歳児保育、優先」日本経済新聞経済教室(2016/4/14)
(*11)認可保育所の設置基準を東京の現状に合うように変えた独自制度。施設面積の緩和、0歳児保育の実施、駅前の施設設置等がなされている。
----------------------------

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

最終更新:5月12日(木)10時0分

ZUU online