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日ロ首脳会談、政治決着へ道筋?

ニュースソクラ 5月12日(木)16時0分配信

カギは「新アプローチ」と「二人で解決しよう」

 安倍晋三首相とウラジーミル・プーチン大統領が6日、ソチで会談した。雰囲気は良好だったようである。近年、ロシアからは領土問題の存在そのものと否定しているような対応を示していたが、今回はそうではなかった。

 今後は「あらゆる問題」を協議する用意があるというから(ロシア外務省スポークスウーマン)、領土問題もそこに入るだろう。
 
 当然と言えば当然のことであり、これを前進と言うのは憚られるところもあるが、わずかだがロシア側の態度が変わったのかと思わせる。態度を少々軟化させたとすれば、その理由は、ロシアがアジア志向を強める中で、中国に偏りすぎないようにアジア全体でバランスを取りたいと考えていること。

 さらには原油価格の低迷と米欧による経済制裁でロシア経済の先行きについての不安があるため、日本との経済関係の拡大に期待していることなどであろう。
 
 今回の首脳会談について安倍首相が口にしたキーワードを2つ挙げるとすれば、それは「新しいアプローチ」と「2人で解決しよう」である。安倍首相は、日露関係の「停滞状況」を打開するため、「新しいアプローチ」を提案、大統領も受け入れたという。

 安倍首相も外務省もその内容を明らかにせず、思わせぶりな態度を示している。一体その中味は何なのか。領土交渉を一気に解決する秘策であろうか。
 
 1998年4月、橋本龍太郎首相は来日したボリス・エリツィン大統領と川奈で会談、ロシアが北方4島を日本の領土であると認めるなら、当面の間、これら4島でのロシアの施政権を認めると提案した。これは大胆な新しいアプローチだったが、今回は、会談後の政府高官の注釈を聞く限り、そうした具体的な解決策を提示したわけではないと思われる。
 
 「経済や国際協力など包括的な関係強化を進めながら領土交渉の前進を図る」、「領土問題に固執せず経済分野や安全保障分野での連携強化など幅広い協力関係を築いて領土問題解決にむけた環境整備を進める」、「経済協力と領土交渉を平行させる」――日本の各紙にはこうした解説が並ぶ。おそらくそれは間違っていないのだろう。

 だが、そうであれば、新アプローチなるものは戦後の日ロ関係史の中では必ずしも目新しいとは言えない。日本のこれまでの対ソ連/ロシア外交の基本姿勢を表わす言葉はいくつかある。まずブレジネフ時代の「政経不可分」、つぎにソ連時代末期には「拡大均衡」があり、1997年からは橋本首相が「重層的アプローチ」を打ち出した。それを小泉純一郎首相以降も引き継いできた。

 今回の新しいアプローチに名前が付くのかどうかわからないが、戦後の長い領土交渉の中で日本から示す対ロ外交原則は硬軟ともに出尽くしている。もちろん時代の変化とともに調整し、新たな気分で打開を図る試みは必要ではある。

 安倍首相はソチでプーチン大統領と2人だけ(通訳は別)で約35分話し合ったという。そこでは上記のような原則に限らず、より踏み込んだ話合いがあったのかもしれない。その35分間の内容がわかれば新しいアプローチがもっと鮮明になるだろう。

 もう一つのキーワード「2人で解決する」が新しいアプローチと関係している可能性もある。今後も事務方の交渉は不可欠だが、長い交渉の中で事務方の交渉は「ああ言えば、こう言う」といった状態が続いている。論点はほぼ出尽くした。領土問題が事務方の交渉で進展することはもはやあり得ない。

 「日本は日露関係全体を発展させたうえで、共に高い支持率を保つ両首脳による政治決断で領土問題の決着を図る構えだ」(毎日新聞5月2日朝刊1面、前田洋平記者)という指摘通りに安倍首相は決意し、その意思を大統領に伝えたのかもしれない。

 ところで安倍首相の対ロ外交が先進7カ国(G7)の中で突出して親ロ的でG7の足並みを乱すかもしれないとの危惧があるようだが、イタリアのマッテオ・レンツィ首相は6月に訪ロを予定、フランスのフランソワ・オランド大統領はプーチン大統領を10月に訪仏するよう招待しており、突出しているとは言えない。

 安倍首相の今回の訪ロは欧州訪問の帰路に立ち寄ったという感じで、共同声明が出されたわけではない。プーチン大統領の訪日予定も先送りしてきた。安倍首相は伊勢志摩でのG7サミットの議長であり、かつてG8の一員だったロシアの考えを事前に聞いておくとの名目も成り立つだろう。

■小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:5月12日(木)16時0分

ニュースソクラ

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