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減速ぎみだが、ソフトランディングできそうな中国経済

ニュースソクラ 5月13日(金)16時30分配信

中国経済から見る、習近平政権の権力闘争

 先日、中国経済について国際機関や米国のシンクタンクと意見交換をしてきた。

 日本では中国経済の先行きにかなり悲観視する声が強い。そうした中で米国で飲み方を総合すると、結論的には経済のスローダウンは間違いないものの、一部で喧伝されているハードランディングの恐れは少ない、というものだった。

 その根拠としては第一に過剰設備に悩む鉄鋼、石油化学などのオールド・エコノミーの苦境は明らかである一方で、いまやGDPの5割を超えた第三次産業を中心とするニューエコノミーが中国経済を牽引すると予想していることが挙げられよう。製造業のPMIが50を割り込んできた一方で、非製造業は一貫して50を超えている。個人消費指標がずっと底堅く、日本での爆買いの勢いが衰えないのもこのためだ。

 第二には、財政支出の拡大や相次ぐ金融緩和などの政策発動による下支え効果だ。財政面では2020年までに高速鉄道網をさらに広げて80%の都市を繋ぐほか、高速道路網もこの間にさらに3万キロ延伸するという壮大な計画を推し進める方針を打ち出している。インフラ整備と財政刺激効果を併せて狙っている。金融面をみると、この一年半で6度の利下げと5度の預金準備率引き下げを実施している。景気のスローダウンにもかかわらず、マネーサプライ(M2)は13%台の高水準で推移している。

 第三には3月の全国人民代表大会(全人代)でもゾンビ企業の整理・淘汰を打ち出したとはいえ、そのペースは極めて緩慢なものに留まるとみられるからだ。500~600万人という失業者を生み、国営銀行の不良資産を爆発的に増やす早急な破綻の選択は現実的ではない。言い換えれば、国営企業の改革は進まないということだ。

 第四にはGDP比280%にも達するという総債務のかなりの部分が過剰設備や不動産開発で膨らんだ地方政府の債務や非効率な国営企業の借入である。債務削減(デレバレッジ)は必須である。しかし、これも中国政府は時間を掛けて財政資金や外貨準備資金の取り崩しなどで賄っていく方針のようだ。

 以上のような政策に則って、習近平政権は今後、2020年まで最低6.5%の成長を続けて、今度の全人代で公約とされた10年間で所得倍増の目標達成を狙っている。要約すれば、金融・財政政策をフル回転させたうえ、外科的手術による経済へのショックは最低限で済ませようとしている、と米国のエコノミストらは予測しているようだ。

 このシナリオに問題がない訳ではない。最大の問題は、ゾンビ企業の整理・淘汰、そこに貸し込んでいる銀行の不良資産問題を顕現化させないように徐々に進めて行こうという考え方だ。どこかで聞いた覚えがある政策だ。そう、日本におけるバブル破裂後の不良資産問題への対応と同じだ。

 結局、思い切ったショック療法を回避しようと時間を掛けたのがいわゆるバランスシート不況に繋がり、「失われた10年」と称されるに至った。現在の中国は当時の日本より圧倒的に潜在成長力が高いので、その心配はいらない、との指摘が多かった。しかし、企業が過剰設備、過剰債務、過剰人員を抱えたまま活動していけば経済の効率は低下していくので、成長率が4~5%に落ちる可能性は高い。

 中長期的課題は多い。第一には中国では一人っ子政策などの咎めから労働人口がこれからますます減ってくる。そうした中で成長を達成するためには労働生産性を引き上げるような産業構造の高度化(ハイテク化、経済のサービス化)を図らなければならない。いま中国はそのための生産の内生化を急速に進めようとしている。

 従来、高度な技術を要する資本財・中間財は香港、台湾、韓国などからの輸入に依存していた。現在進めている2025年までに現状25%の内製化比率を70%に引き上げようと計画している。その影響は韓国経済などに中国向け輸出の鈍化という形で現われている。しかし、意欲的な計画を実現するためにはハイテク産業などを中心に相当の高付加価値化を達成しないと難しい。

 もっと厄介なのは、いわゆる農民工の戸籍問題と社会保障問題であろう。中国経済の高度成長は都市戸籍を得られない農民が都会に出て低賃金で働くところから始まった。しかし、都会での戸籍取得は許されず、医療・年金などの社会保障の恩恵にも浴せず、不満が内訌している。さらに農村では教育機会も与えられず、多くの者が自分たちの子どもに中・高等教育を受けさせることができない。農村を基盤として成立した共産党だけにこの問題は疎かにできない。

 しかし、農民に戸籍の移動を認め、社会保障を充実させれば、財政コストの増大を招くほか、国際競争力の低下に繋がる、というジレンマに直面する。こうした諸問題に取り組まねばならない習近平政権には、まず権力の集中、抵抗勢力たる政敵の撲滅が不可欠である。現在の権力闘争もこういう文脈で理解していくと分かり易い。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:5月13日(金)16時30分

ニュースソクラ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。