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パナマ文書の日本企業、ほとんどは脱税なんかしていない

ニュースソクラ 5月13日(金)18時0分配信

合法なタックスヘイブン利用は企業の常套手段

 中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した膨大な顧客データが「ICIJ」(国際調査報道ジャーナリスト連合)から10日午前3時に公開された。数十社の日本企業を含む21万社超の企業名などが記載されている。

 厳格な守秘義務を負う法律事務所の顧客データが流出すること自体前代未聞だが、俗に“パナマ文書”と呼ばれる同データには、イギリスのキャメロン首相やロシアのプーチン大統領の友人、中国の習近平国家主席の義理の兄など、現役の首相や首脳経験者、その関係者の名前があがっている。

 舞台がオフショアと呼ばれる非居住者が匿名で法人を設立することができる特別な地域であることに加え、モサック・フォンセカがタックス・ヘイブン(租税回避地)に強い「世界の五指に入るペーパーカンパニーの卸売問屋」(外資系金融機関幹部)であることから、これら要人や富裕層、企業は自国の高い税金を逃れるためにタックス・ヘイブンにペーパーカンパニーを設けて、租税回避を図っていたのではないかとの疑念が持たれている。

 パナマ文書に載っていた父親が設立した会社の株主だったと明らかにしたキャメロン首相が、節税などはしていないと反論したように、すべてが脱税目的とはいえない一方で、資産隠しに使われているケースも少なくはないと思われる。

 公開されたパナマ文書に登場した日本企業や個人はどちらなのだろう。異口同音に、「脱税する意図はなく、税務当局に情報を開示し適正に納税している」と租税回避が目的ではない旨をコメントしている。

 例えば、関連会社の出資がパナマ文書に記載されていたソフトバンクグループの孫正義社長は、「2007年に当時子会社だったソフトバンクBBが、中国企業との取引上、バージン諸島にある会社に出資したもので、租税回避の目的ではない。投資した先がたまたまそこに登録していた」と答えている。

 個人としての出資が記載されていた楽天の三木谷浩史会長は、「楽天を起業する前の純粋な投資で、外国人から投資をもちかけられ80万円ほど出資したが一部しか戻らず、逆に損をした」。

 UCCホールディングスの上島豪太グループCEO(最高経営責任者)は、「租税回避を目的としたものではない。個人並びに会社として、日本の税務当局に適切に情報を開示し、合法的に納税している」としている。

 企業についてはさらに明確で、オリックスは、「1970~80年代に船舶リースを始めたので、その特別目的会社を指している。タックス・ヘイブン対策税制に基づき、日本の国税当局にも申請し、脱税などはない」。

 東洋エンジニアリングは、「イランの企業と合弁会社を設立する際に、相手先の都合でバージン諸島に登記したものの、実際に出資せずに終わった」。伊藤忠商事は「ビジネス上で必要な出資で、日本の税務当局に情報を開示して適切に税金を納めている」。丸紅は、鋼製品事業に関連した投資会社への出資で、「会社を設立しやすいといったビジネス上の判断」(国分文也社長)等々だ。

 実は、ビジネスの世界では、節税対策ではなく、匿名性や法人設立が迅速・簡便に行えるメリットがあるためタックス・ヘイブンを使うことは珍しいことではない。M&A(出資や買収)や運用の世界では通常のスキーム(仕組み)として一般化している。タックス・ヘイブンに留保された利益は居住者、または親会社に配当されたとみなし、居住者や親会社の収入に加算される「タックス・ヘイブン対策税制」があり、節税はできないというのが実態だ。

 「パナマ文書では、モサック・フォンセカがバージン諸島に強い法律事務所であったことから日本の企業や個人の利用は比較的少なかったが、日本の企業・個人がよく使うケイマン諸島が対象であれば、こんな数ではすまなかっただろう」(大手信託銀行幹部)と指摘されるほどだ。

 特に海外の投資やM&A案件などでは、タックス・ヘイブンに専用の特別目的会社(SPC)を作り、そこを介して出資や買収を行うのが一般的だ。タックス・ヘイブンでは法人登記が数日、場合によっては数時間で行える。しかもペーパーカンパニーで管理コストも安くすむ。実際は会社名を介したメールボックスがあるだけだ。

 このスキームは、投資銀行など金融機関が企業に提案する場合が多い。なぜなら、投資やM&A案件に融資を行う金融機関は、特別目的会社(SPC)向け融資とすることで、企業本体向けの与信リスクと切り離すことができるためだ。

 現在、多用されているプロジェクト・ファイナンスも同様のスキームが使われる。金融機関はプロジェクトに特化した融資とすることで、仮にプロジェクトがうまくゆかなくてもリスクの上限はプロジェクトの範囲に限定されるメリットがある。

 また、タックス・ヘイブンの匿名性も投資やM&Aに有利に働く。投資やM&Aでは、出資者を特定されることをできるだけ避けたい。なぜなら株式を買い増していることが市場に知られれば、株価が高騰するなどし、出資、買収コストが嵩むためだ。

 こうしたマーケットインパクトを避けるためにタックス・ヘイブンは使われる。この点は、海外の年金基金等が日本株に投資する際に、信託勘定を使い本当の買い手(委託者)を明かさないことと何ら変わりはない。

 こうしたタックス・ヘイブンを使う手法については日本の税務当局も十分認知しており、タックス・ヘイブン対策税制に基づき資金の流れはほぼ完全に補足し、連結納税させている。パナマ文書に登場した日本企業は「ほぼ白」とみていいだろう。

 むしろ、パナマ文書で炙り出された問題は、こうしたタックス・ヘイブンの匿名性を逆手にとって、麻薬やテロ資金をロンダリング(資金洗浄)する悪意のある利用をいかに封じ込むかということではなかろうか。

 租税回避を目的とした利用も問題視されるべきだが、その場合は、複数のペーパーカンパニーを介した資金の移動や複数のタックス・ヘイブンをまたぐ不透明な仕組みが講じられているのがほとんどだ。こうした利用も見逃せないが、タックス・ヘイブンの利用の大半が、ビジネスの機動性を目的にしたものであるのも実態というべきで、タックス・ヘイブンと係わっただけで「脱税・節税」と見るのは、短絡的。取引内容を厳しくチェックする必要があるだろう。

■森岡 英樹(経済ジャーナリスト)
1957年 早稲田大学卒業後、 経済記者となる。
1997年米国 コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年 4月 ジャーナリストとして独立。一方で、「財団法人 埼玉県芸術 文化振興財団」(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

最終更新:5月13日(金)18時0分

ニュースソクラ