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子に寄り添い、本物の本を買ってやってください

ニュースソクラ 5月13日(金)18時10分配信

【いま大人が子供にできること(5)】ファンタジーブームが終わってから

 1998年、森絵都の「カラフル」と1999年の“ハリー・ポッター”で始まった、異常なほどのファンタジー&YAブームは、2008年7月の“ハリー・ポッター”の終焉とともに終わりを告げました。
 そうなるだろう、と予測はしていたのですが、変化は想像以上で、それ以降、すがすがしいほどファンタジーは一番売れないジャンルになり、いまとなってはあのブームは幻だったのではないかと思うほどです。

 そうして同じ7月に、もうひとつ画期的な事件がありました。
スマホの発売です。
あの7月を思い出せますでしょうか?
スマホは凄まじい勢いでその夏を席巻し、テレビドラマの主人公たちのケータイも、秋にはスマホに変わっていました。
「相棒」の右京さんだけがガラケーのままなのをみて、なるほど、と思ったものです。
そして同じその年の10月にリーマンショックが起こり、橋は焼いて落とされました。
もう6月までの世界には二度と戻れない……。
 それまでの経験から、経済的な変化(金持ちになったり貧乏になったり)と身近な暮らしの道具が文化の亀裂を起こすことはわかっていたので、その年の子どもたちには変化が起こるだろうと思っていたところ、案の定、それも想定していたよりもはるかに大きい段差が起きたのです。
 2008年生まれの子どもたちが小学校に入ってくると、それまで低学年男子、には永遠のテッパンだと思われていた“はたらく車”“恐竜”“昆虫”の三種の神器が動かなくなりました。
 以前にもご説明したと思いますが、子どもたちに本を借りることを強制していない自然な小学校図書館なら(無理矢理本を借りることを義務づけている恐ろしい学校図書館もあります)借りられなくなったらとたんに本棚に本が残るようになりますから露骨にわかるのです。
もともと乗りもの、といっても“消防車”だの“クレーン車”だのが好きな子は、車が好き、というよりも強くて大きいものが好きな人です(5歳で、プリウス、プリウス!とか叫んでる子は、生まれながらのメカニックですよね。一生、毎日車の話をするタイプの)。
恐竜もティラノザウルスが好きな人は、恐竜そのものが好きというより強くて大きいものが好きな人(テロダクテイルとか、大型肉食恐竜ではないものが好きな人は、本物の恐竜好きだと思います)。
 昆虫も、カブトムシやクワガタが好きな人は強くて大きいものが好き(オサムシとかトンボとかに興奮していたら、その子は一生昆虫博士でしょう)なので、そういうタイプの人たちは、ティラノザウルスやカブトムシは本当には強くない、ということが理解できるようになる4年生くらいになると“卒業”するのが普通でした。
それがウケなくなる、ということは、新一年生はすでに
“強くて大きいことはいいことだ”という、価値観を持たなくなった、ということになるでしょう。
(唯一残ったのは電車のファンで、確かに電車だけは強い電車、弱い電車、というのはありません。電車で大事なのは時間通り来ることで、しかもいつも走るときは一人です。大勢で一緒に走るとか、競争する電車はないのです。3歳で電車にはまったら、その人はたぶん“卒業”せずにそのまま一生電車好きでしょう)
 子どもは毎年ひとつずつ年を取ります。
3年たったいまでは、その子たちは3年生になり、小学校低学年はその文化を持った人たちだけになり、三つのジャンルは完全に幼稚園の年長さんに落ちてしまいました。
 そして驚いたことに、その三つにとってかわったのは、なんと“元素図鑑”と“ブラックホール”だったのです。

 元素については、特に東日本の子どもたちはそとで遊びたい盛りに原子力発電所が爆発して遊べなくなったうえに、セシウムだのプルトニウムだの放射線汚染、というような言葉を聞いて育つようなことになってしまいました。
毎日、テレビや大人がいうので、かなり真剣に怖がってもいました。
 そうやって緊張したことが原因なのか、それがなくてもそうなったのかはわかりませんが、それまでは小学校3年生までは昆虫図鑑中心……、4年生から5年生にかけて社会学や宇宙に移行、つまり生物から無生物へ、だったのが3年ほど落ちたわけです。
それと同時になんというか、子どもたちは子どもっぽくなくなった、というか賢くなりました。
 ある小学校1年生に授業にいったら(百科事典のひきかた、をやったのですが)ちょっと喋りかけた男子を他の男の子が、静かに! と注意してくれたのです。
 1年生なのに……なんでそんに賢いの?!
(その半面、人間の基礎ができてなくて、外側は利ざといのに中味はぐだぐだ、という子どもも増えてきている、とも感じます)
みなさんもご存じだと思いますが、ベストセラーになった「世界一美しい元素図鑑」という、本当にきれいな飛びきりの本が出版されたことも大きかったと思います。
 需要はあっても商品がなければ、影響はそんなに顕在化しないものですから。

 大人用の図鑑ですが、小学校でもいれたところ、あの図鑑はロングセラーになりました。
次から次に借りられて、ほとんど図書館でお目にかかれなかったほどです。
玉川大学出版が翻訳してくれた「科学キャラクター図鑑 周期表」(こちらはこども用です)もよく借りられ、いまではその借り手も高学年から低学年にシフトしてきています。
 そのあいだに次から次に大ニュースが続き、一番テレビやネットを賑わせたテーマが多かったのは天文学でした。
子どもは案外ニュースに敏感なものです。テレビやネットに出てくるものには注目します。
ましてやなぜか、暗黒、という単語が好きなので、ダークマターだの、暗黒物質だの、ダークエネルギーだの、ブラックホールに反応するのです。
 宇宙の話をするときは、必ず“ブラックホールってなんですか?”と聞かれます(これがまた、うまく説明できない……)
高学年から始まりベストセラーになった科学マンガの“サバイバル”シリーズもいまや1、2年生が中心です。

 いまの子どもたちには、宇宙旅行も月世界ホテルも火星探検も夢や空想ではなく現実の話なのです。
「ロボット対人間」というSFアンソロジーを作ったときには、なぜかんこさんはわざわざこの本を作ったのか?と聞かれました。
なぜ?と聞くと、こともなげに
ロボットなんて、普通にいるじゃないですか、といわれました。
確かに……。いますね、ペッパー……。

 いまの子どもたちに、子どもだましの本はいりません。たとえ文字の部分は正確に読めなくても本物の本の方が役に立ちます。
確かにちょいお高めなので、一瞬うっ、となりますが、本物は持っている力が違います。
まっすぐ子どもを育ててくれるのです。
ですからお子さんが、どうしてもこれがいい、欲しい、といったらどうぞ、その本は買ってあげてください。
なによりも大事なことは、理想にその子を押し上げるのではなく、寄り添うことです。
そういう本があるところに連れていってください。
そうして欲しいと言われたらどうぞ大人用の本でも買ってやってください。
仕事も知識もいまは劇的に変化し始めているのですから……。

■赤木かん子(本の探偵)
1984年、子どもの本の探偵としてデビュー。子どもの本や文化の評論、紹介からはじまり、いまは学校図書館の改装からアクティブラーニングの教えかたにいたるまで、子どもたちに必要なことを補填する活動をしている。
高知市に「楽しく学校図書館を応援する会」として学校図書館モデルルームを展開中……。
著書多数。

最終更新:5月13日(金)18時10分

ニュースソクラ