ここから本文です

アベノミクス1.0と2.0の違いは何か?

ZUU online 5月16日(月)10時12分配信

日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続し、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだ。

そして、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要(マイナスが強い、名目GDP比)が消滅していて、マネーと貨幣経済(名目GDP)が拡大できなかったことがその問題をより深刻化させたと考えられる。

■アベノミクス1.0により企業貯蓄率は0%へ

恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度であり、財政拡大が不十分で、国内の資金需要・総需要を生み出す力が喪失してしまっていた。

循環的な景気回復による企業のデレバレッジの緩和(企業貯蓄率の低下)、そして震災復興とアベノミクスの経済対策で財政が緩和されたことにより、ネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計)が復活したのが、アベノミクス1.0の基礎となった。

その基礎の上に、大規模な金融緩和が行われ、復活をしたネットの資金需要を間接的に日銀がマネタイズする形が整い、アベノミクス1.0が完成した。

マネーは循環・拡大を始め、株価上昇・円安・物価上昇、そして名目GDPが縮小から拡大に転じ、デフレ完全脱却へ向かうモメンタムが生まれた。アベノミクスの成長戦略も幾分かの効果を発揮し、企業活動はどんどん活性化し、企業貯蓄率は0%に向かって低下していった。

■海外要因などからアベノミクス1.0は終焉

しかし、グローバルな景気・マーケットの不安定感を警戒した企業行動の慎重化(企業貯蓄率の短期的なリバウンド)と、消費税率引き上げと税収の大幅増加などにより財政が過度に緊縮気味となり、ネットの資金需要が消滅してしまい、アベノミクス1.0の基礎が瓦解してしまった。

こうなると、基礎が無い(マネタイズするものが存在しない)ため、金融緩和の効果は極めて限定的になってしまう。マネーの循環・拡大は滞り、株価下落・円高・物価停滞となり、デフレ脱却への向かうモメンタムも止まり、アベノミクス1.0は終焉してしまった。

アベノミクス1.0の基礎は復活したネットの資金需要で、基礎を活かすトリガーはそれをマネタイズする大規模な金融緩和で、終焉は財政緊縮と企業行動の慎重化によるネットの国内資金需要の消滅だと定義できる。

アベノミクス2.0は形が間逆である。

日銀の大規模な金融緩和は継続し、かなり巨額のネットの資金需要をマネタイズする用意ができていることが、アベノミクス2.0の基礎だ。

■次の経済対策に求められるのは柔軟で明確な目標

この基礎の上に、財政による大規模な景気対策とグローバルな景気・マーケットの安定化による企業活動の回復(企業貯蓄率の再低下)が合わさり、ネットの資金需要が復活すれば、アベノミクス2.0が完成する。

そして再び、マネーは循環・拡大を始め、株価上昇・円安・物価上昇、名目GDP成長率の加速というデフレ完全脱却へ向かうモメンタムが復活することになるだろう。

企業活動の活性化が加速し、企業貯蓄率が正常なマイナスに戻り、過剰貯蓄が総需要を破壊しなくなる日本経済の正常化へ向かっていくことになる。

5月のG7サミット後に公表されるとみられる経済対策がどれだけ大規模で有効なものとなるのか、そして、消費税率再引き上げの見送り・凍結を含め、これまでの反省により財政健全化の目標をデフレ完全脱却の目標と整合的な柔軟なものにすることができるのかが注目である。

■焦らない財政再建がデフレ完全脱却への近道

今後の財政拡大が大規模なものとなれば、ネットの資金需要が大きく復活し、2013年4月の日銀の黒田バズーカと同様のデフレ完全脱却へ向けたモメンタムになる可能性がある。アベノミクス2.0の基礎は大規模な金融緩和、それを活かすトリガーは財政拡大によるネットの資金需要の復活、そして結末はデフレ完全脱却だろう。

アベノミクス1.0と2.0も、ネットの資金需要を金融緩和によってマネタイズする形は同じであるが、その順番が逆である。1.0のトリガーは金融緩和、2.0のトリガーは財政拡大であろう。形は同じであるが、アベノミクス1.0で既に物価は上昇、名目GDPは拡大に転じ、日本経済は「デフレではない状況」には到達した。

その成果の上に、アベノミクス2.0が完成すれば、「デフレではない状況」から、「デフレ完全脱却(次の循環的な景気後退局面でもデフレに戻ることがない状態)」へ変化していくことになろう。

現在は、アベノミクス1.0が終焉し、財政拡大と企業活動の回復により2.0として復活をする端境期にあると考えられる。拙速な財政再建に固執すれば、ネットの資金需要の復活が妨げられ、アベノミクス1.0の終焉とともにデフレ・長期停滞に逆戻りするリスクが大きくなってしまうだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:5月16日(月)10時12分

ZUU online