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米国個人消費の動向-消費を取り巻く環境は良好も、所得対比で伸び悩み

ZUU online 5月16日(月)10時40分配信

■要旨

◆米実質個人消費支出は、16年1-3月期が前期比年率+1.9%に留まり、実質可処分所得の伸び(+2.9%)を下回るなど、期待外れの結果に終わった。個人消費は、15年4-6月期の+3.6%をピークに低下基調が持続しており、消費主導の米景気回復持続の可能性について疑問が生じている。

◆個人消費は、サービス消費が底堅く推移する一方、財消費の伸びが鈍化しており、とくにこれまで好調であった自動車関連が2期連続でマイナスとなるなど、自動車販売に陰りがみられている。

◆一方、個人消費を取り巻く環境は、(1)労働市場の回復、(2)家計バランスシートの改善、(3)ガソリン安等、消費に追い風となっている状況に大きな変化はなく、個人消費が実力を発揮できない要因として、昨年半ば以降株式市場が頭打ちとなる中で消費マインドの改善基調が一服している影響が考えられる。

◆もっとも、消費者センチメントのうち家計の財政状況に対する見通しは引き続き改善基調が持続しているほか、大型耐久消費財や自動車の購入意欲も高水準が維持されている。さらに、自動車販売については金融危機に伴うペントアップ需要が今後も期待できることから、株式市場の安定に伴い所得対比で個人消費は再加速しよう。

■はじめに

16年1-3月期の米実質GDP成長率は前期比年率+0.5%となり、前期の+1.4%から低下した。外需や民間設備投資が引き続き成長を押下げたことに加え、個人消費が+1.9%と可処分所得の+2.9%を大幅に下回る伸びとなるなど期待外れに終わったことが大きい。

米国では労働市場の回復を背景に消費主導の景気回復が持続しているものの、個人消費を取り巻く環境が良好であることを考慮すれば個人消費が実力を発揮できているとは言い難い。

本稿では、個人消費の動向について確認するほか、今後の見通しについて説明する。結論から言うと、個人消費を取り巻く環境に大きな変化はなく、依然として消費にポジティブに働いているとみられることから、今後株式市場が安定し消費マインドが回復基調に復するのに伴い、所得に見合った水準まで個人消費は再加速すると言うものである。

■個人消費の動向

◆主要項目別個人消費支出:自動車関連が2期連続の減少

個人消費支出は、16年1-3月期が前期比年率+1.9%となり、15年4-6月期の+3.6%をピークに低下基調が持続している。一方、実質可処分所得は2%台後半で底堅く推移しており、足元では消費の伸びが所得を下回っている。この結果、可処分所得と個人消費の差額である貯蓄は増加基調となっており、可処分所得に対する比率で示される貯蓄率は、5%台前半で推移している。

貯蓄率は、08年の金融危機後に個人消費が低迷したこともあり、足元より高い水準で推移する場面もあったが、金融危機前に3%台で推移していたことを考慮すれば、足元の貯蓄率は高止まっており、所得対比で消費が抑制されている状況が持続していると判断される。

次に、個人消費の主要項目別の推移をみると、サービス消費が堅調に推移する一方、財消費の伸び鈍化が顕著であることが分かる。

財消費は、15年4-6月期に耐久消費財が前期比年率+8.0%、非耐久消費財が+4.3%と高い伸びとなっていたが、その後は鈍化し16年1-3月期にはそれぞれ▲1.6%と+1.0%まで低下した。非耐久消費財では、ガソリン等のエネルギー関連支出や靴・衣料などが落込んだが、これらは暖冬の影響もあったとみられる。

一方、耐久消費財ではこれまで好調であった自動車関連が15年10-12月期の▲5.7%に次いで16年1-3月には▲12.4%と2期連続でマイナスとなったほか、マイナス幅が拡大し消費の足を引っ張った。

実際、新車販売台数の推移をみると、15年10月に年率換算で1,824万台の史上最高を記録した後、直近(16年4月)では1,742万台まで緩やかに低下した。この結果、新車販売台数の伸び(3ヵ月移動平均の3ヵ月前比)は、16年2月以降3ヵ月連続で2桁のマイナスとなった。

◆個人消費を取り巻く環境:個人消費に追い風の状況に変化はなし

14年以降に個人消費が加速する中、消費を取り巻く環境が消費拡大にポジティブであることが指摘されてきた。すなわち、労働市場の回復、家計バランスシートの改善、ガソリン価格の下落、等である。個人消費の伸びが冴えない中でこれらの環境に変化が生じているか確認しよう。

(労働市場):労働市場の回復、雇用者報酬の底堅い伸びが持続

労働市場の回復は持続している。非農業部門雇用者数は4月に雇用の伸びが鈍化したため、16年初からの月間平均増加数が19.2万人増(前年:22.9万人増)と前年から低下、好調とされる20万人超を僅かながら下回った。もっとも、4月は特定業種の不振が全体の足を引っ張る形となっており、他の業種では全般的に底堅い雇用増加となっていた。

さらに、失業率は5%と低下基調が持続しており、完全雇用に近づいているとの見方が増えている。一方、15年半ばまでは失業率が低下する一方、時間当たり賃金上昇率が前年比2%程度に留まるなど、賃金と失業率の動きが乖離する状況がみられたが、15年秋口以降は、賃金上昇率が2%台半ばに上方シフトしており、漸く労働市場の回復が賃金に波及してきたことが伺われる。

また、雇用者数の増加が加味した雇用者報酬は、前年比で4%超のペースで増加しており、消費の原資となる雇用者報酬は底堅い伸びが持続している。

(家計バランスシート):純資産残高は過去最高、負債の返済負担も軽減

家計バランスシートの改善は持続している。家計の純資産残高の推移をみると、金融危機後の09年4‐6月期に54.6兆ドルまで低下した後、直近(15年10-12月期)は86.8兆ドルと+32.2兆ドル(+59.0%)増加し、家計純資産残高は過去最高となった。

負債額が概ね14兆ドル台前半で推移する一方、資産残高が68.7兆ドルから101.3兆ドルと大幅に増加したことが大きい。資産別には株価や不動産価格の上昇を反映し、株式・投信が18.7兆ドル増加したほか、不動産も6.5兆ドル増加した。

さらに、家計債務残高や返済負担をみると、可処分所得に対する家計債務残高は15年10-12月期で1.05倍と02年以来の水準に低下しているほか、債務返済額に到っては統計開始以来の最低水準となっており、可処分所得対比でみた家計債務の負担感は大きく軽減していることが分かる。

このようにみると、家計バランスシートは個人消費にとってポジティブな状況であることが確認できる。

(ガソリン価格):足元で小反発も、前年比でマイナスの水準に留まる

原油およびガソリン価格の推移をみると、原油価格(WTI先物、ドル/バレル)は16年2月に03年以来となる30ドル割れとなった後、直近(16年5月12日時点)では15年10月以来となる47ドル台まで値を戻している。

一方、ガソリン価格(小売価格、ドル/ガロン)も、16年2月に09年1月以来となる1.7ドル台をつけた後、直近は2.2ドル台に上昇している。もっとも、ガソリン価格は、依然として09年5月以来の水準に留まっており、前年同期比では▲16%程の下落となっている。

15年のガソリン・エネルギー関連の消費支出額は、3,066億ドルと個人消費全体の2.5%(GDP比1.7%)を占めている。このため、ガソリン等の価格下落▲10%につきGDP比0.2%弱程度の所得効果に伴う消費喚起が期待できる。足元のガソリン価格は前年比で下落しており、消費喚起が期待できる状況に変化はない。もっとも、ガソリン価格の反発に伴い、今後所得効果は減退が見込まれる。

(消費者センチメント):高水準も回復が頭打ち

最後に、消費者センチメントの推移をみると、高い水準を維持しているものの、ミシガン大学、カンファレンスボードともに15年1月をピークに頭打ちとなっている。この動きは、株価が頭打ちとなっているのと連動しているようにみえる。

労働市場の回復は持続しているものの、消費マインドは労働市場より、株式市場の影響をより強く受けている可能性があり、所得対比で消費が抑制されている要因として、株式市場が不安定となっている可能性が指摘できる。

■今後の見通し

◆消費マインド:家計見通しは依然として強気、自動車などの購入意欲も強い

今後の消費をみる上で、ミシガン大学の消費者センチメント調査における、雇用・家計の見通しや、家具やテレビなどの大型耐久消費財、自動車の購入意欲についての結果を確認しよう。

今後1年間の失業者数の見通しは、15年7月以降には増加するとの見方が優勢となっている。もっとも、「増加」と「減少」の回答割合をみると、「増加」の3割弱に対し、「減少」は2割程度に上っている。「減少」回答の割合は05年以来の高水準であり、失業者数が減少するとの見方も根強いことを示している。

次に、今後1年間の家計の財政見通しは、06年以来の高水準となるなどこちらは改善基調が持続している。さらに、「良くなる」、「悪くなる」の回答割合をみると、「良くなる」が4割弱となる一方、「悪くなる」は僅か1割弱に留まっており、財政見通しについて楽観的な見方が支配的であることが分かる。

一方、大型耐久消費財と自動車について購入の好機との見方は、大型耐久消費財で07年以来、自動車で05年以来の高水準となっている。実際、購入時期として「良い」との回答割合は、両者ともに7割程度となる一方、「悪い」との回答は1割~2割程度に留まっており、これらに対する消費者の購入意欲が強いことが分かる。とくに、自動車については改善基調が持続しており、自動車購入意欲に衰えはみられていない。

◆自動車販売見通し:ペントアップ需要が下支え

ここで、自動車販売の動向を仔細にみていこう。新車販売台数の長期的な推移をみると、金融危機後の09年に1,060万台まで大幅に落ち込んだ後、15年は1,800万台近辺まで回復してきたことが分かる。

一方、世帯当り自動車登録台数は、金融危機前の2.12~2.14台から金融危機後に低下し、13年に2.02台をつけた後、14年は2.04台と小幅ながら増加した。これは、金融危機後に10世帯当りで登録台数が1台程度減少したことを意味する。

このように、自動車販売や世帯当り登録台数は金融危機後に大きく落ち込んだ後、現在はその回復過程にあると言える。では、ペントアップ需要も含めた今後の自動車販売はどの程度が見込めるか考えよう。

1976年から金融危機前の2006年までの新車販売台数のデータを用いて長期トレンドをみると、2016年は1,900万台の水準であることが試算される。これは足元の販売実績である1,700万台前半より高い水準である。

さらに、世帯当り登録台数に注目すると、金融危機後の登録台数の減少は高齢化や公共交通手段へのシフト等の構造要因によって低下する可能性もあるが、14年に2.04台と増加に転じたことや、免許所有者の増加基調が持続していることを考慮すれば、構造的な要因というよりは金融危機に伴う景気後退で自動車が買い控えられた影響が大きいとみられる。

このため、景気回復が持続する中では世帯当りの登録台数には今後の増加余地があるとみられる。米国ではおよそ1億2,000万世帯が存在するため、登録台数の比率が金融危機前に戻るとすると、1.2億×(2.12-2.04)で980万台の需要があると試算される。

一方、米国では毎年1,100~1,400万台が廃車されており、廃車分の補充だけでもこの程度の新車需要が見込まれる。さらに、家計世帯数は毎年100万件超の増加があるため、仮に世帯当り台数が足元の2.04台のままであったとしても、世帯増加分だけで204万台の新規需要が見込まれる。

このため、ペントアップ需要を除いた米新車販売の潜在需要は1,200~1,600万台程度存在すると試算される。これに金融危機に伴うペントアップ需要が加われば、足元の1,700万台前半の水準からは増加余地が残っていると判断できる。

◆結論:株式市場の安定に伴い、所得の伸び程度に個人消費は再加速

個人消費はこれまで好調であった自動車販売に陰りがみられるなど、労働市場の回復を背景に所得が底堅く推移する中で、所得対比で抑制された状況が持続している。

これは将来の雇用にやや慎重になっている可能性はあるものの、家計の財政状況については楽観的な見方が強いことを考慮すれば、15年前半以降に株式市場が頭打ちになったことにより、消費マインドの回復が足踏みしていることが影響しているとみられる。

一方、個人消費を取り巻く環境は引き続き消費にポジティブな状況には概ね変化がみられないほか、大型耐久消費財や自動車に対する購入意欲は強い。さらに、足元で陰りがみられる自動車販売は、金融危機に伴うペントアップ需要が残っていることから、今後の拡大余地が残っているとみられる。

このため、今後労働市場の回復が持続する中で株式市場の安定が確認できれば、消費マインドの改善を通じて個人消費は所得対比で再加速する可能性が高い。

窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

最終更新:5月16日(月)10時40分

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