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首相の欧州歴訪 、財政出動で独英を説得できず

ニュースソクラ 5月16日(月)16時10分配信

サミット合意をてこに消費増税見送り狙ったが

 安倍晋三首相は5月26~27日の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)に向けた欧州歴訪を終えた。各国首脳との会談では、サミットで世界経済を支える強いメッセージを打ち出す必要性で一致したが、最大の焦点である財政出動について、英独両国が慎重姿勢を示した。G7議長としてのリーダーシップは空振りで思惑外れの歴訪となった。

 原油相場の急落と新興国経済の低迷で世界経済は停滞感を深めている。その中で開かれる伊勢志摩サミットについて、議長を務める安倍首相は「G7が政策協調への力強いメッセージを打ち出さなければならない」と繰り返してきた。

 なかでも、財政出動が焦点になっている。というのも、2月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、共同声明に「財政政策の機動的な実施」が明記されたからだ。2015年末の米国に利上げを境に、米国を中心に、財政余力のある国に財政出動を求める流れができている。具体的に念頭にあるのは、中国やドイツだ。

 首相はこの流れに乗り、サミットに向けオバマ米大統領と手を取り合い、財政出動を含む政策協調を打ち出そうと動き始めた。今回の欧州歴訪は、そのための地ならしで、特にドイツ説得がポイントと目されていた。

 首相は5月5日午後、欧州歴訪の締めくくりとしてロンドンで開いた内外記者会見で「金融政策、機動的な財政政策、構造改革を各国の事情を反映しつつバランス良く進めることが重要だという点で各国首脳と一致できた」と、成果を強調した。

 ただ、これが直ちに財政出動での協調を意味するわけではない。今回歴訪した伊仏独英のうち、安倍首相の提案に積極姿勢を示したのは伊仏。イタリアのレンツィ首相は「力強いメッセージを、財政出動も含めて発信していくことが重要だ」、フランスのオランド大統領も「財政的な柔軟性を持って需要を増やす政策は極めて重要だ」と述べ、財政出動の重要性を確認できた。

 しかし、最も重要なドイツのメルケル首相とのベルリン郊外での会談(4日)では、安倍首相が「G7には構造改革の加速化に合わせて機動的な税制出動が求められている」と協力を求めたのに対し、メルケル首相は「構造改革、金融政策、財政出動を三つ一緒にやっていかなければいけない。民間投資で引っ張ることも重要だ」などと指摘するにとどまり、会談後の共同会見でも、「財政の安定と構造改革などを通じて(世界経済を)確固たるものにしていく」と、「財政の安定」、すなわち財政規律重視に改めて言及し、財政出動に慎重な姿勢を堅持した。

 さらに、翌5日にロンドンで会談した英国のキャメロン首相も「それぞれの国の事情を反映して、(金融政策や構造改革と)バランスよく協力して進めていくことが重要だ」との認識を示した。サミットに向け、協議を継続し、なんとか英独を説得する考えは捨てていないが、残された時間は少ない。

 安倍首相の主張は、7月の参院選など国内の政治情勢と密接に絡んでいる。熊本・大分の地震に対応する補正予算を今国会で成立させるとともに、7月の参院選に向け、5月中をめどに「一億総活躍」などの政策メニューをそろえ、秋の臨時国会で景気対策の補正予算を編成する方針も打ち出す。
さらに伊勢志摩サミットでの政策協調で「世界のリーダー」として指導力をアピールし、政治ショーとして最大限、盛り上げるのは、選挙対策として大きなポイントだ。

 ただ、参院選に向け、越えなければならないもう一つの大きな壁が、2017年4月から消費税率を10%に引き上げるか延期するかの決断だ。2016年1~3月期の国内総生産(GDP)の実質成長率(5月18日発表)は民間予測で概ねプラス・マイナス1%の範囲内だが、うるう年で1日多かったことを差し引けば、実質的にはせいぜい横ばいかマイナスとの見方が多い。

 消費税率アップについて「とても実施できる環境にはない」との先送り論が与党内で強まっている。かといって、延期には「大義名分」が必要だ。そこで、「G7が協調して財政出動で合意し、『日本の最大の財政政策は消費増税の延期』と、G7を口実に延期を決める」(全国紙政治部デスク)戦略というわけだ。

 安倍首相は経済政策の参考にするためとして3月に開いた「国際金融経済分析会合」で、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大教授に、ドイツに財政出動を説得するためのアイデアを尋ねたこと明らかになっている。

 この時、首相は「難民のための住宅投資や教育投資は景気刺激になるのではないか」と、具体的に質問していた。クルーグマン教授は難民対策について「金額的には大したことはない」と否定的だったとされるが、メルケル首相は今回の会談後の会見で「大勢の難民がドイツに流入して内需が刺激された」と語っている。難民対策が経済成長に寄与しているという意味だが、安倍首相が会談でも難民対策を持ち出したのではないかとの観測を呼んでいる。

 国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しでは、今年の成長率は米国2.4%、ユーロ圏1.5%、日本0.5%、世界全体でも3.2%。「全般にそう悪くないから、財政赤字を増やす財政出動でG7が協調するはずがない」(エコノミスト)との声が目立つ。

 そんななか、いかに各国を財政支出に引き込み、協調を演出していくか。サミット本番まで調整を続けることになるが、英独の姿勢は簡単には変えられそうにない。

ニュースソクラ編集部

最終更新:5月16日(月)16時10分

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