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【アグネスのなぜいま(2)】子供を嫌う「嫌児権」なんて存在しない

ニュースソクラ 5月17日(火)12時0分配信

保育園建設断念で思い出す「アグネス論争」

 「保育園落ちた、日本死ね」と子どもを預けることが出来ず、仕事を辞めた母親がブログに怒りをぶつけたことでクローズアップされた待機児童問題。千葉県市川市では保育園の建設が、近隣住民の反対によって断念され改めて議論になっています。
 保育園反対の主な理由は、「道路が狭いので人通りが多くなると事故の心配が増えるから」と「子供の声でうるさくなる」というもの。
 毎日新聞によると、2012年以降、全国では近隣の反対で11箇所の保育園の建設が中止になり、15箇所が開園遅れになったといいます。

 このようなニュースを読むたびに、私は29年前の「アグネス論争」を思い出します。
 私が長男を仕事場に同行したことで巻き起こった「アグネスの子連れ論争」。
 「働きたいなら子供は諦めるべき」「子育てをしたいなら、仕事はやめなさい」「両方やりたいなんて欲張り過ぎる」と思いがけない批判をあびました。仕事と子育ての両立に関しては、家庭を諦めたキャリアウーマンからも、仕事を諦めた専業主婦からも不満が噴出。「アグネス論争」は女性の人生の選択肢が極めて限られている現実を社会にはっきり提示するきっかけになりました。

 当時は今なら大問題になるような発言が、平気で行なわれていました。「自分の子は宝だけれど、他人の子はただのガキだ」と言う人や、「人には子供が嫌いだと言う権利がある」と「嫌児権」を主張する文化人さえいました。
 マスコミによる私個人に対する誹謗中傷は日増しにエスカレートし、最後には「子供と一緒に死ね」「シナ人は日本から出ていけ」「月の出ない日もあるんだから、子供に気をつけろ」という脅迫文まで届きました。2年以上続いた「アグネス論争」。その間私も、ずいぶん傷つきましたが、世間の母親たちもこの「嫌児権」の雰囲気に怯え、ひどく傷ついたと思います。
 一方で「働く人の背中には必ず子どもがいるのだから」と、子連れ出勤を前向きに擁護する意見もあり、「アグネス論争」が「男女雇用機会均等法」成立後の育児環境の整備にひと役買ったことも事実です。

 それから約30年。
 今では私が国会で参考人として主張した「企業内保育所」は全国で5000ヵ所以上出来、子育て支援の輪は広がってきています。
 そんな中で、保育園を敬遠するような意見があるのだとすれば、極めて残念です。

 高齢者が静かな環境で暮したいという願いは良くわかります。しかし、日本が安い医療や、安全な生活環境を国民に提供出来るのは、税金を払っている若者や子育て世代のおかげでもあるのです。
 人間は持ちつ持たれつ、「お互い様!」という広い心を持って生活するのが日本の美徳です。
 それを実行していかなければ、政府がどんなに「一億総活躍社会」とか「女性が輝く日本」などという旗印を掲げても、その実現は不可能です。

 長男が赤ちゃんの時、新幹線の車内で泣き出した時のことを思い出します。
 新米ママの私が慌てていると、急に赤ちゃんが泣き止み、笑い出したのです。
 振り向いてみると、知らないおじさんが「いないいないばー」と面白い顔を作ってくれていました。
 おかげさまで赤ちゃんはご機嫌になりました。
 感謝の気持ちでいっぱいで、「ありがとうございます」と言いながら、私が泣きそうになっていました。
 その時受けた優しさを、私は一生忘れません。

 子供を連れているお母さんたちは、みんな心細いし、大変です。
 今度は、すでに子育てが終わった私達の世代が、若い母親や父親に温かい目を向ける番です。
 ほんの小さな思いやりや親切が、親たちを励まし、社会の温かい雰囲気を作っていきます。

 私の家の前は、以前は児童館でした。放課後になると子供たちがやってきて、遊び声が聞こえました。
 子ども達の声は、私には心をなごませてくれる楽しい音でした。
 今、その児童館は保育園になり、朝早くから親に連れられてたくさんの赤ちゃんや児童がやってきます。
 前面道路が狭いので、子供たちを最優先にして、みんなでゆずり合って生活しています。
 そのおかげで近所の挨拶も増え、笑顔も増えました。

 今、政府は40万人の待機児童解消プランの作成や、保育士の給料アップなど、子どもを産み育てやすい社会の実現に向けた対策を急いでいます。
 しかし、政策があっても、地域の理解がなければ意味がありません。
 いろんな地域でそれぞれ事情が違うと思いますが、
 しっかり騒音対策や安全対策をした上で、地域で、保育園の建設を是非受け入れていただきたいものです。

 そのために行政が住民に丁寧な説明を行なうのは当然のことです。
 世界中に子供を嫌う権利なんて存在しません。
 子供には、生きる権利、守られる権利、成長する権利、そして参加する権利があるのです。
 自分の権利を守る前に、子供の権利を守る。それが大人としての責任だと思います。

■Agnes M Chan(教育学博士)
1955年香港生まれ。本名金子陳美齢。72年日本で歌手デビューしトップアイドルに。上智大学を経て、トロント大学(社会児童心理学)を卒業。94年米スタンフォード大学教育学博士号取得。98年日本ユニセフ協会大使。2016年ユニセフ・アジア親善大使。

最終更新:5月17日(火)12時0分

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