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園子温、暴力の果てに見えるもの

dmenu映画 5月18日(水)18時0分配信

園子温監督の最新映画『ひそひそ星』の公開が5月14日より新宿シネマカリテ他にて全国ロードショーされます。同日には、園監督自身に迫った大島新監督によるドキュメンタリー映画『園子温という生きもの』も公開予定で、今年の邦画界はまた園監督が話題をさらっていきそうです。『冷たい熱帯魚』をはじめ激しい暴力描写で知られる園監督ですが、今回の『ひそひそ星』は、とても静かな作品のよう。死や狂騒の果てに園監督が表現するものとは…?

新作を毎年公開する売れっ子作家

かつては知る人ぞ知るカルト的存在だった園監督でしたが、本格的にその名前を世間に知らしめるきっかけとなった作品が、R18+指定で2010年に公開された『冷たい熱帯魚』です。埼玉愛犬家連続殺人事件をもとにした物語で、小さな熱帯魚店の店主・社本信行(吹越満)が、儲け話を持ちかけてきた大型熱帯魚店の店主・村田幸雄(でんでん)夫婦の異常なビジネスに巻き込まれていくサスペンス。死体を小刻みに解体していく血みどろのシーンなど、気分が悪くなるようなエログロ描写が満載の過激な作品でしたが、園監督とでんでんは国内の各映画賞を総なめにし、海外からも高い評価を受けました。

一躍人気監督となった園監督は、以降毎年1作以上のペースで新作を発表するようになります。東日本大震災を扱った『ヒミズ』や『希望の国』、ヤクザコメディ『地獄でなぜ悪い』、前代未聞のラップ・ミュージカル『TOKYO TRIBE』、興行収入13.3億円を記録し映画好き以外の層からも支持された『新宿スワン』と話題作を発表していき、いまや知る人ぞ知る存在ところか、誰でも知っている有名監督の仲間入りを果たしています。

構想25年、独立プロ制作の最新作

園監督の作品と聞くと、多くの人が“エログロ”や“ブラックコメディ”のイメージを思い浮かべるでしょう。そんな人たちが園監督が監督・脚本・プロデュースを担当した最新作『ひそひそ星』の予告映像を見たら驚くはず。だってとても静かな作品なのですから。

人間が絶滅種となった宇宙で、アンドロイドの鈴木洋子“マシンナンバー722”(神楽坂恵)は、星々をめぐり人間に荷物を届ける宇宙宅配便の配達員の仕事をしている。人間たちに届ける荷物は、帽子やエンピツ、洋服といった一見つまらないものばかりだが、誰もがとても大切そうに荷物を引き取っていく。そして30デシベル以上の音を立てると人間が死ぬ恐れがあるという“ひそひそ星”にも洋子は荷物を届けに行く――。

『ひそひそ星』は構想25年をかけて生まれ、園監督の独立プロダクションで制作された意欲作です。“ひそひそ”とささやくようなセリフ回しに、モノクロームの映像。園監督作品ではおなじみの年齢指定も今回はありません。

なんだか新境地を開拓したようですが、園監督は映画監督として世に知られるようになるはるか前、17歳で詩人デビューをしており、「ジーパンをはいた朔太郎」と注目された過去をもちます。つまり、まるでおとぎ話のような本作のポエジーは、実は原点回帰ともいえるものなのです。またファンタジー調の作品ではありますが、滅びゆく人類というコンセプトの通り、物語には濃厚な死の香りがつきまといます。『ひそひそ星』では、絶望と隣り合わせた人間の狂騒を描き続けてきた園監督が、ついに“死”や“滅び”そのものを描こうとしているのかもしれません。人類が激減して平和が訪れた宇宙は、これまで表現してきた“暴力”の行き着く果てなのでしょう。

園監督は『ひそひそ星』について、「死と隣り合わせに生きる全ての人間に対しての祈りの映画」と語っています。人間の暗黒面を描いてきた園監督が人間に捧げる祈りとは、果たして?

(文/原田美紗@HEW)

最終更新:5月18日(水)18時0分

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