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ロッキード事件、米陰謀説は本当か?

ニュースソクラ 5月19日(木)18時1分配信

【またも角栄ブーム(中)】三木首相が政権延命に利用

 40年前の1976年7月27日、東京地検が前首相の田中角栄を逮捕した。ロッキード社製の機種選定にからみ5億円を受け取ったとされるが、米国によって仕組まれた「陰謀説」がくすぶってきた。そうなのか?

 角栄自身、「はめられた」と思っていたようだ。中曽根康弘元首相も20年ほど前に、こう語っている。   
 「田中君は、国産石油、日の丸原油を採るといってメジャーを刺激したんですね。(中略)それがアメリカの琴線に触れたのではないかと思います。世界を支配している石油メジャーの力は絶大ですからね」(「天地有情―五十年の戦後政治を語る」文芸春秋社)

 筆者は、田中政権時代に運輸省(国交省)を担当し航空行政も守備範囲だった。後に、司法担当として田中裁判一審の途中から判決にいたるまでを取材した。その立場から、陰謀説には懐疑的だ。

 事件の発覚は76年2月の米上院外交委多国籍企業小委(チャーチ委員会)の公聴会。ロッキード社の海外での不正な売り込み工作が、暴露された。

 日本への約1000万ドル(当時のレートで約30億円)の資金の流れや、工作に関わった右翼の大物・児玉誉士夫、政商・小佐野賢治、丸紅の役員らの名が出た。

 だが、暴かれた不正工作の対象国は、イタリア、トルコ、西ドイツ、オランダ、ヨルダン、メキシコなど世界の十数カ国に及び、最初に逮捕者が出たのはイタリアだった。オランダのユリアナ女王の夫君のベルンハルト殿下ら、各国の要人の疑惑が噴出した。

 米国が、日本の前首相を陥れるため、同盟国や友好国のVIPまで巻き込んだとは考えにくい。角栄の石油外交は、73年10月に起きた石油危機(石油輸出国機構=OPECによる供給制限)への対応で、メジャーの敵は、日本より産油国カルテルの方だろう。

 米政権も揺らいでいた。田中退陣の4ヶ月前の74年8月、ニクソン大統領がウォーター・ゲート事件(大統領再選への不正工作)で議会に弾劾されそうになり辞任。副大統領から昇格したフォード大統領は、その後始末に追われ、75年4月にはサイゴン(現ホーチミン)陥落という米国の威信を失墜させる事件もあった。CIA(米中央情報局)といえども、日本向けの陰謀まで手がまわらなかったはずだ。

 なぜ日本の捜査当局だけが、前首相逮捕まで行き着けたのか。自民党内で退陣圧力を受けていた三木武夫首相が、政権延命のために政敵を追い落とす手段として事件を活用したことが大きい。特使派遣や日米首脳会談での捜査協力要請など、あらゆる手を使った。

 司法も、政権やメディア・世論の支持を背に、ロ社幹部に不起訴を保障して米国での嘱託尋問を実現するなど“前のめり”ともいえる対応をみせた。

 では、陰謀を示唆した中曽根発言は? 中曽根は田中政権ではエネルギー政策を担当する通産相だった。最初に名が出た児玉に近い政治家と見なされ、野党から証人喚問要求も出た。ロ事件には、角栄同様の被害者意識があり、あの発言になったと筆者は推測する。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:5月19日(木)18時1分

ニュースソクラ

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