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G7伊勢志摩サミットに集う欧州首脳の胸中-協調的財政出動が困難なそれぞれの事情-

ZUU online 5月20日(金)19時20分配信

■要旨

G7伊勢志摩サミットでは機動的財政出動での合意が見込まれるが、財政ルールへの適合状況、政治サイクル、景気認識の差が制約要因となるため、欧州諸国の新たな協調的行動にはあまりを期待できない。

イタリアは政府債務残高の水準が高いため、EUのルールで財政出動の余地が制限されている。レンツィ首相の構造改革の取り組みが評価され、中期財政目標からの一時的逸脱は認められたが、17年には健全化措置の上積みを要する。

フランスは歳出削減を中心とする過剰な財政赤字の削減プロセスにある。オランド大統領は、17年4月の大統領選挙を控え、高失業解消の切り札として労働改革関連法案の制定を進める。支持母体の労働組合の反発は強く、全土でデモが繰り広げられている。

英国のキャメロン首相はおよそ1カ月後にEU残留か離脱かを問う国民投票を控えて国際的な政策協調を検討する余裕に乏しい。経常赤字が高水準であり、国民投票が離脱多数となった場合には、資本が流出、経済が下振れ、財政にも悪影響が及ぶおそれがある。

ドイツは、財政面では余裕があるが、経済は底固く、財政政策の活用に対する慎重なスタンスは当面変わらないだろう。難民関連支出の増加もあり、財政は十分に拡張的という認識だ。17年秋に総選挙を控え、難民危機対策では深い悩みを抱える。

■はじめに

6月23日に英国で実施される欧州連合(EU)への残留か離脱かを問う国民投票まで残すところ1カ月余りとなった。

国民投票のキャンペーンは4月15日にスタートし、折り返し地点に差し掛かった。英国政府や国際機関は英国のEU離脱(BREXIT)は多大な経済的コストを伴うと警鐘を鳴らし、主要国首脳も残留支持の立場だ。それでも、世論調査の残留支持と離脱支持の拮抗は崩れず、BREXITの可能性は、全体の1割余りを占める「態度を決めていない」有権者が握る。先行き不透明感は増している。

以下、本稿では、英国の経済構造を踏まえて、離脱のベネフィットを主張する離脱派と離脱のコストを強調する残留派の論点を点検し、BREXITの可能性と、英国の国民投票の結果がEU、世界経済、日本経済に与える影響について考える。

■伊勢志摩サミットには欧州4カ国首脳とEU大統領、欧州委員会委員長が出席

20~21日の仙台での財務相・中央銀行総裁会議に続き、26~27日には賢島で首脳会議(以下、伊勢志摩サミット)が開催される。

伊勢志摩サミットには、欧州からは、英国、ドイツ、フランス、イタリアの4カ国の首脳とドナルド・トゥスクEU大統領(欧州理事会常任議長)、ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が出席する。

安倍首相は、3月末に米国のオバマ大統領、カナダのトルドー首相と会談、今月初めには欧州機関の本拠地があるベルギーを含む欧州5カ国を訪問、G7として世界経済について強いメッセージを発するため、欧州の首脳らと調整を行った。

■機動的財政政策の大枠では賛成

首相の欧州歴訪に関する一連の公表資料や報道によれば、欧州4カ国の首脳では、イタリア、フランスが機動的財政出動に賛意を示し、歳出削減に積極的に取り組んできた英国、健全財政にこだわりが強いドイツは消極的だったと伝えられている。

それでも、G7の合意文書に「それぞれの国が事情に応じて」「構造改革の加速と合わせて」という但し書き付きであれば、「機動的に財政を出動する」といった表現を盛り込むことを妨げることはないだろう。

ドイツのメルケル首相も「金融政策と財政政策、構造改革を同時に進めていくことが重要」と述べており、財政出動という選択肢を否定した訳ではない。英国のキャメロン首相も、「それぞれの国の事情を反映しつつ」という前提で「金融政策、機動的な財政出動、構造改革をバランスよく協力して進めていくことが重要」という点では賛意を示している。

■財政出動での協調行動を制約する財政ルールへの適合状況、政治サイクル、景気の状況

日本は、伊勢志摩サミットで「ニッポン一億総活躍プラン」を示し、機動的財政政策の具体的行動として、17年4月に予定されている消費増税の再延期を決めるとの観測が流れている。

これに呼応した欧州4カ国からの新たな協調的財政出動については、あまり期待できない。一層の財政拡張には、(1)財政ルールへの適合状況、(2)政治サイクル、(3)景気認識の差が制約要因となるからだ。

■財政出動のニーズが高いイタリア

機動的財政政策について前向きな姿勢を示したとされるフランスとイタリアは、景気という面では財政出動のニーズがある。

特にイタリアの不況は深刻だ。世界金融危機による落ち込みから回復しないまま、ユーロ圏内で債務危機が広がったため、イタリアの景気後退は長期化、15年に入って、ようやくプラス成長を維持できるようになったばかりだ。実質GDPの水準は世界金融危機前の水準をおよそ8%下回っており、失業率は16年3月の時点で11.4%とG7で最も高く、潜在成長率はマイナスに沈んでいる。

フランスは、実質GDPでは世界金融危機前の水準を回復しているが、失業率は10%で、イタリアと同じく、世界金融危機前の水準を大きく上回っている。税・社会保障費の負担や、雇用関連の規制も含めたコストの高さが、雇用の創出を妨げている。

両国の財政出動には、財政ルールへの適合状況が制約要因となっている。フランスは、財政赤字の対名目GDP比が15年も3.5%とEUの過剰な財政赤字の基準値である同3%を超えており(表紙図表参照)、17年を期限に財政赤字を基準値以内に引き下げるプロセスにある。主に歳出の削減を通じた目標の達成を求められている。

イタリアは、財政赤字は同2.6%で基準値以内だが、政府債務残高は同132.7%と基準値の60%から大きく乖離している。ユーロ危機を教訓として強化された新たな財政健全化ルールでは、一定のペースで過剰な債務の圧縮に取り組むことが義務付けられている。ユーロ参加国は、毎年春に欧州委員会に提出する構造改革計画と中期財政計画を提出、計画と中期財政目標(MTO)との整合性のチェックを受ける。

■レンツィ首相は構造改革の推進で財政余地を引き出す

イタリアのレンツィ首相は、長期に亘る景気後退に歯止めを掛けるため、2014年2月の就任以来、構造改革を推進する一方で、財政ルールに整合的な形での積極財政を追求してきた。

2015年には解雇規制の緩和などの包括的労働市場改革が実施され、銀行システムの問題にも協同組合銀行の株式会社化による再編促進や、長期不況で膨らんだ不良債権処理加速のため証券化の枠組み作りや破綻法制の改革などに着手した。政治の不安定さを招き、規制改革加速の妨げとなった議会制度の改革にも着手、今年7月には新たな下院選挙法が施行、秋には上院の権限縮小のための憲法改正のための国民投票が行なわれる見通しとなっている。

財政面では、EUの欧州委員会に、将来の成長につながる公共投資や構造改革に関連する支出についてはMTOからの一時的な逸脱を認める「例外規定」の適用を求めてきた。

「例外規定」は、財政ルールが厳しすぎて、成長のために必要な公共投資や、構造改革の効果を高めるために必要な政府支出を妨げ、潜在成長率の回復、ひいては政府債務残高の安定化を疎外する悪循環を回避するためのものだが、濫用すれば、大国の財政ルール違反を許容し続けた結果、周辺国の財政危機を招いた教訓を生かせず、危機の再発を許すおそれがある。

こうしたジレンマを抱えながら、5月18日、EUの欧州委員会は、イタリアの中期財政計画のMTOへの適合性の審査結果を公表した。イタリアの計画は、MTOが求めるGDP比0.5%相当の財政健全化の目標に達していないが、公共投資や構造改革のための支出によるものとして、レンツィ首相の主張を受け入れた。

しかし、欧州委員会は、2017年には少なくとも同0.6%相当の健全化措置を求めてもいる。ルールを厳格に適用すれば発動されることになった罰金などの制裁が回避されたに過ぎない面もある。レンツィ政権は、今後も政策の重点を、構造改革に置かざるを得ない。

■フランスのオランド大統領は大統領選を前に労働法改正で構造的失業解消に挑む

15年に2度のテロ事件が発生したフランスのオランド大統領にとってテロ・治安対策の強化は最優先の課題だ。

経済政策の面では、構造的高失業解消の切り札として労働法改正に力を注いでいる。同法案には、整理解雇の容易化、週35時間の法定労働時間の柔軟化が盛り込まれているため、与党・社会党の支持基盤である労働組合は強く反発、全土でデモが繰り返されている。しかし、企業の雇用の意欲を削ぐ厳しい労働規制の改革がなければ、構造的な失業の解消は困難であり、5月13日に、下院では、内閣信任投票と引き換えという強硬手法で法案を可決した。

フランスは、17年春に5年に1度の大統領選挙を予定する。オランド大統領は、12年の就任当初から支持率低下に悩まされてきたが、5月の最新の世論調査では支持率が16%とさらに落ち込んでいる(*1)。他方、マリーヌ・ルペン党首率いる極右の「国民戦線」が、14年の欧州議会選挙で第1党になり、15年3月の地方行政区画選挙、12月の地方議会選挙の第1回投票でも躍進した。

17年の大統領選挙でも、マリーヌ・ルペン党首が第2回の決戦投票に進む可能性は高い。決戦投票で勝てる中道派の候補として超党派の政治運動の立ち上げ、オランド政権で経済・産業・デジタル相を務めるエマニュエル・マクロン氏や、現ボルドー市長でシラク政権では首相を務めたアラン・ジュッペが注目を集めるなど、オランド大統領は厳しい立場に立たされている。

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1 Les Echos, “L'Observatoire politique" , maiil 2016
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■英国のキャメロン首相は1カ月後の国民投票での残留支持獲得が最優先課題

英国のキャメロン首相は、来月23日にEU残留か離脱かを問う国民投票を控えている。景気認識という面では財政出動の必要性は低く、政治サイクルの面で余裕に乏しい。

英国経済では世界金融危機後の不況が長引いたが、13年に入ってからは前期比年率で2%台半ばの成長が続くようになり、失業率も一気に低下した。足もとは国民投票を控えた不透明感から景気拡大ペースが鈍っている。

国民投票が残留支持多数で終われば、不透明感の払拭から再加速する可能性があるが、離脱多数となれば資本の流出や資本流入の停滞で市場が混乱、景気に急ブレーキが掛かるおそれがある(*2)。現在のキャメロン首相には、国際的な政策協調について検討するような余裕はなく、残留支持獲得のためのキャンペーンに全精力を注ぎたいところだろう。

英国は、EU加盟国だが、ユーロは導入していないため、EUの欧州委員会による事前審査や制裁発動といった厳格化された財政ルールの対象とはなっていない。しかし、キャメロン政権は第一次政権期(2010年5月~)から、EUのルールと整合的な形で、財政ルールを強化し、財政赤字の削減と政府債務残高の安定化に取り組んできた。

その結果、15年度(15年4月~16年3月)の財政赤字は対名目GDP比3.9%でピークの09年度の同10.3%から大きく減っているが、EUの基準値(同3%)を超えている。政府債務残高の対GDP比も増加ペースこそ鈍っているが、未だ増加が続いている。

財政赤字が解消しない一方、経常収支の赤字は15年にG7で最大の5.2%と現行統計開始以来の水準まで膨らんでいる(図表4)。急激な資本流出が経済活動に及ぼすリスクが高いという面からも、財政赤字の削減が求められている。

今年3月16日に公表した16年度予算案では、景気下振れリスクと不確実性の高まりに対応して追加的な歳出削減措置は見送ったものの、従来からの2019年度の財政収支黒字化の目標は維持した。成長に優しい財政健全化、生産性向上を掲げ、インフラ投資などを拡大する方針だ。2020年に標準税率を現在の20%から17%も目指している。

国民投票の結果はこうした財政健全化のシナリオにも大きく影響する。離脱派は、EU離脱のベネフィットの1つとしてEUへの拠出金が節約できるため、財政面での余裕が生まれると主張するが、英国財務省や国際機関等は景気の落ち込みによる歳入減の効果が上回ると試算する。

離脱の影響は、EUとの関係やEU域外との関係についての協定がまとまるまでの期間や内容によって変わるため幅を持って考える必要があるが、短期的には財政悪化要因になると考えられよう。

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(*2)英国の国民投票が離脱支持多数に終わった場合の影響などについては、基礎研レポート2016-05-18「近づく英国の国民投票 経済的コストへの警鐘が相次いでも落ちないEU離脱支持率」をご参照下さい。
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■ドイツは十分に拡張的な財政運営を行なっていると認識。政治的最優先課題は難民対策

ドイツの財政収支は15年も名目GDP比0.7%の黒字、政府債務残高は同71%(表紙図表参照)でEUの基準値を上回っているが、すでに低下トレンドに乗っている。財政収支が黒字の国も、政府債務残高が減少に転じている国もG7ではドイツだけだ。しかも、経常収支の黒字は15年には名目GDPの8.5%に達しており、財貿易の領域ではG7で一人勝ちの様相を呈する。

世界経済の下振れリスク回避のための国際的な政策協調という観点では、余裕のあるドイツの役割が期待される。国際通貨基金(IMF)も、ドイツには「インフラ投資への必要性を効率的に満たす」よう求めている。

しかし、ドイツ政府の財政政策の活用に対する慎重なスタンスは当面は変わらないだろう。新興国の減速など悪材料でも景気は堅調だ。潜在成長率も、他のG7とは異なり、2000年代の平均水準よりも現在の方がむしろ高い。

ECBがユーロ圏全体に照準を合わせて決定する金融政策はドイツのファンダメンタルズに対して著しく緩和的である。シュレーダー政権期(1998年~2005年)に実施した税・社会保障制度の改革によって、国際競争力の強化と雇用促進を目的とする包括的な改革で単位労働コストの割高感を解消した。

単位労働コストで調整した実質実効為替相場はフランス、イタリアとドイツの間には大きな乖離がある(図表6)。ドイツには、ユーロ安の追い風が止む影響も相対的に小さいと思われる。

財政政策に関しては、EUのルールへの抵触が問題となることはないが、昨年の難民の受け入れ急増に合わせて補正予算を組むなど、ドイツとしては十分に「拡張的」という認識もある。

メルケル首相は、仏伊首脳と異なり、景気や国内の雇用への悩みはなく、財政にも余裕があるが、難民危機対策では深い悩みを抱える。ドイツは2017年秋には総選挙を迎えるが、昨年夏以降、40%を超えていた与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)への支持率は10%余り低下している。一般に難民に寛容なドイツ国民の間でも急激かつ大規模な流入への不安が広がり、支持率に影響したものと思われる。

替わって躍進が目立つのが、ユーロ圏からの脱退を唱え、難民受け入れ制限を求める「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。今年3月の州議会選挙で大躍進したAfDの支持率は10%を超える水準まで上昇しており、17年秋の連邦議会選挙でも議席獲得が可能な勢いだ3。

ドイツが率先して進めるEUの難民対策としてはEU域内への流入のコントロールの重要性が増している。地中海を経由したEUへの難民流入は、ギリシャに到着した移民をトルコに送還する合意が発効した3月20日以降、落ち着いてきた。

しかし、トルコ側が、EUが求めたテロ対策法の改正を拒否しており、6月末までのトルコ国民の入国査証(ビザ)免除実現の目処が立たず破談の危機に瀕している。難民危機は終息とは程遠い状況にある。

伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

最終更新:5月20日(金)19時20分

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