ここから本文です

「日本映画に憂いはない」アニメ制作の現場から聞こえてきた声

Movie Walker 5月20日(金)16時0分配信

最近、日本の映画を見て“ワクワク”が感じられない。ネットでは日本映画に対する悪評が並ぶが、実際、そうなのだろうか?そんななか公開される『ガルム・ウォーズ』(5月20日公開)は、スタジオジブリの鈴木敏夫が日本語版プロデューサーを務める事でも話題のSFファンタジー。これまでの日本映画のスタンダードとはかけ離れた作品だ。

【写真を見る】壮大なスケールで描かれるSFファンタジーだ

監督・押井守のオリジナル脚本にして、製作費20億円、撮影はすべてカナダロケ。そんな異例のスケールによる本作に日本映画を変えるヒントがあるのでは?そう感じて関係者に話を聞いてみると、「日本の映画界は悲観するような状況ではない」という意外な答えが返ってきた。では、この答えの裏にある真意とはなんなのだろう?

■ 『アバター』を先取りしていた押井守の企画「ガルム戦記」

「アニメーションでも、実写でもない、誰も観たことのない映画を撮りたい。押井監督は本気でそう考え、デジタル技術が今日ほど進化していなかった90年代に挑戦を開始したんです」と語ってくれたのは、本作で鈴木敏夫プロデューサーの補佐に立った、映画プロデューサーの石井朋彦氏。

『ガルム・ウォーズ』は、90年代半ば、押井監督が『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』公開直後から構想していた幻の企画「ガルム戦記」が、15年の歳月を経て具現化した作品だ。諸般の事情で当時、製作が凍結。その構想は、09年に公開され、世界中に衝撃を与えたジェームズ・キャメロン監督の『アバター』が実現した映像を先取りしていたと言えるものだった。

石井氏は当時、Production I.Gで仕事を共にしていた押井監督と『アバター』を鑑賞。「映画を観終えた後、押井さんが『ガルムでやりたかった事をやられてしまった』と悔しがっていたことを思い出します」と語る。もし、「ガルム戦記」が完成していたら、日本映画界に大きな変革をもたらしていたかもしれない。

■ 企画実現を支えた、鈴木敏夫、Production I.G社長ら“戦友たち”

『ガルム・ウォーズ』の制作は一筋縄ではいかなかったという。諦めることなく企画の具現化をのぞんだ押井監督の想いに応えたのは、押井監督と長年タッグを組んできたProduction I.Gの石川光久社長だった。壮大なファンタジー作品を、日本映画の制作費で作る事は難しい。石川氏は、海外での映画制作をサポートする「タックス・クレジット」に注目し、制作開始にこぎ着ける。ところがカナダへ渡ったものの、現地では様々な問題が噴出し、一時は撮影が中止される事態に追い込まれる。現場に乗り込んだ石川氏が、億単位の資金を投入する英断を下し、映画は完成したのだ。

全世界での公開に続き、日本での公開を実現するため、石川氏は押井監督とは旧知の仲であるスタジオジブリの鈴木敏夫氏に日本語版のプロデュースを依頼。鈴木は、押井監督が描こうとしたメッセージやストーリーを変える事なく、英語で撮られた本作を、日本語吹替版で公開する事を提案する。

「押井さん、鈴木さん、石川さんの関係性は、長い戦いを共にしてきた戦友のような関係。損得勘定はないんです。押井さんの長年の想いを実現するために、多くの仲間が集まった」。石井氏が語るこの言葉に『ガルム・ウォーズ』という異例な作品が製作・日本公開できた理由が集約されていた。

■ 「現場で戦い続ける宮崎駿」と「若手監督の成長」に感じる“日本映画の可能性”

「先日、宮崎駿監督がこう言っていました。『とりあえずやってみる。できたら、うれしい。できなかったら、忘れる。そしてまたやってみる』。押井さんや鈴木さんや宮崎さん、多くの先達が、未だに現場で戦い続けている。そんな姿を見て、今の日本映画界を憂うなんて、出来ないですよね」。

アニメーション業界では、若い監督の成長も目覚ましい。「宮崎監督の新作短編のディレクターを務めた櫻木優平や、『アニメ(ーター)見本市』で頭角を現したスタジオカラーの吉崎響、『スマイルプリキュア!』の大塚隆史、Production I.Gの塩谷直義など、才能にあふれる次世代がたくさんいる。『映画はもう終わった』と言われた時代こそ、新たな表現や才能が生まれてきた。今こそ、そういう時期なのではないでしょうか」。

石井氏から次々に明かされる制作の現場に漂う空気感は、意外にも、閉塞感どころかむしろ「右肩あがりの明るい未来」。その迷いのない前向きな言葉が、なんとも心強く感じられた。【取材・文/トライワークス】

最終更新:5月20日(金)16時0分

Movie Walker

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。