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中国の圧力? WHOが奇妙な招待状

ニュースソクラ 5月23日(月)13時30分配信

8年ぶり政権交代 台湾の蔡新総統、「一つの中国」に触れず

 台湾で政権交代が行われ、20日新総統に民主進歩党(民進党)の蔡英文氏が就任した。焦点はこの日の就任演説で、蔡氏が、中国との関係をどう表現するか、だった。

 中国は、中国と台湾が不可分の領土であるという「1つの中国」原則を受け入れるよう求めているが、民進党は、前政権の国民党との違いを際立たせるため、この原則を受け入れず、現状維持の姿勢を取っているためだ。この日の演説でも蔡氏は「1つの中国」という用語を1度も使わなかった。今後、中台間の緊張が高まる場面も予想される。

 関係筋によると、蔡氏の演説内容は直前まで調整が続けられていた。

 中台間には、1992年に双方が「1つの中国」で合意したとされる「92年合意」があり、この扱いでしばしばあつれきが生まれる。

 事前には、蔡氏が「92年合意」には直接触れなくとも、「1つの中国」を事実上認める、何らからの表現が盛り込まれる方向で進んでいるとの見方が出ていた。この内容なら納得できると、中国側も台湾側に伝えていたという。

 この日の就任式は、台北の総統府前で行われた。蔡氏は白いスーツ姿でマイクの前に立った。そして「民主的な選挙で3度目となる台湾の政権交代を実現した」と宣言した。

 「92年合意」について蔡氏は、この年に中台が会談した「歴史的事実は尊重する」と微妙な表現をしたものの、「92年合意」や「1つの中国」については全く触れなかった。

 中台関係に詳しい凌星光・元福井県立大学教授は「中国は民進党の立場も一定の理解をしているので、この演説だけを問題視することはないだろう」と見る。民進党は台湾独立を党の基本方針としており、もともと92年合意を否定しているからだ。

 ただ「もし蔡氏が、今後も1つの中国の原則を無視続けるようなら、中国は外交、経済面で締め付けてくるはずだ」と話す。

 その1つが、台湾の国際機関での活動だ。今月23日から28日まで台湾で行われる第69回世界保健機関(WHO)の年次総会(WHA)事務局から台湾政府に送られた招待状が、他の参加国に比べ大幅に遅れて到着し、しかも異例な内容だったため、台湾で大きな問題となった。
 
 招待状は、「『一つの中国』原則を反映して、『チャイニーズ台北』を、オブザーバーとして総会に招待します」とあった。

 過去の招待状にこういう文言はなかった。このため、蔡英文総統の就任をにらんで、中国が圧力をかけたと現地で報道された。台湾の出方次第では、今後WHOなど国際機関での活動が制限されることも予想される。
 
 経済的にも圧力がかかる可能性がある。筆者は今年3月末に台湾に行ったが、故宮博物館などの主な観光地はどこも中国大陸からの観光客で占められ、中国人の落とすお金が大きな観光収入源になっていることを実感した。

 2015年に大陸から台湾を訪れた人の数は前年比7.73%増の延べ435万7500人にのぼるという。

 ところが3月には中国からの観光客が前月比10%減の36万3878人に留まった。中国政府が、台湾への観光旅行客数を制限しているとの見方も出ている。観光客減は、台湾経済への直接の打撃になりそうだ。

 日本政府は、中国と距離を置いている蔡英文総統を「対中国シフト」の仲間として歓迎している。菅義偉官房長官は20日の定例記者会見で、「新総統の就任を歓迎する。わが国と基本的価値観共有する、緊密な経済パートナーであり友人だ。台湾との関係を維持していき、さらなる交流を図る」と述べた。

 「基本的価値観を共有する」は、隣国韓国にも使わないフレーズで、いかに台湾を重視しているかが分かる。今後も密接な交流を維持すると思われるが、中国側が神経を尖らすのは間違いない。

■五味洋治 ジャーナリスト
1958年7月26日生まれ。長野県茅野市出身。実家は、標高700メートルの場所にある。現在は埼玉県さいたま市在住。早大卒業後、新聞社から韓国と中国に派遣され、万年情報不足の北朝鮮情勢の取材にのめりこんだ。2012年には、北朝鮮の故金正日総書記の長男正男氏とのインタビューやメールをまとめて本にしたが、現在は連絡が途絶えている。最近は、中国、台湾、香港と関心を広げ、現地にたびたび足を運んでいる。

最終更新:5月23日(月)13時30分

ニュースソクラ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。