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パネルディスカッション「金融機関はフィンテックをどうとらえ、取り組むべきか」

ZUU online 5月25日(水)19時10分配信

FinTechに関する国内外のニュース、金融機関の取り組み、業界の人材ニーズ、スタートアップ企業紹介などフィンテックに関するあらゆる情報を報じているWebメディア「FinTech online」の公開記念イベントが5月17日、東京・茅場町で開かれ、金融機関のフィンテック担当者を中心に約50人が訪れた。

パネルディスカッション「FinTechを活用した金融機関の未来像」も行われ、専門家5人が登壇。増島雅和氏(森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士、Finovators代表理事)、瀧俊雄氏(マネーフォワード取締役兼FinTech研究所長)、藤井達人氏(三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部シニアアナリスト)、阿部展久氏(みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)インキュベーションPT長)、冨田和成氏(ZUU社長兼CEO)が、昨今の状況や金融機関が今後どのように対応していくべきなのか――といったテーマについて議論を交わした。

会場はCAFE SALVADOR BUSINESS SALON。日本を代表する金融街・日本橋兜町、茅場町に、新たにFinTech企業や人材が集まることができる場所をつくるべく、平和不動産が新たにつくったスポットだ。

■2040年のバンキングを見通して

冒頭、昨今の「ブーム」とも言えるFinTechを取り巻く現状についての感想を求められた瀧氏は「FinTechプレイヤーにはフォローの風が吹いている」と述べた上で、金融機関も短期的な視点だけでなく長期を見通した取り組みをすべきと指摘。「2040年のバンキングを考えれば、今取り組んでいることだけが課題ではない」と述べるなど、現状を直視しつつも、将来像を描き、そこからの逆算で今やるべきことを考え、取り組むべきであるとの考えを披露した。

金融庁監督局への出向経験を持ち、IMFの金融安定査定プログラム外部顧問を務めた経験もある増島氏は、「世界金融における日本の金融のポジション」という視点を持って見ていると述べたほか、金融はひとつの産業であると同時に全産業のインフラであるという点を強調した。

冨田氏は昨今の業界の盛り上がりについて触れた後、現状のFinTechビジネスで収益化できているのがtoBのビジネスで、toCのビジネスはまだまだとの認識を示した。

■「FinTechは銀行を破壊する」?

経済メディアでは「FinTechは銀行を破壊する」といった形容をされることがある。

この点について三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の藤井氏は、「破壊というより協働だと思う」との返答。カスタマーセントリック(顧客中心)であることはデジタル、ネット業界では当たり前だが、金融機関ではいまだそうではないところが多いことを指摘した上で、「金融機関の競争相手は金融機関ではなくなりつつある」などと述べた。

さらにFinTechスタートアップを「これまで金融機関の商品やサービスが届いていなかった人たちに届ける存在」と位置付け、「そう遠くない将来、金融機関にとって本当の競合相手になる可能性はある」と述べた。しかし先述したように藤井氏は「破壊ではなく協働」という考えを持っているだけに、業界の将来について悲観論に立ってはいない。

みずほFGの阿部氏は、FinTech onlineでインタビュー記事に掲載された山田大介執行役常務の言葉を紹介。「FinTechで実現したいことはたくさんあるが、必ずしも“テック”でなくてもいいという立場。たしかにテックを使ったほうが早く効率的なケースが多いが、テックを使うことそのものが目的ではない」と述べるなど同グループの基本的な姿勢を示した。

この命題に対して、金融機関ではなくプレイヤーとしてのコメントを求められた瀧氏は「理想的な金融サービスの条件は、安心して子育てできる、安心して働けること」としたうえで、銀行業務の分化が進むことを指摘した。

MUFGの藤井氏も、「銀行もデジタル世界のAPIエコノミーに参画していく必要がある」と述べ、銀行API提供についても可能性があると話した。またブロックチェーンの持つ可能性と影響力についても触れ、「(政府や中央銀行といった)中央集権の機関なしに物事が決められていく社会を実現しようという動きが出てきている」と述べ、「そうした社会の中で、今後はよりディスラプティブ(破壊的)なことがスタートアップから起こる」と話した。

これを受けて増島氏は、「非金融の各分野でインターネットを用いた「分散化」が進む中で、金融業界だけ中央集権であり続けるとの仮説は不合理であり、モデルの転換が必要。他方で銀行は、社会を支えるインフラ業務を担っており、ここは銀行が「銀行」であるうえでのコア機能なのでディスラプトできない」と説明。金融機関が何をすべきかについては「今後自ずと見えてくるはずだが、単なる目利きやコンサルティングではなく、第四次産業革命後の新しいパラダイムのなかでの金融インフラまたはプラットフォームとなるべく、より主体的に動くべき」とし、さらに「業務範囲規制は普遍的なものではなく、リスクへの対処方法として生み出された制度にすぎない。銀行のあり方の変遷に応じて変えてもよい仕組みだ」などと具体的に提案した。

■不安をなくすには可視化を 消費者の0.5歩先を歩こう

ディスカッションの終盤、最後のコメントを求められた瀧氏は、野村證券時代の研究業務を振り返った。人口や出生率というデータから地域の将来が見通せることに触れ、「人口が減る中で、未来に生じるであろう課題が分かってもイージーな解がなく、どうしても暗くなりがち」と解説。その対策として、「不安をなくすためには可視化すること。そしてたとえ暗そうな状態が予想されても、それをそのまま受け止めること。数字に落とし込めるのは、すなわち対処がイメージできることであり、そういうチカラが日本にあると信じている」と話した。

藤井氏は「いいサービス、使われるサービス」は「利用者視点の論理」に立っていると喝破した。(大企業勤務の)サラリーマンがつくると、ブランドを毀損しないか、失敗しないかなどを念入りにチェックするため、つくるまでに疲弊してしまい、リリース後の改善がおろそかになるケースも多い。本来はそこがゼロ地点で、そこからが始まりであるべき」と述べた。また「ハッカソン、アイデアソンといったイベントを小さくてもやってみること」を提案した。

阿部氏は、「各金融機関が、顧客ニーズの無いところに競ってIT投資をするのではなく、改めて顧客に確りと向き合うことによって、FinTech企業も交える形で、本日ここに集まっている各金融機関の方々とも何か一緒にできる世界が有ると思う」と協働を呼びかけた。

最後に冨田氏は、保険業界のトレンドについて言及。ライフネット生命が誕生して支持を一気に集めたものの、その後なかなか伸び悩んでいる中で、「ほけんの窓口」が急成長を遂げたことを引き合いにし、「いいサービス、商品であっても顧客、消費者の目線より先に行き過ぎると使ってもらえない。ほんの少し、0.5歩先を歩くことをめざすべきだと思う」などと述べた。

■会場からも高い評価「他のイベントにはない掘り下げ方だった」

パネルディスカッションのほかには、転職サービス「DODA(デューダ)」を提供するインテリジェンス キャリアディビジョンの執行役員、勝野大氏(人材紹介事業部長)がFinTechが進行することで生じる金融業界の人材面における変化とは?」と題して講演した。また会場のカフェを運営する平和不動産の執行役員、中尾友治氏が「兜町におけるFintechの発展支援策について」と題してスピーチした。

これらのプログラムの後には懇親会が行われ、パネリストや参加者同士での名刺交換が活発に行われた。会場からは「フィンテック関連のイベントには多数参加しているが、内容が他にはない掘り下げ方で参考になった」「メディアという中立的な存在が主催したことで、単なる営業目的ではない好感の持てるイベントだった」といった好意的な評価の声が聞かれた。

イベントの冒頭あいさつで、ZUUがFinTech onlineやFinTech推進支援室を立ち上げた目的について紹介した同社執行役員、同支援室長の一村明博氏は「おかげさまでパネリスト、来場者の皆様に評価していただけるイベントにできたと思う。ZUUとして今後もこうしたイベントを開催して、金融機関のみならず関係者、企業担当者の役に立つ情報配信と機会創出していきたいと思います」と述べた。(FinTech online編集部)

最終更新:5月25日(水)22時45分

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