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福島産農産物に今も残る風評被害

ニュースソクラ 5月25日(水)16時0分配信

「作る人」と「食べる人」の距離を縮められないか

 原発事故の影響に悩む福島県の農業を考える時、食の「安全」と「安心」の間の途方もない距離に立ちすくむ。

 反発を覚悟で「市場で流通する福島産食材は安全だ」と言おう。県によると、15年度(2月末時点)に放射性物質検査を受けた農林水産物2万2514件のうち食品衛生法の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を超えたのは18件で0・08%。原発事故が起きた11年度の3・4%から年々確実に減っている。

 超過例の多くは海産物や野生のキノコ・山菜類で、もちろん流通はしない。コメは全袋検査が行われ、15年産米は超過ゼロ。大半は検出限界値以下である。

 産地では懸命の努力が続く。避難指示区域を除く農地の除染はほぼ終わり、放射性物質の吸収を抑えるカリ肥料が投入される。果樹は樹皮からの吸収が多いため高圧洗浄し、場合によっては改植する。こうした対策が取られず検査もしていない他県産食材の方が危ないという人もいる。

 一方、今年2月に消費者庁が行った意識調査では、15・7%の消費者が「福島県産食品の購入をためらう」と回答。3年前の調査より3・7ポイント下がったが、検査が行われていることを知らない人は逆に14・3ポイント増えて36・7%になった。「風化」が進んでも「風評」は根強いという構図である。

 福島県が実施したコメ流通業者のアンケートでは、原発事故前には卸の60%、小売りの73%が福島米を「高品質・良食味」と評価していたが、12年以降はそれぞれ16%、29%に減少。逆に「値ごろ感がある・産地表示しないブレンド用」が58%、45%に急増した。

 つまり福島米は中・外食向けや安いブレンド米に回り「不可視化」された。首都圏のスーパーで探しても、福島産と表示されたコメ袋はほとんどない。図に示すようにコメ余り局面には、他県産より大きく値下がりする。福島米を買わなくても安いコメが簡単に手に入るからだ。

 他の農産物も似たような状況だ。取引量は回復しても価格が戻らなかったり、その逆だったりとさまざまだが、何らかの影響が残る品目がほとんどだ。

 日本農業新聞が3月11日付の紙面でまとめた独自調査では、青果卸の9割が「今も風評被害はある」と答えた。記事には「(スーパーなどの)バイヤーは売りたくても、クレームを恐れて扱わない」という談話が紹介されている。「風評はまだある」と皆が思えば、風評被害は続く。

 脱原発論者の中には「風評被害」という言い方自体を批判する人がいる。「消費者が加害者にされ、本来の加害者である国や東京電力が免罪される」というのだ。そういう人々は検査結果も信用せず、福島の農家に「お前らは殺人者だ」などとメールを送ったりする。加害―被害の関係が錯綜し、不毛な対立が再生産されていく。

 半面、原発事故前よりネット産直の売り上げが増えたという農家もいる。作物が売れなくなった苦境をブログでつづったところ、それを読んだ大勢の人が「食べて応援したい」と申し込んだのだ。それを契機に消費者との体験交流事業も始まった。その農家は「顔の見える関係に風評被害はない」と語る。

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や高齢化による担い手の減少で日本農業は厳しい状況だ。だが、農業を守る手段は補助金や関税ばかりではない。「作る人」と「食べる人」が互いのことを理解し、共感をもってつながれば、農業はもっと元気になるのではないか。福島の苦悩から学びたい。

綿本 裕樹 (農業ジャーナリスト)

最終更新:5月25日(水)16時0分

ニュースソクラ

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