ここから本文です

汚染され続ける深海底、鉱山廃棄物を垂れ流し

ニュースソクラ 5月26日(木)16時0分配信

【現代人の「おもいあがり」(2)】深海底からの復讐を恐れよ

 2004年にドイツで長編SF小説、Der Schwarm(原題、フランク・シェツィング作)が出版された。この小説は、ドイツ国内で200万部を超えるベストセラーになり『ダ・ヴィンチ・コード』から首位を奪った。日本では2008年に早川書房から『深海のYrr』と題して翻訳(北川和代訳)が出た。ごく簡単に内容を紹介しておきたい。

 人類が、傲慢にも地球の支配者を気どり、あまりに身勝手に海洋汚染を続けるので、深海底に棲む知的生命体“Yrr”が世界の大陸棚 に生息する無数のゴカイ(Schwarm)に命じて、大陸沿岸部のメタン・ハイドレートを齧って地盤沈下させ、発生した大津波で沿海の大都市を壊滅的な打撃を与える。

 それだけでなく、病原菌を植え付けたカニ、猛毒のクラゲを大量に発生させる。そしてシャチやクジラによるらしい船舶の謎の海難事故も多発する。母なる海に何が起きたのかと世界はパニック状態。アメリカ政府は例によって傲慢にも力でYrrを殲滅しようとするが失敗する。最後は、良識ある善良な科学者が、Yrrをなだめることに成功し、人類は平和をとり戻す。といったお話。

 現実に、人間はいまも海洋を汚染し続けている。2010年のメキシコ湾、石油掘削リグの爆発による原油流出事故。2015年11月には、ブラジルの鉄鉱石鉱山で発生する廃棄物堆積場のダムが決壊して膨大な量のヘドロが河川に流失し、海まで達して河口域を真っ赤に染めた。こうした海洋汚染は事故だけでなく、鉱山では常時行なっている。

 大規模露天掘り金属鉱山。採掘・選鉱に伴って発生する、重金属や有害化学物質を含む膨大な量のテーリングと呼ばれる微細な砂状の廃棄物が河川を通してあるいはパイプラインで海へ放流されている。

 ちなみに、インドネシア・パプア州にある世界最大の露天掘り金鉱山では、毎年1億6000万トンの鉱石を採掘しているが、金は1トン当たり1グラムしか入っていない。したがって、年に160トンの金をとりだすために廃棄されるテーリングの量は、1億5999万9840トン。銅の場合は、鉱石の中の銅含有量は0.5~0.6%後。

 パプア・ニューギニアの鉱山の例で、鉱石採掘量は年間2500万トン。15万トンの銅精鉱をとり出し、日本などの精錬所へ輸出するため、鉱山では2485万トンのテーリングが発生する。これも、河川に放流し海底に達する。このように、鉱物資源の採掘に伴って発生する廃棄物は想像を絶する膨大な量である。

 汚濁と水質汚染により河川と沿岸海域の漁業は壊滅的影響を受け、海底の生態系は消滅する。筆者がパプア・ニューギニアの銅鉱山一帯をヘリコプターで取材したときのこと、テーリングで河川が埋まり、周囲の熱帯雨林の中に広範囲にオーバーフローして、ヘドロの中から顔だけ出している5~6匹のワニの姿が、いまも印象に残っている。この鉱山はその後、先住民族の暴動で鉱山を占拠され、閉鎖されている。

 製錬されたメタル、レアメタルは、自動車、航空機、PC、スマホ、TV、再生可能エネルギー発電機器、石油精製その他、現代文明の利器をつくるために欠かせないものであると同時に、陸上の自然破壊だけでなく、海洋を汚染するということは、消費者には知られていない。”Out of sight, out of mind” の世界である。

 便利で快適な生活を支えている資源、その産出国の陸と海で深刻な自然破壊が行なわれているという認識が求められる時代になった。技術の“進歩”の代償として人類の生存基盤を破壊しているのだから。人口爆発と世界経済規模の拡大とともに汚染が広がる海洋。地球温暖化による異常気象も海洋と密接に関係している。

 遠い宇宙に対して、ほとんど探査が進んでいない地球最後のフロンティア、深海底。知的生命体が棲んでいないと断言できる人はいないはず。2018年に、人類最初の深海底メタルの商業生産が始まろうとしている。パプア・ニューギニア領海内、水深1600メートルの海底で金・銅・亜鉛を含む熱水鉱床を採掘する計画が、カナダと豪州の鉱山会社によって進んでいる。それだけ、陸上の資源が枯渇してきているということである。

 鉱山会社の名前はノーチラス・ミネラル社。ジューヌ・ベルヌ作のSF冒険小説『海底二万マイル』の海底探検船ノーチラス号からとった社名である。深海底の深刻な生物多様性と生態系破壊が懸念されている。

 2004年12月のスマトラ沖地震、2011年3月の東日本大震災。狂信的な科学技術信仰に対する自然の逆襲か。

■谷口 正次(資源・環境ジャーナリスト)
1938年生。太平洋セメント専務、国連大学ゼロエミッション・フォーラム産業界代表理事、京都大学大学院経済学研究科特任教授を経て、(株)サステナブル・インベスター顧問、NPOものつくり生命文明機構副理事長。ものつくり心塾副塾長。サステナブル日本フォーラム理事。地球システム倫理学会理事
主著は「メタル・ウオーズ」(東洋経済新報社2008年日経BP・BizTech図書賞受賞)、「オーシャン・メタル」(東洋経済新報社2013)、「自然資本経営のすすめ」(東洋経済新報社2014年)ほか多数。

最終更新:5月26日(木)16時0分

ニュースソクラ

いかにして巨大イカを見つけたか
人類は水中撮影を始めたときから巨大イカ(ダイオウイカ)を探し求めてきました。しかしその深海の怪物を見つけることは難しく、今まで撮影に成功したことはありませんでした。海洋学者であり発明家でもあるエディス・ウィダーは、ダイオウイカの初の撮影を可能にした知見とチームワークについて語ります。