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東京のマンション、実はそこまで高くない!?~修正年収倍率による東京マンション市場の分析~

ZUU online 5月27日(金)11時10分配信

■はじめに

東京のマンション価格が高騰している。2015年の東京都の新築マンション価格(*1)は、6,779万円と前年比8.4%上昇した。ミニバブル期のピークである2008年の5,993万円を大幅に上回る水準まで上昇したことなどから、不動産市場の過熱を懸念する声もある。

その一方で、マンション価格上昇を後押しする材料もある。住宅ローン金利の低下だ。代表的な住宅ローン金利であるフラット35借入金利(*2)を見ると、2009年前半には3%程度だったが、その後低下を続け、2016年5月には1.08%と過去最低を更新した。

住宅ローン金利の低下が、住宅取得者の負担を和らげているのは確かだ。では、どのくらい負担軽減の効果があったのだろうか。また、現在の不動産市場をバブルとする主張もあるが、ファンダメンタルズと比較して現在の過熱感は強いのだろうか。本稿では、代表的なファンダメンタルズ指標の一つである年収倍率に、住宅ローンの要素を考慮した上で、東京のマンション市場の分析を行った。

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(*1)不動産経済研究所「首都圏マンション動向」の新築マンション価格を75m2換算(以下、新築マンション価格はマンション価格と呼び、マンション価格は75m2換算する)。
(*2)返済期間21年以上35年以下、融資率9割以下の場合の最低金利(以下、同条件のものをフラット35借入金利と呼ぶ)。
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■年収倍率と修正年収倍率の概要

◆年収倍率の概要

住宅価格のファンダメンタルズ指標の一つに年収倍率がある。下記数式の通り、住宅取得者の年収に対して住宅価格が何倍かを示したものである。年収倍率が高いほど、住宅が買いにくく、住宅価格の割高感が強いことを示す。

年収倍率=平均住宅価格/平均年収

年収倍率の長所は、シンプルでわかりやすいことだ。そのため、メディアで取り上げられることも多い。また政府が1992年の「生活大国5ヵ年計画」において、大都市圏の年収倍率を5倍程度にすることを政策目標に掲げたこともあり、最も身近なファンダメンタルズ指標の一つと言える。

一般に年収倍率は5倍以内が適正と言われることが多いが、その水準だけを見て、ファンダメンタルズからの乖離をはかれるわけではない。例えば東京のマンションの場合、年収倍率は恒常的に5倍を上回るなど、地域毎に差がある。従って、水準だけを見るのではなく、過去の平均やバブルとされた状況と時系列で比較することにより、不動産市場の過熱感をはかることが有効である。

本稿では東京都の方法に倣い、年収倍率を算出した。データ出所は下記の通りである。

 ・平均住宅価格:不動産経済研究所「首都圏マンション動向」の新築マンション価格を75m2換算
 ・平均年収:東京都「東京都生計分析調査報告」の勤労者世帯の実収入

◆修正年収倍率の概要

年収倍率には、住宅ローンに関する要素が含まれていないため、住宅ローン金利低下の影響を捕捉できない。本稿では、年収倍率に住宅ローンの要素を加え、修正年収倍率と呼ぶことにした。修正年収倍率は、下記数式の通り、住宅ローン借入元本と住宅ローン総利息額の和、すなわち住宅ローン総返済額が住宅取得者の年収に対して何倍かを表した指標である。

修正年収倍率=住宅ローン総返済額/平均年収=(住宅ローン借入元本+住宅ローン総利息額)/平均年収

修正年収倍率では、年収倍率の長所である、わかりやすさを損ねないことを重視した。従って、比較的影響の小さい住宅ローンに関する手数料などの要素は考慮に入れていない。住宅ローン総返済額を計算する際の前提は下記の通りである(*3)。

 ・返済期間:30年
 ・借入金利:2003年9月以前=旧公庫融資基準金利、2003年10月以降=フラット35借入金利
 ・返済方法:元利均等返済
 ・頭金:なし

頭金を考慮しないため、住宅ローン借入元本は住宅価格と等しくなる。従って、前述の数式は、下記の通り、置き換えることができる。

修正年収倍率=(平均住宅価格+住宅ローン総利息額)/平均年収

なお前述の前提に基づけば、修正年収倍率と年収に対する年間の元利金返済の比率を表す返済比率(DTI、Debt to Income)の関係は、下記数式の通りとなる。

修正年収倍率=返済比率×返済期間

本稿における返済期間の前提は30年なので、修正年収倍率が30倍であれば返済比率100%、修正年収倍率が10倍であれば返済比率33%を意味する。返済比率30%前後が無理なく住宅購入できる一つの水準とされることを勘案すれば、修正年収倍率10倍程度が住宅市況を判断する上での目安だと言える。但し、年収倍率と同様、修正年収倍率も地域などによって、平均的な水準が異なる。従って、水準だけではなく、過去との比較から、ファンダメンタルズからの乖離をはかることが重要である。

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(*3)・借入期間:30年
 住宅金融支援機構「民間住宅ローンの貸出動向調査」によれば、2014年度の住宅ローン新規貸出における貸出期間は平均25.7年で、貸出期間25年超30年以下が44.0%と最も大きい。従って、借入期間を30年とした。

 ・借入金利:全期間固定金利(フラット35借入金利、旧公庫 基準金利)
 上記調査によれば、借入金利は変動金利型が54.7%と大宗を占め、全期間固定型は5.6%と比較的少ない。但し、効率市場仮説に基づけば、変動金利型の場合も固定金利型の場合も、住宅ローン総利息額は同一となる。従って、データ取得の制約もなく、全期間固定型の中でも知名度が高い、フラット35借入金利を採用した。

 ・返済方法:元利均等返済
 計算の容易さから元利均等を選択した。なお現在の低金利下では、当初返済負担の軽い、元利均等返済を選択する利用者が多いと推察される。

 ・頭金:なし
  わかりやすさを重視するため、頭金は考慮に入れなかった。
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■東京マンション市場の年収倍率と修正年収倍率の分析

東京マンション市場のファンダメンタルズを分析するため、最初に東京都の年収倍率と修正年収倍率を算出した。次に、地域毎の特徴を把握するため、東京都区部(東京23区)と東京都下(多摩地域)にわけて、両倍率を算出(*4)し、分析を行った。

◆東京都の年収倍率と修正年収倍率の推移

2015年の東京都の年収倍率は9.8倍と前年比10.5%上昇した。2013年にミニバブル期のピークである2008年の8.6倍を上回り、2014年は横ばいで推移したものの、2015年はミニバブル期を大幅に上回る水準まで上昇した。バブル期に次ぐ水準まで上昇していることからも、年収倍率だけを見ると、過熱感が強い状況であることがうかがえる。

一方、住宅ローンの要素も考慮に入れると、どのように見え方が変わるのだろうか。2015年の修正年収倍率は12.3倍と前年比7.8%上昇した。足元では上昇しているものの、依然としてミニバブル期のピークである2008年の12.8倍よりは低い。

また2010年以降の平均である11.5倍からの乖離も6.2%と限られ、最小値である2012年の10.9倍からの上昇率も12.9%と、過度な上昇を示しているわけではない。過去数年と比較して高い水準にはあるが、一概にファンダメンタルズから逸脱していると判断できるほどの動きを示してはいない。

2015年に両倍率とも上昇した理由は、所得が伸び悩む中、マンション価格が上昇したことだ。マンション価格は6,779万円と前年比8.4%上昇した一方、平均年収は690万円と前年比1.9%減少している。

なお、価格上昇・所得減少の傾向は2015年に限ったことではない。マンション価格は2000年代前半を底に下値を切り上げているのに対して、平均年収は1990年代前半をピークに減少を続けている。安倍首相が経済界に賃上げを要請するなど、官主導の所得向上に向けた動きは見られる。但し、賃上げも停滞気味で、いまだ底打ちと判断できるほど所得は上昇していない。

一方、年収倍率と修正年収倍率の差は縮小している。これは住宅ローン金利低下が、住宅ローン総返済額を押し下げていることを示している。その押し下げ幅を把握するために、ミニバブル期のピークである2008年からの住宅ローン総返済額の変動要因を確認する。

マンション価格が787万円上昇した一方、住宅ローン総利息額は1,256万円減少(*5)した。その結果、住宅ローン総返済額が469万円減少した。同期間における住宅ローン金利の低下幅は約1.3%である。また住宅ローン総利息額の減少幅はマンション価格の約2割に相当し、住宅ローン金利低下が同程度の値引き効果をもたらしたと見ることもできる。

住宅ローン金利低下による返済負担の軽減は、マンション価格に対する住宅ローン総利息額の比率からも読み取れる。2000年代はマンション価格に対する住宅ローン総利息額は概ね40%から50%の範囲で推移していた。その後、同比率は低下し、2015年には約25%に達した。住宅ローン金利低下による購買力の押し上げの効果は大きく、これまでマンション価格を下支えしてきたことが推察される。

東京都のマンション価格は、過去数年と比較して高い。但し、住宅ローン金利低下による住宅取得者の購買力改善を考慮すれば、不動産バブルと結論付けるのは時期尚早だと言えるのではないだろうか。

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(*4)東京都区部、東京都下の倍率を算出する際も、東京都の平均年収を利用した。
(*5)住宅ローン総利息額の変化には、マンション価格と住宅ローン金利の両者の変動の影響が含まれる。
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◆東京都区部の年収倍率と修正年収倍率の推移

次に東京都区部の年収倍率と修正年収倍率を見る。2015年の年収倍率は10.7倍と前年比15.2%上昇した。ミニバブル期のピークである2007年の9.3倍を上回っており、バブル期に次ぐ水準だ。年収倍率からは、都区部のマンション市場の過熱感は強いと言える。

修正年収倍率は13.4倍と前年比12.4%上昇した。2007年の13.8倍をやや下回る水準だ。また2010年以降の平均である12.3倍からの乖離も9.2%と限定的で、ファンダメンタルズから逸脱した動きとは言えない。但し、2015年同様の上昇が続けば、2016年にはミニバブル期の水準を上回ることからも、注意すべき水準ではある。

2015年の両倍率の主な上昇要因は、マンション価格が上昇していることだ。2015年のマンション価格は7,403万円とミニバブル期を大幅に上回る水準まで上昇した。

また上昇率も前年比13.1%と、2007年の同19.7%以来の高水準だ。直近のボトムからの累積上昇率は23.7%(2009年から2015年)である。ミニバブル期の34.2%(2002年から2007年)には劣るが、過去30年でこれほどの上昇を記録したのは、バブル期とミニバブル期のみである。

安倍政権が発足した2012年末以降、東京都区部のマンション価格は上昇を続けている。その中でも特に好調なのが、超高級マンションや投資用マンションである。それは東京都区部の新築マンションの価格帯別契約率の変化からも読み取れる。

契約率とは、新築マンションが発売された、その月の内に契約に至った割合を表している。契約率が高いほどマンション販売が好調なことを示し、好不調の目安は70%とされる。安倍政権発足前の2011年は中・高価格帯が好調な「への字型」だったが、2015年は低価格帯と超高価格帯が好調な「U字型」となった。

東京都区部で4千万円以下の新築マンションは、1LDKなど比較的小さな物件が多く、投資用として購入されるケースも多い。従って、「U字型」とは、超高級マンションと投資用マンションが特に好調だったと解釈できる。

この主な要因として、アベノミクス相場による資産効果や相続税改正に後押しされた節税対策などが挙げられる。これらの要因もあり、所得が伸び悩んでいるにもかかわらず、東京都区部のマンション価格は上昇した。

マンション価格上昇を背景に足元では修正年収倍率も上昇しているが、依然としてミニバブル期よりは低い水準である。ミニバブル期のピークである2007年からの住宅ローン総返済額の変動要因を見る。

マンション価格は983万円上昇した一方、住宅ローン金利低下を主因に住宅ローン総利息額は1,275万円減少し、住宅ローン総返済額が293万円減少した。同期間における住宅ローン金利の低下幅は約1.3%である。ミニバブル期と比較すると、マンション価格が1千万円近く上昇したにもかかわらず、それ以上に利息負担が減ったため、マンションはむしろ買いやすくなっているのである。

東京都区部のマンション価格上昇には目を見張るものがある。年収倍率はミニバブル期を優に上回っていることから、現在の不動産市場をバブルとする主張も理解できる。一方、住宅ローン金利低下による実質的な値引き効果も大きい。修正年収倍率は、注意すべき水準まで上昇しているが、ミニバブル期の水準を下回っていることからも、一概にファンダメンタルズから乖離した動きと結論付けることはできないだろう。

◆東京都下の年収倍率と修正年収倍率の推移

最後に東京都下の年収倍率と修正年収倍率を確認する。2015年の年収倍率は6.8倍である。前年比2.3%低下したが、ミニバブル期のピークである2008年の6.7倍を上回る水準だ。東京都区部ほどではないが、東京都下についても高値水準にある。

年収倍率からは過熱感がうかがえるものの、住宅ローンを考慮すると、異なる様相を呈する。2015年の修正年収倍率は、8.4倍と前年比4.7%低下した。ミニバブル期のピークである9.9倍を明らかに下回る水準だ。

また2010年以降の平均倍率は8.5倍であり、2015年は平均水準であることがわかる。東京都下のマンションは、修正年収倍率の水準からもモメンタムからも、概ねファンダメンタルズに沿って、安定的に推移していると言える。

東京都下のマンション価格上昇は、東京都区部と比較して落ち着いている。2015年は4,658万円と前年比4.2%低下した。ミニバブル期のピークである2008年の4,643万円を上回っており、価格だけ見れば決して割安な水準ではない。

但し、直近のボトムからの累積上昇率は12.1%(2011年から2015年)と都区部の約半分にとどまる。またミニバブル期のボトムからの累積上昇率31.7%(2002年から2008年)と比較しても、その上昇は穏やかである。

所得が伸び悩んでいるにもかかわらず、東京都下のマンション価格が緩やかに上昇している要因の一つとして、建築コストの上昇が挙げられる。

建築コストは2012年以降、東日本大震災後の建設技能労働者の不足や円安などによる建設資材価格の上昇などを背景に上昇した。2016年に入ってからは、やや反落気味ではあるが、依然高水準である。もちろん東京都区部のマンションも同様に建築コスト上昇の影響は受ける。しかし、東京都下は東京都区部と比較して地価が安いため、マンション価格に占める建築コストの割合が大きく、影響を受けやすい。

東京都下のマンション価格は上昇しているものの、修正年収倍率はミニバブル期を下回る。ミニバブル期のピークである2008年からの住宅ローン総返済額の変動要因を確認する。

マンション価格は15万円上昇と概ね変わらない水準である。一方、住宅ローン金利低下を主因に住宅ローン総利息額が1,120万円減少し、住宅ローン総返済額は1,105万円減少した。東京都下もマンション価格はミニバブル期の水準まで上昇したが、住宅ローン金利低下の影響が大きく、ミニバブル期よりマンションが購入しやすい状況になっている。

東京都下の年収倍率はミニバブル期を上回っていることから、一見すると不動産バブルの懸念が強まっているようにも見える。一方、修正年収倍率を見ると、東京都下のマンション市場はファンダメンタルズに沿って、安定的に推移していることがわかる。マンション価格は上昇しているものの、住宅ローン金利低下が、それ以上に住宅取得者の購買力を押し上げた。

■おわりに

本稿では、年収倍率に住宅ローンの変数を考慮した修正年収倍率を通して、東京のマンション市場を分析した。まず、年収倍率を見ると、東京のマンション市場は、地域を問わず過熱感が強い状況であることがわかる。一方、修正年収倍率からは、そこまでの過熱感はうかがえない。住宅ローン金利低下がもたらした実質的な値下げ効果の影響が大きいからだ。

東京都全体で見た場合や、その中でも東京都区部を見た場合、市場で懸念されているほどの過熱感は見受けられず、一概にバブルと判断できるほどの動きではない。但し、注意すべき水準であることは確かだ。また東京都下の場合は、ファンダメンタルズに沿った動きを示しており、過熱感はない。

住宅取得者の購買力は改善しているが、留意すべき点もある。購買力改善の要因が、住宅取得者の所得向上ではなく、住宅ローン金利低下によるものだということである。

住宅ローン金利は、既に下限近くに達しており、低下余地は限られる。金融面からのマンション価格押し上げは今後期待しづらい。今後、購買力改善の牽引役を、住宅ローン金利低下から所得向上に引き継ぐことができるかが、今後の東京のマンション市場の先行きを占う上で重要になるだろう。

佐久間誠(さくま まこと)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

最終更新:5月27日(金)11時10分

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