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財政健全化と社会資本の老朽化-資産老朽化比率によって問われる真の地方財政健全化

ZUU online 5月31日(火)20時50分配信

■要旨

地方財政健全化法施行後の地方公共団体による財政健全化への取組みは、逆風下でスタートしたものの、健全化判断比率で測られる財政状況は短期間で確実に改善している。

一抹の不安が残るのは、見掛け上の健全化が進んでいても、住民に提供される公共サービスの質の低下と引き換えになされたものならば、真の健全化が果たされたとは言えないことである。おそらく、質の低下が最も見過ごされやすいのは、社会資本ストックの老朽化に伴うものである。

これまでは、社会資本の老朽化を統一的に測る指標がなかったが、新公会計基準による「資産老朽化比率」指標が早ければ今年度、もしくは、来年度から漸次公表される見込みである。真の財政健全化が進んだことを確認する意味でも、新しい公会計基準によって開示される情報への期待は大きい。

■逆風下で進んだ地方公共団体の財政健全化

「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(以後、「地方財政健全化法」と略記)が公布された2007年度は、近年では税収に最も恵まれた年であり、地方財政計画策定時の「地方財政対策」を通じて解消策が講じられた財源不足額(*1)も過去20年余りの間で最も少ない4.4兆円にとどまっていた。

しかし、この状況は翌年度に一変した。地方財政健全化法によって定められた4種類の健全化判断比率(*2)は2008年9月に初めて公表されたが、時を同じくして、リーマン・ブラザースの経営破綻に端を発した金融市場の混乱が世界的な規模に拡大し、日本を含む先進各国は深刻な景気後退に見舞われた。

さらに、2009年度においては、財政状況が著しく悪い地方公共団体への財政健全化計画・財政再生計画の策定義務を課す規定を含めた地方財政健全化法の全面施行が始まったが、奇しくも健全化判断比率が公表された10月に、ギリシャの財政統計の不正が発覚し、市場の信認が失われたことで、その後は周辺国でも国債金利が大幅上昇するところとなった。

この欧州債務危機は対岸の火事にとどまらず、日本に対してもソブリンCDSスプレッドを大幅に押し上げ、さらには国債と地方債の利回り格差を拡大させた。つまり、ギリシャとは特段の関係を持たない日本の地方公共団体であっても、地方債発行のコストが増大したのである。

また、2009年度の日本経済は、リーマンショック後の景気後退によって2008年度に続いてマイナス成長となり、翌2010年度に向けた地方財政対策では、過去最大の18.2兆円という財源不足額を解消するための財源対策が講じられた。

このように、地方財政健全化法施行後の財政健全化への取組みは、逆風下でスタートした。それにもかかわらず、健全化判断比率で測られる地方公共団体の財政は確実に健全化している。なかでも顕著な改善を示したのは、実質的な債務残高を表す「将来負担比率」である。

地方債を中心とする債務残高よりも、積立金残高や「今後の償還に際して国からの財源補填が見込まれる金額(*3)」などの方が大きい地方公共団体は、2007年度時点では全体の1割もなかったが、最新の2014年度決算においては、全地方公共団体の1/3を占めるに至っている。

「今後の償還に際して国からの財源補填が見込まれる金額」は2014年度時点で102兆円もあり、地方交付税算定時のルールに基づいて算定されたものとはいえ、国の財政状況を鑑みれば、仮想的な計算の領域で成り立つ側面は否めない。それでも、グロスの地方債残高がほぼ横ばい状態にあるから、債務残高が抑制されていることは間違いない。

この間、「第3セクター等改革推進債」の発行によって得た資金で、地方公共団体は債務超過状態にあった土地開発公社や第3セクター法人の解散・清算を進め、実質的に自らの債務へと振り替えているから、元来の地方債残高は確実に減っていることになる。逆風下でこれを成し遂げた地方公共団体は、十分に賞賛されてよい。

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(*1)地方財政計画策定に際して、何らの施策も講じなかった場合に生ずる潜在的な歳入不足額を指し、不足が実現しないように必ず財源対策が講じられているため、策定された現実の地方財政計画には財源不足は存在しない。
(*2)「実質赤字比率」(一般会計の収支・資金繰りに関する指標)、「連結実質赤字比率」(全会計の収支・資金繰りに関する指標)、「実質公債費比率」(一般会計による公債費負担に関する指標)、「将来負担比率」(一般会計が負う実質的な債務残高に関する指標)の4指標。
(*3)地方債の償還等に要する経費として普通交付税額の算定に用いる基準財政需要額に今後算入されることが見込まれる額。いわゆる「元利償還金に対する交付税措置額」の将来の総額。
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■新しい公会計基準によって開示される「資産老朽化比率」

この将来負担比率は、4種類の健全化判断比率の中では唯一のストック指標である。満期時に元金を一括償還する「満期一括償還方式」に拠る地方債が債務の太宗を占めている場合には、この指標を直ちに改善させる(引き下げる)には、地方債の繰上償還や減債基金・財政調整基金の積み増しが必要であり、短期間で改善できる範囲は限られる。

しかし、多くの市町村においては、満期まで毎年一定額を均等に償還していく「定時償還方式」に拠る地方債が一般的である。したがって、公共事業と建設地方債の発行を抑制しつつ、既存地方債の償還を粛々と行っていれば、徐々にではあるが、地方債残高は減少していく。

言い換えると、将来負担比率が大きく低下したのは、地方財政健全化法施行後に繰上償還や減債基金・財政調整基金の積み増しが積極的に行われただけでなく、20年ほど前から地方債の発行抑制が続けられてきたからにほかならない。

市町村の場合、公共事業と建設地方債発行のピークは1990年代前半にあり、その後は減少傾向が続いてきた。2012年度以降はようやく増加に転じたが、それでも2014年度の水準はピークの1993年度の半分にも満たない。

ここで懸念されるのは、20年以上にわたって、公共投資が抑制されてきたことの負の側面である。端的に言えば、地域社会資本の老朽化が進んでいる可能性がある。

見掛け上は財政健全化が進んでいても、住民に提供される公共サービスの質の低下と引き換えになされたものならば、本当は財政健全化が果たされたとは言えない。おそらく、住民に対する公共サービスのうち、質の低下が最も見過ごされやすいのは、社会資本ストックの老朽化に伴うものである。

本来ならば、低い将来負担比率と社会ストックの維持更新との両立が求められるところであるが、これまでは、社会資本の老朽化を統一的に測る指標がなかった。健全化判断比率で見た財政状況が改善したといっても、一抹の不安が残るのは、そうした指標がないために真の財政健全化が進んだと断言できないからである。

しかし、すべての地方公共団体が遅くとも2017年度末までに、昨年1月に総務省から提示された「新しい公会計基準」にしたがって、企業会計の考え方を取り入れた財務諸表を作成する見込みであり、その中の項目を組み合わせることによって算定される(*4)「資産老朽化比率」が早ければ今年度、もしくは、来年度から漸次公表される可能性がある(*5)。

公会計基準が統一されていなかった時期には、政令市がこの指標を任意公表したこともあったが、今回は、同一基準で全地方公共団体が算定する体制が整いつつある。

以前の任意公表データを用いて、2008~2010年度の3年間における資産老朽化比率と将来負担比率の関係を散布図として描いたものである。

当然ながら、将来負担比率を低下させるために公共投資と地方債の発行を抑制すれば、資産老朽化比率が上昇することはある程度は止むを得ない。実際、ほとんどの都市において、将来負担比率を縦軸、資産老朽化比率を横軸にとった3年間の折れ線グラフは右下がりの関係を示している。

問題視すべきは、際立って高い将来負担比率が高いために、社会資本の老朽化が著しく進んでいるのに、将来負担比率を低下させることを優先し、公共投資を行わないというような状況である。その状況には、公共施設の数が多過ぎたり、規模が大き過ぎたりして、その維持のための更新投資が追い付かず、社会資本の老朽化が進んでいくケースも含まれる。

災害への耐性を考えると、部分的な補修や部分的な更新投資では足りず、施設全体の更新投資が必要だという状況は十分に想像できるところである。

そのような施設を数多く持っている地方公共団体は、他の地方公共団体と比べて、地方債残高や将来負担比率の水準が高く、しかも、資産老朽化比率も高いという傾向を示すであろう。図で言えば、右上に位置する都市は要注意ということになる。もっとも、用いたデータは2010年度までのものであって、ほとんどの都市において、その後の将来負担比率は大幅に低下している。

住民の立場で知りたいのは、現在の状況であり、自分の住んでいる市町村、都道府県の状況である。そして、今後、1~2年のうちに、その状況が資産老朽化比率として、全国のすべての地方公共団体について公表される見込みである。真の財政健全化が進んだことを確認する意味でも、新しい公会計基準によって開示される情報への期待は大きい。

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(*4)資産老朽化比率=減価償却累計額÷(償却資産帳簿価額+減価償却累計額)
(*5)総務省に設置された研究会が昨年12月にとりまとめた「地方財政の健全化及び地方債制度の見直しに関する研究会報告書」の提言のうち、地方債協議制度における協議不要基準の緩和や地方財政健全化法の一部改正は、既に2016年4月から施行されている。地方公会計による財政指標の導入については、法令改正を伴うものではないが、同報告書はその算定と活用を強く勧奨している。
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石川達哉(いしかわ たつや)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

最終更新:5月31日(火)20時50分

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