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増税見送りとマイナス金利、邦銀にはダブルパンチ

ニュースソクラ 6月2日(木)12時20分配信

すでにドル調達ではジャパン・プレミアムなのに

 消費税の10%への引上げが2019年10月まで2年半再延期されることとなった。これで2020年の基礎的収支(プライマリーバランス)の黒字化目標はさらに大きく遠のいた。

 経済危機に陥っているギリシャやブラジルですら基礎的収支は黒字であるので、日本の財政の大変さは分かろうというものである。

 影響を最も深刻に受ける民間企業はおそらく銀行業界であろう。何故なら消費税引き上げ見送りにより財政赤字ないし国債発行残高が拡大して日本国債が格下げになれば、大量に国債を保有している日本の銀行も過去と同様にほぼ自動的に格下げになるからだ。

 格付け機関のS&Pによると、日本国債の格付けはA+とスロバキア、アイルランド並みであり、中国、韓国より下位にある。三菱東京UFJ銀の格付けはA(シングルA)で、世界商業銀行ランキングで50位に過ぎない。

 同行の持ち株会社である三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)の2016年3月期の連結決算の最終利益は史上最高益を記録した前期を8%下回る9,514億円、さらに2017年3月期はさらに11%減少して8,500億円となる見通しだ。他のメガバンクも同じように減益傾向だ。最大の要因は日銀が4月に導入したマイナス金利の影響だ。

 MUFGでは日銀が2月に導入したマイナス金利政策による減益要因は1,000億円程度と発表している。国内業務の貸出にかかるイールドカーブがフラット化すると、半年ないし1年の市場金利がフラット化して短期調達・長期運用という長短金利差で稼ぐ銀行業にとっては大きな減益要因となる。

 現実に法人向け貸出や住宅ローンを中心に貸出金利が先行して下落している中で、預金コストはそれに見合って下がっていない。個人の普通預金金利をマイナスにするとか、口座管理手数料を徴求して、預貸利鞘を改善することができないからだ。
 さらに満期の到来した長期国債を再運用しようと思えばこれも10年債で‐0.1%程度というマイナス運用を強いられる。

 マイナス金利導入前から、本業ともいえるメガバンクの国内預貸業務の収益は低空飛行を続けていた。設備投資といえば海外のみで国内の資金需要は金利の引き下げにもかかわらず全く盛り上がってこなかった。

 これを補填してきたのが海外業務の急速な拡大である。いわゆる海外収益比率はメガバンク各行とも20%→30%→40%と言った具合に上昇を続けてきた。因みにリーマン・ショック後、欧米の銀行は金融規制の強化からアセットを売却するなど海外業務を圧縮していった。

 この間隙をぬって、メガバンクは資源開発ブームに乗って石油開発、鉱山開発などのプロジェクトファイナンスや高成長を続けたアジア諸国、中南米への融資増強に努めたためである。

 しかし、中国をはじめとする新興国景気の悪化や石油価格の急落から海外向け与信規模が伸び悩むとともに、引当・償却などの与信コストが嵩みはじめた。

 一方で米銀と違い、リテール性の低コストのドル預金を持たない邦銀では海外資産の急ピッチな拡大を背景に外貨調達の困難さが指摘され始めている。

 ニューヨーク短期金融市場でのドル資金調達や円投調達(円をドルにスワップ)などで60-70ベーシス(0.6~0.7%)の金利上乗せを求められている。不良債権に苦しんだ1990年代にもあった、ジャパン・プレミアムの復活だ。

 金融規制の強化により相手方となる欧米の大手銀行で邦銀への資金放出に対する資本賦課(キャピタル・チャージ)が厳しくなっていること、日本国債のこれまでの格下げなども響いている。

 以上のように邦銀では、国内部門にあってはマイナス金利による資金利鞘の縮小に直面。これまで業容拡大を支えてきた海外部門でも世界経済の減速に伴う不良資産の増大と外貨資金調達コストの上昇に見舞われている。

 すでに消費税見送り前から今年度、来年度と減益予想となっていた。ここに消費税引き上げの見送りに伴う国債格付けの低下リスク、さらにそれに連動する邦銀の格付け引き下げも予想される。

 国際的にも金融規制の強化が来年にも現実化する。一例を挙げれば、邦銀が多額に供与している当座貸越の未使用枠にも乗数を掛けて資本を賦課するような改訂が導入されそうである。

 マイナス金利導入という金融政策と増税見送りのなかでの社会保障支出の維持・拡大を図る財政政策というふたつの政策が邦銀にとっては、まともな逆風となっている。日本の銀行界は試練を迎えることになろう。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:6月2日(木)12時20分

ニュースソクラ