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日本の長期金利はマクロでどのように推計できるのか?

ZUU online 6月3日(金)11時10分配信

財政収支の改善と日銀の大規模な金融緩和などにより、日本の国債市場の流動性が縮小し、長期金利(国債10年金利)の変動が大きくなっていると言われる。更に、消費税率引き上げの見送りにより、財政規律の喪失による突然の長期金利の上昇への不安など、ファンダメンタルズを軽視する過度な警戒感も出てきてしまっている。

■金利のフェアバリュー見極めが重要

過度な警戒感や変動により金利の水準感を見失う恐れがあるため、マクロのファンダメンタルズや政策要因に基づいた分析で、金利のフェアバリューがどのあたりにあるのかを認識しておくことが極めて重要になってきている。

マクロのファンダメンタルズ要因としては二つの柱がある。

一つは、企業貯蓄率と財政収支の合計で、貨幣経済の拡張を左右するネットの資金需要である(トータルレバレッジ、GDP対比、マイナスが強い)である。重要なのは、財政赤字が長期金利に単独で影響を及ぼすのではなく、企業の資金余剰との相対感で影響を及ぼすということだ。財政赤字が大きくても、企業の資金余剰が大きければ、ネットの資金需要は弱く、長期金利は低位安定することになる。

もう一つは、失業率に先行する指標として知られ、内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。金融機関の貸出態度が緩和的であるということは、国債投資よりも貸出を優先する傾向にあることも意味する。貸出態度が緩和すれば、企業の資金調達に対する不安感が減少し、より積極的な企業活動が景気を刺激していくことになる。

■日本の金利低下はグローバルの金利水準低下が理由?

金融政策要因としては二つの柱がある。

一つは、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利である。もう一つは、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)である。

ネットの資金需要が大きくても、日銀がそれをマネタイズする形となれば、長期金利は上昇しないことになる。ネットの資金需要と日銀当座預金残高の変化の合計が、マクロ的な債券需給の代理変数ということになる。

そして、グローバルな金利水準の代理変数として、米国債10年金利の動きが重要となる。数年前までは、米国の長期金利を入れても入れなくても、推計結果に大きな違いがなかった。しかし、昨今の大幅な金利低下は、日本国内の要因だけではなく、グローバルな金利水準の大幅な低下を理由にしないと説明が困難になってきている。

これらの要因を使うと、日本の長期金利がうまく推計できることが分かっている(1988年からのデータ、4四半期移動平均、98%程度の動きを説明)。長期金利 = 0.189+ 0.022 中小企業貸出態度DI + 0.73 政策金利+ 0.89 LN (米国長期金利)- 0.065 (ネットの資金需要+日銀当座預金残高変化)、R2= 0.98

■金融緩和起点に金利上昇と企業活動活性化を

企業の貯蓄行動を前提とせず、財政赤字だけで過度に長期金利上昇を恐れ、財政政策の手を縛ることはよくない。財政拡大によりネットの資金需要が増加しても、日銀のマネタイズの力で長期金利を抑制することは可能である。

政策金利の係数が1を下回っていることは、長期金利の影響は政策金利の変化の七割程度であり、イールドカーブが利上げ局面でフラットニング、利下げ局面でスティープニングする傾向にあることを示す。

金融緩和により景気が押し上げられ、長期金利が逆に上昇するという現象は、貸出態度の緩和を通した企業活動の活性化で説明される。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:6月3日(金)11時10分

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