ここから本文です

原油相場の先行きはどうなる?~金融市場の動き(6月号)

ZUU online 6月3日(金)19時30分配信

■要旨

◆原油

原油価格は2月中旬以降、大きく持ち直してきた。相次ぐ生産障害、非OPECの減産と底堅い需要、米ドライブシーズンの到来、ドルの低迷という4つの要因が追い風になったためだ。

年内を念頭に原油価格の先行きを考えると、メインシナリオは、一旦40ドル付近まで下落した後、再び持ち直し、年末に50ドル付近まで戻るというシナリオになる(予想確率60%)。

投機筋のネット買いポジションが大きく積みあがっており、今後は利益確定の動きが出やすいなか、足下の生産障害の復旧、原油価格持ち直しに伴う米シェールオイルの生産再開、米利上げに伴うドル高がその材料になりそうだ。ドライブシーズンという押し上げ材料は季節要因に過ぎず、時間が経つにつれて効果が弱まっていく。従って、夏の間に一旦調整局面に入る可能性が高いと見ている。

ただし、構造的な原油需給は既に最悪期を脱しており、先行きにかけての需給改善観測も容易には崩れないと考えられるため、調整後は再び持ち直していくと予想される。

次に上振れシナリオは、今後も高値をキープし、年末にかけて上昇基調を続けるというシナリオとなる(予想確率30%)。このための条件は、需給が現在の想定よりも急ピッチで改善に向かうことだ。ただし、ハードルは高く、ドライブシーズン終了後の原油不需要期を乗り切らなければならないことから、実現性はあまり高くない。

最後に下振れシナリオは、今後下落基調に転じるシナリオとなる(予想確率10%)。このための条件は、需給の改善が想定よりも大幅に遅れる、もしくは悪化に向かうことだ。ただし、これまでの原油価格上昇の背景や現在の情勢から考えて、その実現性は低い。

◆市場の動きと予想

5月は米早期利上げ観測の台頭でドルが上昇、長期金利はほぼ横ばいであった。当面、ドル円は一進一退、ユーロドルはやや上昇。長期金利は追加緩和決定を受けてもう一段低下すると予想している。

■原油:原油相場の先行きはどうなる?

昨日、半年に一度のOPEC総会が開催されたが、増産凍結や生産枠復活は見送られ、現状維持で終了した。ただし、大方の予想通りであったことと直後の米在庫統計で在庫の減少が示されたため、原油価格は引き続き高値を維持している。現在の価格である49ドル台は、2月上旬に付けた安値である26ドル台の倍近い水準にあたるうえ、この間の上昇は目立った調整を挟まず、ほぼ一本調子の展開であった。

昨年来、原油相場は世界の金融市場全体に強い影響を及ぼしてきた。原油安が産油国や米国経済への懸念に繋がり、たびたび世界的な金融市場の混乱に繋がったのは記憶に新しい。

実際、米市場の警戒感を示すVIX指数(別名、恐怖指数)と原油価格には逆相関の関係(原油価格が下(上)がれば、恐怖指数が上(下)がるという関係)が確認できる(表紙図表参照)。逆に言えば、春以降、世界の金融市場が比較的落ち着いていた背景には、原油価格の持ち直しがある。

世界の金融市場に多大な影響を及ぼしてきた原油価格は今後どうなるのか?展開を考えてみたい。

◆原油価格上昇を正当化したもの

既述のとおり、2月中旬以降、原油価格は大きく持ち直してきた。最初にこの要因を整理する。

(要因1)突発的事象による供給過剰の緩和:相次ぐ生産障害

まず、春以降、産油国で生産障害が相次ぎ、足下の供給過剰感が緩和したことが挙げられる。具体的には、クウェートでの石油労働者によるストライキ(4月)、カナダでの大規模な山火事による生産停止(5月)、ナイジェリアでの武装勢力による石油施設攻撃(同)などだ。これらは一つ一つの生産停止規模が大きかったため、市場にも影響を与えた。特に4月半ばに開催された増産凍結協議が決裂した際には原油価格が大きく下落してもおかしくなかったが、同時にクウェートでの生産停止が伝えられ、影響が相殺された。

(要因2)構造的な供給過剰の緩和:非OPECの減産と底堅い需要

そして、構造的な需給改善観測も原油価格上昇に寄与した。それは、非OPECの減産と新興国などの底堅い需要だ。1月に制裁解除を受けて増産を続けるイランをはじめOPECの生産は旺盛だが、高コスト構造のため、これまでの原油安に耐えられなくなった米シェールオイルの生産停止が進み、米国の産油量が落ちてきている。また、同じく高コスト構造とみられる中国の産油量もじわりと減少してきている。一方で、自動車の普及によってインドや中国等で原油需要が増えたことで、需給が改善している。

IEA(国際エネルギー機関)やEIA(米エネルギー情報局)などは、今後もこの動きが継続し、時期の前後はあれ、需給が均衡に向かうと指摘しており、市場でも「先行きの供給過剰解消」が強く意識されている。

(要因3)米ドライブシーズンの到来

3つ目の要因は、米ドライブシーズンの到来だ。例年、米国では5月下旬から9月上旬にかけてドライブシーズンとなり、ガソリン需要が増加するため、直前から原油在庫が積みあがりにくくなり、シーズン入り後は取り崩される傾向が極めて強い。

原油市場では、「原油在庫増加=弱材料」、「原油在庫減少=強材料」とみなされるため、「ドライブシーズン入りに伴って、今後原油在庫が減る」との観測が最近の原油価格の追い風となった。実際、例年、ドライブシーズン入り直後の6月は原油価格が上昇しやすい。過去10年の月別騰落回数を見ると、6月は上昇7回、下落3回で2月に次いで上昇回数が多い。

(要因4)ドルの低迷

最後の要因はドルの低迷だ。もともと、原油価格はドル建て表示のため、ドルの価格と逆相関の関係が強い。ドル高になると、他国から見た原油価格に割高感が出るため売られやすく、ドル安になると、他国から見て割安感が出るため買われやすくなる。3月以降、米国の利上げ観測後退に伴ってドル安(ドルの実効レート下落)が進行し、原油価格上昇の一因となった。

これら4つの要因によって、市場で原油の底打ち感が台頭し、投機筋は原油を売り込みにくくなった。ヘッジファンドなど投機筋のNY原油先物ポジションを見ると、2月中旬以降、ショート(売り)ポジションが大きく減少する一方、ロング(買い)ポジションがやや積みあがり、ネットの買いポジションは近年まれに見る水準に積み上がっている。この投機筋のポジション変化は、春以降の原油価格の上昇と整合的な動きとなっており、投機筋がこの間の原油価格上昇に大きく寄与したことがうかがわれる。

◆今後予想されるシナリオと確率

次に、以上に挙げた足下の原油市場を取り巻く要因を踏まえ、年内を念頭において、WTI原油先物価格の先行きのシナリオとその発生確率を検討する。

(メインシナリオ)一旦調整を経て持ち直し:予想確率60%

まず、メインシナリオは、一旦40ドル付近まで下落した後、再び持ち直し、年末に50ドル付近まで戻るというものだ。投機筋のネット買いポジションは大きく積みあがっており、今後は利益確定の動きが出やすい。

材料となり得るのは、まず、生産障害の復旧だ。山火事で生産設備が停止していたカナダでは、既に生産再開の動きが出始めている。再開されれば足下の需給は緩む。また、同じく供給面において、米国の減産ペースが鈍る可能性も高い。原油価格が持ち直してきたことで、採算がとれるようになった米シェールオイルが生産再開に動き出せば、これまで原油価格の追い風となってきた米国の減産に歯止めがかかる。

実際、昨年春から夏にかけて原油価格が60ドル付近まで上昇した際には、米国のリグ(掘削設備)減少ペースが鈍化し、やや遅れて増加に転じた。技術進歩によって、昨年よりも損益分岐点が下がっている可能性もあるなか、最近は原油価格持ち直しからやや遅れる形で、リグ稼働数の減少に鈍化傾向がみられる。

さらにドル高に伴う原油価格押し下げ圧力も今後高まりそうだ。既に米国の早期利上げ観測からドルは上昇に転じており、今後段階的な利上げが視野に入ることで、さらに上昇する可能性が高い。その際、人民元安を通じて中国経済への警戒が強まり、需要鈍化観測が高まることが原油価格の逆風となるという経路も有りえる。

ドライブシーズンという押し上げ材料についても季節要因に過ぎず、時間が経つにつれて効果は弱まっていく。

これらの材料から夏の間に一旦調整局面に入る可能性が高いと見ている。なお、この際には年初ほどではないにせよ、金融市場で警戒感が強まり、一時的に株安・円高といったリスク回避的な動きが発生する事態が想定される。

ただし、長期かつ大幅な原油価格の下落は避けられ、調整後は再び持ち直していくと予想される。なぜなら、構造的な原油の需給に関しては既に最悪期を脱しており、先行きにかけての需給改善観測も容易には崩れないと考えられるためだ。

(上振れシナリオ)今後も上昇基調を継続:予想確率30%

次に、今後も高値をキープし、年末にかけて上昇基調を続けるというシナリオについて考えてみる。今後も目立った調整を挟まず、年末に60ドルに到達するイメージとなる。

このシナリオが実現するための条件は、需給が現在想定されるよりもさらに急ピッチで改善に向かうことだ。今後も大規模な生産障害が相次いだり、銀行与信の厳格化などから米シェールの減産が想定以上に進んだり、新興国経済の景気回復が想定よりも強まることが必要になる。また、利上げが遅れ、再びドル安トレンドになることも、米景気減速を伴わなければ、このシナリオの実現をサポートすることになる。

ただし、各条件ともに蓋然性がそれほど高くないと見られるうえ、ドライブシーズン終了後の原油不需要期を乗り切らなければならないことから、当シナリオの実現性もあまり高くないと見ている。

(下振れシナリオ):今後は下落基調に転換:予想確率10%

最後に、今後は下落基調に転じるシナリオについて検討してみる。年末にかけて、再び30ドルに向かうイメージとなる。

このシナリオが実現するための条件は、需給の改善が現在想定されるよりも大幅に遅れる、もしくは悪化に向かうことだ。もし、サウジが増産姿勢を鮮明にしたり、米シェールが技術進歩などから大幅な増産に転じたり、世界経済が大きく下振れしたりすれば、このシナリオに移行する。また、新興国通貨の下落などからドル高が大幅に進めば、このシナリオの実現をサポートすることになる。

ただし、これまでの原油価格上昇の背景や現在の情勢からすると各条件ともに蓋然性が低いことから、当シナリオの実現性は低い。

■日銀金融政策(5月):政策効果を見極めへ

◆(日銀)維持(開催なし)

今年から金融政策決定会合の開催が年8回へと減少したことで、5月は会合の非開催月にあたる。従って、金融政策の変更は行われなかった。次回の会合は6月15日~16日に予定されている。

なお、5月12日に「金融政策決定会合における主な意見」(4月27~28日開催分)が公表され、市場の追加緩和観測が大いに高まる中で追加緩和見送りとなった4月会合での政策委員の主な意見が明らかになった。

焦点の金融政策運営に関する部分では、前回同様、「マイナス金利政策の効果は金利面で既に現れている」という意見が多く、当面は「実体経済への効果の波及を見極める必要がある」という意見が多く見られた。一方、同会合において即時の追加緩和を求める意見は見受けられなかったが、必要と判断した場合には、「追加的な金融緩和措置を講じるべき」との意見が相次いでいたことが明らかとなった。

今後の金融政策について、追加緩和は近いと予想している。マイナス金利の影響をある程度見極められるようになってくるうえ、年初から急激に進んだ円高の影響などから物価の基調にも変調が出てくるとみられるためだ。既に日銀が重視してきた「生鮮食品及びエネルギーを除く消費者物価上昇率」は前年比で1%を割り込んだ。

政治との関係でも、5月下旬のG7サミットで「全ての政策手段」を用いることがコミットされ、安倍首相は6月1日に消費税率引き上げの先送りと補正予算編成方針を表明しただけに、歩調を合わせる形で金融緩和に踏み切りやすくなった面がある。従って、6月16日の追加緩和をメインシナリオとして考えている。

一方、最近、円相場の緊迫感が緩和し、株価も落ち着きを取り戻していること、6月下旬に行われる英国のEU離脱を問う国民投票が流動的な情勢なことは、追加緩和先送りに働く。追加緩和が7月以降にずれこむ可能性も最近やや高まった感がある。

追加緩和の手法はETF買入増額、マイナス金利の拡大、地方債買入れ導入、マイナス金利での(銀行への)資金供給策導入になると予想している。マイナス金利拡大の副作用に対する懸念は払拭できないものの、マイナス金利での資金供給とセットにすることで、相殺効果をアピールすると予想している。

■金融市場(5月)の動きと当面の予想

◆10年国債利回り

●5月の動き 月初▲0.1%台前半からスタートし、月末も▲0.1%台前半に。

月上旬は、日銀オペによる需給逼迫観測が金利抑制圧力となり、▲0.1%台前半での推移が続く。10日には30年債入札への警戒から一旦▲0.1%へとやや上昇したが、翌11日以降は再び▲0.1%台前半に戻って膠着した推移に。

その後、米FOMC議事要旨発表を受けた早期利上げ観測によって米長期金利が上昇、波及したことで19日には▲0.0%台後半まで上昇したが、翌20日には日銀オペの結果を受けて再び▲0.1%台前半に低下。以降、月末にかけて▲0.1%台前半を中心とする推移が継続。

●当面の予想

今月に入っても▲0.1%台前半での小動きが継続。長期金利は長らく、日銀のマイナス金利幅(▲0.1%)を挟んだ展開が継続している。従って、今後のカギは日銀の追加緩和となる。

筆者は6月半ばの決定会合で、マイナス金利の0.1%拡大を伴う追加緩和を予想しており、その場合、長期金利はもう一段低下することになる。一方、米金利が大きく上昇すれば本邦金利に波及し低下が抑えられるが、米国の継続的な利上げが織り込まれる必要があり、当面は見込みがたい。

◆ドル円レート

●5月の動き 月初106円台前半からスタートし、月末は111円台前半に。

月初、日銀の追加緩和見送りの余波や米為替報告書における監視リストへの指定を受けて2日に106円台前半を付け、連休中の海外市場では一時105円台まで円高が進行。その後は日本政府高官による円高けん制や利益確定で円が売られ、6日には107円台を回復。さらに麻生財務相による介入用意発言もあり、10日には108円台を回復。

以降、しばらく108円台での推移が続いたが、原油高に伴うリスク選好の円売りで17日に109円台を回復。さらにFOMC議事要旨を受けて早期利上げ観測が高まったことで、19日には110円台を付けた。その後は実需の円買いもあって109~110円台での展開となったが、27日のイエレン議長講演を受けた早期利上げ観測でドルが買われ、月末は111円台前半に。

●当面の予想

今月に入り、消費税引き上げ延期の表明がされたことに伴う利益確定の円買いや、英国のEU離脱への警戒に伴うリスク回避の円買いから、足元は108台後半まで円高が進んでいる。

目先は本日の雇用統計結果と6日のイエレンFRB議長講演で多少上下しそうだが、最大の焦点は15日の米FOMCで利上げが決定されるかどうかになる。6月利上げは市場の織り込みが足りず、また英国のEU離脱が不透明なことから利上げ見送りを予想するが、同時に7月利上げの可能性を織り込ませる何らかのガイダンスが発信されると見ており、ドル安材料にはならないだろう。

日銀は6月に追加緩和に動くと見ているが、円安材料としてのイメージが希薄化しており、為替への影響は限定的になる。ドル円は当面108~112円程度での一進一退を予想。

◆ユーロドルレート

●5月の動き 月初1.14ドル台後半からスタートし、月末は1.11ドル台半ばに。

月初、米経済指標の低迷を受けて、3日に1.15ドル台後半まで上昇したが、雇用統計前に持ち高調整が入り、5日には1.14ドル台に下落。その後はリスク選好のユーロ売りが入り、10日に1.13ドル台を付ける。しばらく1.14ドルを挟んだ展開となった後、良好な米小売指標を受けて13日には1.13ドル台半ばへ。

さらにFOMC議事要旨を受けて米早期利上げ観測が強まったことで、ドル高基調となり、18日には1.12ドル台、24日には1.11ドル台後半に下落した。イエレン議長講演を受けた米早期利上げ観測でさらに下げ、月末は1.11ドル台半ばで終了。

●当面の予想

今月に入り、ポジション調整でややユーロが上昇した後、ECB理事会後のドラギ総裁発言を受けた追加緩和観測でやや下落、足元は1.11ドル台半ばで推移している。今後は米利上げと英国のEU離脱問題が焦点になる。

既述のとおり、米国の6月利上げは見送られるが、同時に7月利上げの可能性を織り込ませる何らかのガイダンスが発信されると見ており、ドル安材料にはならないだろう。ただし、23日に行われる英国の国民投票で残留が決定、経済的に繋がりが強いユーロ圏への悪影響が回避されることでユーロに買い戻しが入り、やや上昇すると見ている。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

最終更新:6月3日(金)19時30分

ZUU online