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【いま大人が子供にできること(8)】 絵本を iPad のように読もうとする子どもたち

ニュースソクラ 6月3日(金)18時0分配信

そもそも皮膚感覚が違うことを認める

 一番始めに見たのはいつだったのか正確には思い出せませんが、三、四年前だったような気がします。

 公共図書館で初めて本を借りた赤ちゃんが、嬉しそうに絵本を持つと、表紙に指を滑らせたのです。そりゃもう慣れた手つきで……。

 こっちもぎょっとしましたが、向こうも驚いて「えっ? なんで変わらないの?」という顔をしました。

 なので「チッチッチ、これはね、こするんじゃなくて、め・く・る・の……」とやってみせたら、おおーっ、という満面の笑顔になりました。

 まぁ、これはこれで、魔法ですからね。めくったら絵が変わるんだもの。

 そっか……。iPadか…… と思いましたよ。
 ケータイが出て、スマホが出て、もうこれ以上の変化はないと思ったのに最後のボスキャラのごとく、iPadが出たときには、はぁぁ、と思いました。

 これでまた!
 新しい文化が始まる……。
 大変だぁ……。

 iPadはタッチパネルです。

 これは、文字が読めない人々のために作ったのだ、という話をどこかで読んだ覚えがありますが(裏をとってないので、ホントの話かどうかはわかりません)スマホまでは、読み書きできないと使えませんでした。

 いまは、音声アシスタントの Siri がいますから、文字なしでもかなり使えるようになりましたが、出始めの頃は無理でしたよね。

 世界には文字が使えない人が半数近くいる国もざらにあります。文字が使えない人々にパソコンを解放するというのは素晴らしいことです。

 でも日本は、文字が読めない大人は少数派です。なので、日本で文字が読めない一番大きな層はどこかというと、五歳以下の幼児と乳児なのです。

 そうしてiPadは画面が大きいので、赤ちゃんのぶきっちょな指でも使えます……。
 アイコンがついているので、それが動画なのか、静止画なのか、画面なしなのかもわかります。

 二年くらい前かな? 「スマホを使うサル」という、写真が話題になりましたよね。
 観光客が使うのを見て、前々から自分もやってみたいと思っていたのでしょう、地獄谷の温泉ザルが観光客からスマホを奪い取って眉間に皺を寄せて使おうとしている写真です。

 赤ちゃんたちも、iPadもスマホも大好きで、触らせろ、寄越せ、といって大騒ぎします。
これは大人が使うもの! といって、あれに対抗するには、かなりの根性が必要ですよ。

 かくして日本ではパソコンデビューが六ヶ月とか7ヶ月になってしまったのです。
 その、初期の第一期のiPad世代の子がそろそろ一年生になる頃です。ということは学校図書館は、また今年から新文化の子どもたちと格闘を始めないとなりません。

 と思って見ていると……。
 ついこの前まで『こびとづかん』は小学校では超人気本でした。子どもたちはサンタクロースと同じように「こびと」がいると信じこんで、捕まえにいきだしたものです。

『こびとづかん』のこびとフィギュアがたくさん作られました。
 それを飾っていたところ、誰かに取られてしまった図書館では、司書が子どもに「逃げたのよ」といったところ、「おれ、河原で見た!」と言い出す男子が現れ「俺も見た! 俺も見た!」と大騒ぎになったのだとか。
 つい、この前までね。でも今年は……。

「嘘ばっか……。いるわけないじゃん」とすげなく返されてしまったとか……。一年生に……。

 でもそういわれてみれば、確かに小学校で『こびとづかん』、最近動きが鈍くなってました。

 まだ幼稚園と保育園では借りられますが「そうか。小学校ではブーム、おわっちゃったのかぁ」です。
 そうしてその幼稚園保育園でも、カブトムシやティラノザウルスは4歳児が中心で、年長さんたちは抜けつつあるような感じです。20年前は三年生までは夢中だったのに。

 なぜそうなったのか、についてはわかりません(誰も研究してないだろうし、第一どうやって研究するんだ?というのもあります)。結果としてそうなっている、ということがいえるだけです。いまの一年生はいわばiPad世代の一期生です。

 その次の世代…… 進化したiPad世代の子どももたちもすでに二、三歳になりました。彼らもあと三年もすれば小学校に上がってきます。

 いったいどーなるのか、ぜーんぜん予測がつきません。
 五月も半ばを過ぎ、あちこちから流れてくる情報をつなぎあわせると、やはり今年は新しい世代が台頭した年なのだと思います。皮膚感覚が違う……。

 なのでどうぞ、小さいひとたちに本を買い与えようというときには本人たちの意見を聞いてください。去年まで面白かったのに、今年はもう面白くなくなった、という本があるはずなのです。

 推薦するのは大人です。その人にはいまだに面白いかもしれません。
 でも子どもたちもそうかどうかはわからないのです。でもそれを見分けるのは簡単です。

 本人に、読みたいかどうか聞けばいいのですから。
 好きでないものは長時間読んでられませんし、頭にも入りません。読む本人が「読みたい!」という本が一番です。

■赤木 かん子(本の探偵)
1984年、子どもの本の探偵としてデビュー。子どもの本や文化の評論、紹介からはじまり、いまは学校図書館の改装からアクティブラーニングの教えかたにいたるまで、子どもたちに必要なことを補填する活動をしている。
高知市に「楽しく学校図書館を応援する会」として学校図書館モデルルームを展開中……。著書多数。

最終更新:6月3日(金)18時0分

ニュースソクラ