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怪作、誕生! 真利子監督と柳楽優弥に訊く

Lmaga.jp 6月4日(土)7時0分配信

「ホンマ、極悪ですよね(笑)」(柳楽優弥)

そのキャッチコピーは、「ほとばしる剥き出しの魂」。松山市の小さな港町に弟と住む主人公・泰良(たいら)は、理由もなく見知らぬ人を殴り、打ちのめされても、さらに向かっていくという男だ。人に会ったら挨拶する、それぐらい普通のこととして、人を殴っていく。そんな泰良の暴力性とオーラに惹かれ、その威を借りて傍若無人に振る舞う高校生・裕也。そして、2人が強奪した車に乗り合わせていたキャバ嬢・那菜。凶行に凶行を重ねる若者たちだったが、そのたびに純度を増していく泰良の狂気に、周囲は次第に飲み込まれていく...。メガホンをとるのは、インディー映画界の切り札・真利子哲也。これが商業映画デビュー作となる。そして、泰良を演じるのは、今や日本映画界になくてはならない俳優となった柳楽優弥だ。まさに本作では、怪物級の演技で観る者を圧倒! 衝撃的作品『ディストラクション・ベイビーズ』を作り上げた2人を映画評論家・ミルクマン斉藤が直撃した。

地元大阪で舞台挨拶を行った菅田将暉

──ケンカで始まり、ケンカで終わる映画ですが、劇中、泰良らを面倒みている近藤役のでんでんさんが「ルール」の話をしますね。舞台となっている愛媛・松山市の港町では、年に1度の『喧嘩神輿』というハレの場で、日ごろ溜まった鬱屈や暴力衝動を解放させるシステムみたいなものが構築されている、と。

真利子「そうですね」

──そうした擬似的なケンカで、地域の健康的な人間関係を保っているわけですよね。その港町において、弟の将太(村上虹郎)はまだそっち側に留まっている人間であるのに対し、そうしたルールからまったく外れた、我々の既知の外にある存在というのが兄の泰良(柳楽優弥)になるわけですが、どこから企画がスタートしたのですか?

真利子「自分は愛媛とは縁もゆかりもないんですけど、最初は地元で10代の頃にケンカばかりしていた、って人に話を聞きに行ったところから、この映画の企画が始まったんです。で、滞在していたとき、『喧嘩神輿』という祭りを見たんですね。神輿をぶつけ合うんですが、何も知らずに行った僕にとってはすごくカルチャーショックで。その時点ですでに暴力を題材にした映画を撮りたいと思っていたので。もちろん祭りですから、神輿をぶつけ合っていてもそこには明らかにルールがあって、ケンカだけれどもケンカではない。これはこの映画に取り入れなければと思ったんです」

──監督とは12、3年前、仙台の短編映画祭だかでお会いしたのが最初だと思いますが、たしかそのときに拝見した8mm映画『マリコ三十騎』も、どこか祝祭的な暴動の空気がありました。さらに監督が手掛けた『イエローキッド』(2009年)や『NINIFUMI』(2011年)にも、そうした暴力的な衝動というところで通じるものがあるという気がします。

真利子「今回は自分の好きな題材を自分の好きなキャストとスタッフで、わりと素直に作れたなと思っていて。だから、自分が作ってきたものがすごく反映されているというか、その先にあるものになったなというのは、自分でも後から気づきましたね」

──柳楽さんにとっても、こうした暴力衝動を剥き出しにしたようなアクションは初めてじゃないですか? 『クローズEXPLODE』(2014年)があったけれども、全然あれ以上だと思う。

柳楽「また違う暴力ですよね、撮り方も含めて。今回はストリート・ファイトを一連の流れで遠くから撮るということだったんで、ずっと練習してましたね」

──そんななか、よくこんなの撮れたなと驚愕したのは、長回しで撮った商店街の暴力シーンで。あれだけの人間がワラワラいるなかに、泰良と裕也(菅田将暉)が猛スピードで乱入してきてパニックに陥れる。その様子をスマホで撮ってる周りの人間の佇まいもリアルだし、キャメラに目線が合ってロケであることがバレバレになる、なんてこともない。みなさんエキストラの方なんですか?

真利子「そうですね。愛媛の方々に全面的に協力してもらって。なかには、たまたまそこに居合わせたという人もいるかも知れないですけれども。なんといっても路上なので、現場自体もただならぬ空気がありましたね。事前に『アクションとしてのケンカ』の練習もしているんですけども」

柳楽「あそこは、将暉くんと俺がケンカして去っていくまでが一連の撮影だったので、超緊張しましたね」

真利子「そうしたシーンに関しては、YouTubeとかにある外国のケンカにいちばん影響されましたね。たまたまその場に居合わせた人がスマホとかで撮ったもので、ただただ定点で撮ってるんですけれども、本当のケンカだから不穏な空気があって。あの空気感を(ドラマを)撮ってるキャメラで出せないかなとずいぶん勉強しました」

──アクション・コーディネーターは園村健介さんですね。監督も演出で参加されているテレビシリーズ『ディアスポリス 異邦警察』(2016年)でも組んでおられますが。

真利子「事前にアクションは全部決めて、それによってキャメラ位置も考えました。役者同士が向き合ったときに、どっちが先に出るかといった間合いとかを演出していく。実際に当てはしないけど、もし本当に殴られて当たったら痛い、というところを演じてもらうことで、よりケンカになっていくんです。当たりどころが違うと音も違うから、ひとつずつ音も変えて」

柳楽「アクションは大変でしたけれども、楽しかったですよ。派手なパンチよりも(生々しい)ケンカを見せたい、っていう。それを引きの画で、長回しで、というのに気合いが入って、いい緊張感が現場に漂っていました。ロシアのケンカ動画は僕も見ましたね。殴られてふっと倒れるとか、なかなか難しいんですけれども、そういうリアクションが大事だなと思って。殴るのも大事ですけれども、殴られるリアクションも大事なんですよ。それっぽく見せるリアクション。なかなかあれができないんですよね」

──でも、菅田さんが最初に女性に蹴りを入れるところなんか、あまりに軽々とイイカゲンに一線を越えてゾッとしますねぇ。

柳楽「(自分の暴力を)スマートフォンで撮りながら女性を蹴るという。ホンマ、極悪ですよね(笑)」

──暴力衝動というのは多かれ少なかれ、誰もが持っているとは思うのですが、裕也の行為はあまりに悪質で。泰良の虎の威を借りるにもホドがある(笑)。

真利子「この映画の設定は2011年にしているんですけれど、あの頃って『バカッター』の行為が問題になった時で。コンビニのアイスケースに入った写真をツイッターにアップしたり、若者の承認欲求がすごく露出してきたときだったんです。裕也のような奴が実際にいるかいないかではなく、そういう衝動が若者にはあるなと思って。自分の見てきたものや社会の出来事とかを参照しつつ、あのキャラクターを作っていきました」

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最終更新:6月4日(土)7時0分

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