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株価の振る舞いに変化?(1)-リスクコントロール手法は合理的であり続けるのか?

ZUU online 6月6日(月)20時0分配信

■はじめに

リスクコントロール型投資信託をご存知だろうか。価格変動リスクを一定量に抑える手法を取り入れた投資信託のことだ。その第一号とも言えるETF が上場した2012年以来、同じような手法を採用する投資信託の数は堅調に増加している。

ETF上場の約半年前の2011年6月には、日本経済新聞社が日経平均リスクコントロール・インデックスを含む「日経平均ストラテジー・インデックス・シリーズ」の提供を開始している。リスクントロール・インデックスとは、日経平均株価の価格変動リスクを一定水準に収めるようコントロールする戦略(以下、リスクコントロール手法。詳細は後述)を実践した場合に得られる運用成果を表す指数である。

当レポートでは、まずリスクコントロール手法と、同手法を採用することの合理性を解説する。その上で、近年、株価の振る舞いに変化が見られ、このことがこれまで信じられてきたリスクコントロール手法の合理性に影響を及ぼすことを指摘する。

■リスクコントロール手法とは

資産運用のリスクとは、一般的に資産価格や為替変動などによる資産価値の下落を意味する。しかし、投資理論では、資産価格の下落だけでなく上昇も含めた資産価格変動の大きさを表す尺度(以下、ボラティリティ)をリスクと定義している。

リスクコントロール手法は、株式のボラティリティが時々で異なる性質と、現金には価格変動リスクが無い性質を利用する。具体的には、株式のボラティリティが高いときに株式への投資割合が少なくなるよう、株式への投資割合を調整することで、資産全体のリスクを一定水準に保つ手法である。

なお、一口にリスクコントロール手法と言っても、投資対象となる株式の相違、株式への投資割合を見直す頻度や見直す際に参考にするボラティリティ算出方法の相違(*1)、更には最終的な資産全体のリスクをどの程度にするかなどバラエティに富む。

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(*1)オプション価格から算出するインプライド・ボラティリティ(恐怖指数)を用いるか、直近の価格変動実績データから算出するヒストリカル・ボラティリティを用いるかなどの相違がある。なお、日経平均リスクコントロール・インデックスでは、インプライド・ボラティリティを採用しており、2015年12月に、日本取引所グループ、東京証券取引所とS&P ダウ・ジョーンズ・インデックスが共同で算出を開始したS&P/JPX リスク・コントロール指数では、ヒストリカル・ボラティリティを採用している。
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(1)ボラティリティの高低は、その後の株価収益率に影響を及ぼさない

先に記したとおり、リスクコントロール手法は、ボラティリティが高いときほど、株式への投資割合を減らす手法である。では、ボラティリティの高低とその後の株価収益率に何らかの関係があるのだろうか。そこで、投資割合を決める時々のボラティリティの高低とその後の株式収益率との関係性を確認する。

日本市場、米国市場、欧州市場に対して、投資期間が日次、週次、月次(*2)の場合それぞれついて分析した。ボラティリティとして各市場を代表する恐怖指数(日経VI、VIX、VSTOXX)を用い、その後の株式収益率には対応する株式指数(日経平均株価、S&P500、ユーロストックス50種株価指数)を用いた。

ここでは、まずリスクコントロール手法を採用するETFが上場するまでの10年間(2002年から2011年)を分析期間とする。この期間を選んだのはリスクコントロール手法が普及する前の状態を確認するためである。

市場別、頻度別に時々の恐怖指数とその後の株価収益率の関係を示している。恐怖指数が高いほど、その後の株式収益率が低い傾向が見られる場合は「-」、逆にその後の株式収益率が高い傾向が見られる場合は「+」を記している。また、記号の数はその傾向の統計的信頼性を表現しており、記号が一つの場合、統計的信頼性に乏しいことを意味する。

米国市場の日次を除き、恐怖指数の高低とその後の株価収益率との間には特段の関係性が確認できない。データの上では、恐怖指数の高さはその後の株価下落を示唆するわけではない。

一方、恐怖指数とその後の価格変動の大きさ(株価収益率の絶対値)との関係を示している。恐怖指数が高いほど、その後の価格変動が大きい傾向が見られる場合に「+」を記している。恐怖指数の高低と、その後の価格変動(リスク)の大きさとの間には強い正の関係性が確認できる。

前段の結果も踏まえると、恐怖指数の高さはその後の株価変動の方向性までは指し示さないものの、その後の価格変動が大きい(リスク)可能性を示唆する。

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(*2)厳密には、月次の代わりに4週間毎に株式割合を見直す場合を確認している。
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(2)リスクは長期的な資産運用結果に影響を及ぼす(リスクコントロール手法の合理性)

前節(1)からボラティリティが高いからといって、その後の株価収益率の下落が予想されるわけではないことが分かった。それにも関らずリスクコントロール手法は、そのボラティリティが高いときほど、株式への投資割合を減らす仕組みになっている。その最大の理由は、リスクを好まない多くの投資家、つまり「期待できる収益率が同じならリスクは低いほうがいい」と考える投資家との親和性であろう。

その後の株価収益率の下落が予想されるわけでなくとも、ボラティリティが高い場合、その後の価格変動は大きいことが予測されるのだから、株式への投資割合を減らすことは、リスクを好まない多くの投資家にとって合理的といえる。

加えて、期待できる収益率が等しくてもボラティリティが異なれば、長期的な運用成果が異なる点にも注目したい。

青い経路は価格変動が小さく平均収益率(年率)が5%の場合、赤い経路は価格変動が大きく平均収益率が5%の場合、橙色の経路は赤い経路と同じく価格変動が大きいが平均収益率が15%の場合に、それぞれ2年間運用した例を示している。青い経路と赤い経路の平均収益率は等しいにもかかわらず、運用終了時の残高は大きく異なる。

2年間運用した例に過ぎないが、これを繰り返すほど、残高の差は拡大していくことは容易に理解できる。加えて、平均収益率がプラスであっても、価格変動が大きければ、当初の運用資産額を下回ることもあり得る。そして、価格変動が小さい場合と同程度の運用資産額を確保するには、平均収益率は15%程度必要になる(橙色の経路)。

このように、極端にリスクが高い場合、よほどの高い収益率が期待できない限り、長期的には運用資産の減少を招く。

前節(1)では、ボラティリティの高低によって期待収益率に差はなく、価格変動の大きさにのみ差があるといった結果を得た。図表5になぞらえれば、恐怖指数が低い状況が青い経路、高い状況が赤い経路である。

以上から、リスクを好まない多くの投資家にとってリスクコントロール手法が合理的であるだけでなく、長期的な視点に立っても期待できる収益率が変わらない以上、極端なリスクを抑制することは合理的と言える。

■リスクコントロール手法の合理性は継続するのか

前章2では2002年~2011年のデータを基に、ボラティリティの高低とその後の株価収益率との間には特段の関係性がないこと(前提1)、ボラティリティの高低は、価格変動の大きさ(リスク)に対する予測力があること(前提2)とを示し、それを根拠に、リスクに関心が無い(期待リターンだけに興味がある)投資家でさえも長期的視点では期待できる収益率が変わらない以上、極端なリスクを抑制することが合理的であると説明した。

この章では、2011年以降の近年においても2つの前提に変化が無いか確認することで、前章で示したリスクコントロール手法が今でも合理的であるかどうかについて検討する。

(1)近年の状況

まず、前提1の変化の有無を確認する。図表6はリスクコントロール手法を採用するETFが上場した2012年から2015年の4年間を対象に、恐怖指数とその後の株価収益率との関係を確認した結果である。リスクコントロール手法を採用するETFが上場する前の結果と比較すると、その結果は明らかに異なる。

以前はボラティリティの高低とその後の株価収益率との間に特段の関係性は確認できなかった。しかし、近年は、日本市場の週次を除き、ボラティリティが高いほど、その後の株価収益率も高い傾向がある。日本市場においては、統計的信頼性はさほど高くないが、欧米市場においては統計的信頼性もかなり高い。

次に、前提2の変化の有無を確認する為に、リスクコントロール手法を採用するETFが上場後における、恐怖指数とその後の価格変動の大きさとの関係を調べた結果が図表7である。リスクコントロール手法を採用するETFが上場する前の結果と比較して、特段変化がないことがわかる。

恐怖指数が低い場合が青い経路であるのに対し、近年における恐怖指数が高い場合は、収益率が青い経路と同じ赤い経路ではなく、収益率の高い橙色の経路に変化している可能性がある。

(2)2000年代初期

近年、恐怖指数が高いほどその後の株価収益率も高い傾向が確認できるのは、恐怖指数の水準が、リーマンショック時に比べ、安定していることが影響しているかもしれない。そこで、近年と同等かそれ以上に恐怖指数の水準が安定していた2002年から2006年で同様の分析を実施したが、恐怖指数の高さはその後の株価上昇を示唆するわけではない。

以上から、近年の恐怖指数高いほどその後の株価収益率も高い傾向は、恐怖指数の安定が理由ではないと考えられる。加えて、過去において、一部(日本・週次、日本・月次、欧州・月次)は、恐怖指数が高いほどその後の株価収益率が低い傾向がある。これは、2002年から2006年、2007年から2011年、2012年から2015年と進むにつれ、恐怖指数の高さとその後の株価収益率が徐々に変化しつつあることを示唆する。

(3)小括

前2節から二つのことが言える。一つ目は、時点によらずボラティリティの高さはその後の価格変動が大きいことを示唆する。二つ目は、ボラティリティの高さとその後の価格収益率関係が徐々に変化し、近年に限ればボラティリティが高いときは、その後の価格変動が相対的に高いかもしれないということである。

以前は、「期待できる収益率が同じならリスクは低いほうがいい」と考える投資家にとって、ボラティリティが高い時に株式への投資割合を減らすことは合理的であった。しかし、期待できる収益率が異なるならば、話は変わってくる。

また、リスクは長期的には運用資産の減少を招くが、リスクに見合ったリターンが期待できるのであれば、長期的な視点に立っても、ボラティリティが高い時に株式への投資割合を減らす必要は無いかもしれない。

■おわりに

当レポートでは、ボラティリティの高さとその後の価格変動との関係が近年変化した可能性と、その変化が増加しつつあるリスクコントロール型投資信託の合理性に影響を及ぼす可能性の指摘にとどめる。ボラティリティの高低で、その後の株価収益率がどの程度異なるのか、その差はリスクに見合った差なのかなどについては次のレポートで検証することとしたい。

また、リスクコントロール型投資信託の出現以前から、ボラティリティの高さとその後の価格変動との関係の変化が起こっている。このことから、この変化の原因はリスクコントロール型投資信託の増加ではなさそうだ。引き続きボラティリティの高さとその後の価格変動との関係を観測するとともに、その原因の解明にも取り組みたい。

高岡和佳子(たかおか わかこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

最終更新:6月6日(月)20時0分

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