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キヤノンの複合現実感システムは自動車分野で普及するか

ニュースイッチ 6月6日(月)12時20分配信

生産ラインのCG上で計測した身体の動きから作業負担を減らす

 キヤノンは3次元のコンピューターグラフィックス(CG)が現実空間上に存在するかのようにみせる複合現実感(MR)システム「MREAL(エムリアル)」について、自動車産業の分野で普及を目指す。娯楽目的のVR(仮想現実感)端末との違いは、高精度な位置決めだ。CGの大きさと場所が正確なため、“試作”代わりにもなり、部品点数の多い自動車ではコスト削減効果を実感しやすい。キヤノンは新製品を投入し、自動車関連メーカーへの採用拡大を狙う。

 「目の前に実物があるみたいだわ。視野が広く、細かなパーツもよく見える」―。5月25日に発売したMRシステムの新製品「MREALディスプレーMD―10」を記者が装着し、シートに座ると目の前に車のハンドルや計器類が現れた。軽くひじを曲げながら手を伸ばすと、ちょうどハンドルをにぎる格好になった。手を伸ばし過ぎるとハンドルを突き抜けてしまうほど、位置決めは細かい。計器類やカーナビゲーションシステムなども同じだ。

 このため、図面上の配置で使いやすいかどうかを極めて精緻に確認できる。位置決めは周囲に配置したセンサー類とエムリアルが通信して行う。

 第1弾のMRシステム製品を発売してから約4年。新製品のMD―10は高精細・広画角な映像に進化させた。水平方向の画角は60度、垂直方向は40度で、視野面積は従来比で約2倍。両手がしっかり見えるほど視野が広がった。また、高精細化でボルトの先も見え、ボルト締め付け作業などもできるようになる。MD―10の投入により、CGがより現実に近づいている。

 MRシステムを開発部門や生産現場で使えるもうひとつの理由は、協力企業との連携で、個別の作業に適したアプリケーションソフトを増やしたことにある。

<CADを使えない人も実物大でイメージを共有>

 キヤノンITソリューションズ(東京都品川区)のエンジニアリングソリューション事業本部の八木則明MR事業部技術部長は、「CADを使えない人も実物大でイメージを共有でき、意思決定を早く行えるなどの導入効果が上がってきた」と手応えを語る。ある製造装置の開発期間を計画の3分の2に短縮できた企業もあるという。

 また、車のように大きな製品は、模型や平面映像と実物大では印象が違ってしまう。MRを使うと実物大のCGの周囲を動き回り、誰でもさまざまな角度から立体映像を確認でき、実感できる。

 最近では、生産ラインのCG上で物を動かし、この時に計測した身体の動きから作業負担を減らす方法を検証するアプリの紹介を始めた。先行導入した企業では、新しい生産設備の検証にかかる時間を50分の1にできたという。

 普及拡大のポイントは、多様なアプリと組み合わせて、顧客ごとに導入効果を最大限に引き出せるかどうかにある。MD―10の価格は1台900万円と高価だ。

 従来機種の納入実績は約50社で、社内で利用範囲を広げる顧客もいるが、「最初は使い方に戸惑う人もいる」(八木技術部長)という。新製品を出した今、現実社会にMRを普及できるかどうか正念場を迎えている。

日刊工業新聞・第一産業部 梶原洵子

最終更新:6月6日(月)12時20分

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