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徳島県美波町に「サテライトオフィス」が続々進出する理由 本家「神山バレー」しのぐ勢い

ZUU online 6/7(火) 10:10配信

都会のIT、クリエイティブ企業が地方に置くサテライトオフィスは「神山バレー」とも呼ばれる徳島県神山町が有名だが、それを上回る勢いで誘致が進む自治体が同じ徳島県に登場した。アカウミガメの産卵地として知られる県南部の美波町で、3月末現在では神山町を1社上回る13社が立地している。

県庁所在地の徳島市に隣接した山村の神山町と異なり、美波町は徳島市から車で1時間ほどかかる県南部の漁村。“本家”をしのぐ人気ぶりはどこに理由があるのだろうか。

■3月末現在で13社進出、「本家」神山町しのぐ勢い

美波町は太平洋に面した県南部の日和佐町と由岐町が合併し、2006年に発足した。6月1日現在の人口は約7200人で、1970年の約1万3000人から6000人近く減っている。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合は40%を突破、高齢化社会の進行も深刻だ。

神山町に第1号のサテライトオフィスが進出した2011年から都会のIT企業などを対象に誘致活動を始めた。徳島県内がテレビの地上波デジタル化で難視聴区域となることから、光ファイバーによる高速通信インターネット網が整備されていたことを生かした。

翌2012年に第1号として進出したのは当時、東京都新宿区に本社があったIT企業サイファー・テック。吉田基晴社長(44)が美波町出身だったこともあり、美波ラボを設置、2013年には本社を移した。

その後、IT企業やデザイン、建築事務所などが首都圏や京阪神から次々に移転した。進出企業数は3月末現在で13社。現在は神山町に13社目が進出して同数になっているが、3月末現在では美波町が1社多かった。

各オフィスでは、移住者12人を含む16人が常時働いている。さらに数社が現在、開設を検討しているという。2014年には6人ではあるが、転入者が転出者を上回る人口の社会増を達成した。

各サテライトオフィスは古民家や銭湯、公共施設跡などを改修して事務所にしている。ITやクリエイティブ関連の仕事は、高速インターネット回線とパソコンさえあれば働く場所を選ばない。どのオフィスでも首都圏や京阪神にいたときと同じように仕事をしている。

地域活性化支援に特化した事業展開を目標に起業した会社が生まれたほか、地元商品のプロデュースやコラボ商品の開発も進んだ。建築事務所は新たなサテライトオフィスの進出や移住者を見越し、地元の移住コーディネーターと連携して空き家の改修に参画している。

■若者が地域に溶け込み、社会に貢献

移り住んできた人は若者や子育て世代が多い。地元雇用も若い世代だ。高齢化が進んだ地域だけに、サテライトオフィスの周囲には若者の姿が目につき、地域に活力を与えている。

移住者たちは単に職場と家庭を往復するだけでなく、サーフィンなど海、山、川のレジャーを楽しむ人が少なくない。美波町は海岸近くまで山が迫り、山と川と海が狭い区域に密集した箱庭のような場所だ。都会では感じられない豊かな自然が、生活環境や職場のすぐ近くに広がり、いつでも満喫できる。

地元の阿波踊りチームに当たる「連」や消防団に入り、地域の人たちと交流する人もいる。日和佐八幡神社の秋祭りでは「ちょうさ」と呼ばれる太鼓屋台の担ぎ手として海岸を練り歩いている。

都会にいれば数百万人いる人口の中の1人だが、美波町だと1対1で地域と向き合わざるを得ない。それを新鮮に感じ、地域社会に溶け込もうとしている若者も多いようだ。

美波町は四国霊場23番札所薬王寺の門前町として栄えてきたため、田舎独特の閉鎖的な空気が少ない。他の地域ではサテライトオフィスの若者と地元住民間のトラブルをときおり耳にするが、門前町の開放的な雰囲気が外から来た若者を地元に溶け込みやすくしているのかもしれない。

■おおらかな町民性が誘致を促進

各企業はなぜ、進出先として美波町を選んだのだろうか。サイファー・テックの社長で、地域活性化支援会社・あわえを起業した吉田さんは「人材確保が最大の理由だ」と打ち明ける。

都会のベンチャー企業は会社の名前が売れるまで、なかなか優秀な人材を確保しにくいが、働く場所の少ない地方に目を向けると、スムーズに人材確保が進んだという。「排他的でなく、おおらかな町民性も魅力を感じた。地域から必要とされることで、社員それぞれが感性や創造力を高められる」と指摘した。

自然の魅力をアピールするのは、2013年にサテライトオフィスを開設したIT企業鈴木商店(大阪市)の小林武喜さん(40)。「美波町には山や川だけでなく、豊かな海がある。趣味のサーフィンに最適だし、海の魅力は大きい」と語る。

鈴木商店はサテライトオフィスの開設地を求め、いくつかの候補地を調べたが、決め手となったのは海の魅力だった。小林さんは「海と地域の温かい人柄に触れ、大阪にいたとき以上によく話し、笑えるようになった」と笑顔を見せた。

美波町はウミガメが産卵する大浜海岸の近くに、就業生活を短期体験できる施設の戎邸を開設し、お試し移住を呼びかけている。築約80年の古民家を改修、ネット環境とテレビ会議用機材を備え、コミュニティースペースも併設した。

美波町総務企画課は「常設のサテライトオフィスだけでなく、短期滞在やお試し移住などにも対応し、誘致をさらに進めたい」と意気込んでいる。美波町の快進撃はまだまだ続きそうだ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

最終更新:6/7(火) 10:10

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