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<Wコラム>徹底解説! なぜ韓国時代劇はこんなに面白いのか(後編)

WoW!Korea 6月7日(火)17時31分配信

かつては韓国時代劇が放送されると、歴史学者から「歴史を歪曲している」とクレームがつくことがよくありました。学者の立場からすると、あまりに創作の多い時代劇を批判したくなるのです。ただし、テレビ局も黙ってはいませんでした。

太陽を抱く月の紹介と写真

■時代考証よりも面白さを追求

 韓国ではテレビ局と歴史学者の間で、「時代劇はどこまで歴史に忠実でなければいけないのか」という論争が長く続いてきました。

 しかし、その論争も少なくなりました。『王女の男』『太陽を抱く月』では、冒頭にテロップを流して「これはフィクション」と説明しており、史実に沿っていないことを明示しています。

 何よりも、今の時代劇の制作者は現代的な感覚を大事にしています。たとえば、『王女の男』に出てくるチョゴリがいい例です。

 あのドラマは1450年頃を描いています。朝鮮王朝ができてから60年ぐらいの時代です。その頃の女性が着るチョゴリは丈が長く、時代とともにだんだん短くなってきました。今のようにチョゴリが胸までの長さになったのは朝鮮王朝時代の後期です。

 しかし、ドラマでチョゴリを1450年当時のように忠実に再現すると、現代の韓国人から見たときに違和感があります。『王女の男』では、そこの部分は時代考証に目をつぶり、現代的にチョゴリを見せているのです。

 このように全体的な流れとしては、時代考証よりもドラマとしての面白さを追求する傾向にあると思います。

■必須な人を取り上げる

 韓国時代劇の流れを変えた、という意味でも『王女の男』は時代劇のターニングポイントになったと言えるかもしれません。

 この作品は1453年に起こった歴史的大事件の「癸酉靖難(ケユジョンナン)」をうまく活用しながら、独特のキャラクター作りがなされています。

 物語の主軸には、首陽大君(スヤンデグン)と金宗端(キム・ジョンソ)という大物同士の対立が根深くあり、さらにその娘と息子が禁じられた恋に落ちるという構図になっています。

 葛藤につぐ葛藤というストーリー展開に加え、衣装は現代的な感覚で華やかに作られ、映像の美しさに心を奪われます。さらにイタリアンオペラを彷彿させる荘厳かつ華麗な楽曲の使用など、制作側の工夫がいろいろ凝らされています。

 キム・ジョンミン監督も言っていますが、韓国時代劇には「歴史上、絶対に取り上げなければならない人を正しく取り上げる」という役割があるのです。

 朝鮮王朝の歴史はかなり不条理なもので、正義が必ず勝つわけではなく、むしろ負けっぱなしです。

 王位継承争いにしても、悪が勝つことのほうが多かったのです。それでも、正しいことを行なおうとして、その願いがかなわなかった人たちがいました。韓国時代劇では、そんな人たちをきちんと取り上げようとする意図が明確です。『王女の男』でも、死六臣がつかまって牢獄にいるときにキム・スンユが助けに来ますが、彼らは「我らは歴史の中に残り、首陽がどれほどひどい男であるかをみんなが忘れないようにしたい」と言って逃げません。 

■『太陽を抱く月』の成功

 このように歴史の不条理さ、かなえられなかった正しさを、視聴者はドラマを通してきちんと理解できるようになっています。

 やはり『王女の男』は、俳優、ストーリー、映像美、さらに歴史を問い直すテーマの鋭さがそろった画期的なドラマでした。

 人気を博した『太陽を抱く月』はどうでしょうか。

 この作品は、朝鮮王朝の枠組みをきっちりと描いていながら、登場人物がすべて架空です。どの時代を設定しているかはわかりませんが、序盤では王の弟が殺されたり、世子の婚約者を決める王朝のしきたりを見せたりしています。まさに本格派時代劇にふさわしい内容です。

 その一方で、子役たちが演じるラブストーリーが良かったですし、王朝では隠れた存在である巫女を表に出して王と同じ空間で語り合わせています。いわば、あり得ないことを現実に起こったことのように見せているのです。

 そうした点で非常に斬新なドラマと言えるでしょう。

 韓国でも全般的にテレビ視聴時間が減っている現在、視聴率が40%を超える国民ドラマになったことは大いに意義があります。今後の韓国時代劇に“希望の光”をもたらしたドラマでしょう。

■独自の企画に期待する

 韓国の歴史がわからなくても、韓国時代劇には誰もが楽しめる普遍性があります。それは権力欲や恋愛、親子の情など、人間そのものの描写がいいからです。つまり、何よりも人間ドラマとして十分に楽しめるのです。

 この韓国時代劇をさらに楽しむためには、たとえば朝鮮王朝の基本的な仕組みを知るといいでしょう。

 朝鮮王朝は、王が絶対的な権力を持ち、その周囲を官僚たちが支えるという中央集権国家でした。さらに、身分制度が厳しく、人間は生まれながらにして不平等でした。儒教の影響で男尊女卑もありました。人間の半分はエリートになれない、という仕組みだったのです。

 でも、朝鮮半島の女性はヤワではありません。とにかく、頑張るわけです。それがまた、ドラマの中で成長物語として描かれていましたし、その時代的背景がわかれば、韓国時代劇をさらに面白く見ることができるでしょう。

 韓国時代劇の制作過程を見てみると、本当に大変です。地方ロケが多いので俳優は移動だけでも疲労困憊。女優は髪型や衣装を整えるのに時間がかかり、男優は乗馬や殺陣を習わなければなりません。現代ドラマより数倍のパワーが必要なのです。

 それでも韓国の人たちは歴史や時代劇が大好きで、現場には「とにかく面白い作品を作ろう」というエネルギーが満ちあふれています。そんな人たちが作る興味深い作品が今後も続々と生まれるでしょう。

 ただ、似たような作品が出てくることには危機感も感じます。やはり、独自の企画にこだわってほしいところです。

 これからは、誰もが知っている大物だけではなく、チャングムのように、歴史の中で埋もれていた人たちが新しく発掘されて魅力的なキャラクターになることを期待しています。そうなれば、韓国時代劇はもっともっと面白くなるでしょう。

文=康 熙奉(カン ヒボン)
ロコレ提供
出典=電子書籍「康熙奉講演録-朝鮮王朝で一番知りたい話」(収穫社)

最終更新:6月7日(火)17時31分

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TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。