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心配なのは新興国リスクより「アベノリスク」

ニュースソクラ 6/7(火) 16:00配信

「安倍版ブードゥー経済学」を斬る

 世界経済の大きなリスクに備え、消費増税を2019年10月に30か月遅らせる。ただし、20年の財政健全化目標は変えない。その時、自分の自民党総裁任期は過ぎているけど。安倍晋三首相の記者会見の要点だ。

 政治家は次の世代を、政治屋は次の選挙を考える。だれが“安倍版ブードゥー経済学”を信じよう。

 1980年の米大統領選予備選でレーガンと共和党候補を争ったブッシュ(父)が、「減税すると税収が増える」という相手の主張を「ブードゥー経済学」と呼んだ。ブードゥーは、カリブの島国ハイチなどの民間信仰で、宗教よりは呪術に近い。理論的根拠が薄弱な“お呪(まじな)いの経済学”と茶化したのだ。

 実際、レーガン政権下で財政と国際収支の“双子の赤字”が膨らんだのは周知の事実だ。

 20年にプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化する財政健全化目標は(1)実質2%、名目3%以上の成長(2)来春の消費税10%への引き上げ、が前提だ。成長率の実績は、はるかに低く、増税も先に延びる。なのに、20年に基礎収支が突如黒字化するというなら、もう「お呪い」に頼るしかない。

 「リーマン級」「東日本大震災級」の異変がない限り増税は予定通り、と繰り返してきた安倍首相が、現状がリーマン級でも大災害でもなく、再延期は公約違反と認めた。判断を変えたのは世界経済、それも中国など「新興国のリスク」のせい、というのだ。

 中国は、習近平に近い権威筋が、先行きはV字でもU字でもない「L字型」と、構造的な成長屈折を容認している。ロシア、ブラジルの低迷は石油などの資源価格下落のせいだが、資源輸入国インドは2年続けて7%台の成長。新興国をひとくくりにできない。

 それほど新興国リスクにこだわるなら、なぜ伊勢志摩サミットで、オバマ米大統領に利上げを思いとどまるよう説得し、緊縮派のメルケル独首相に財政出動を強く迫らなかったのか。なぜ、大借金国の日本だけが「最大限アベノミクスをふかす」のか?

 首相が誇らしげに語ったように、有効求人倍率は過去24年来の最高、人手不足なのだ。なのに、秋に追加経済対策で公共事業も上積みするという。東日本や熊本地震の復興事業の足を引っ張る心配がある。

 潜在成長率が年0.2~0.4%台と推計される時に、やるべきは潜在成長率の天井を押し上げる構造改革(成長戦略)、安倍政権はずっとサボってきた「矢」だ。会見でも同一労働同一賃金には触れたが、岩盤規制や農協改革への言及はない。甘味専門店なのか?

 消費増税再先送りで、消費は増えるのか。前回の先送り後も消費は低迷した。むしろ社会保障や財政の持続可能性への不安が、消費を萎縮させないか。

 「選挙に負けたくないので痛みは先送り」以上の論理が見あたらない。某女史のように「アホノミクス」とは言わないが、「支離滅裂ノミクス」「後は野となれノミクス」くらいは言いたくなる。日本国民が直面するのは新興国リスクより「アベノリスク」の方だ。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:6/7(火) 16:00

ニュースソクラ

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。