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災害時、どこに避難する? 11都県に広がる「逃げ地図」づくり

SUUMOジャーナル 6月7日(火)7時30分配信

2000年以降だけでも震度6以上の地震がほぼ毎年起こり、津波や土砂崩れ、建物の倒壊などによる2次的な災害も生じている。そんな状況で大切なのは、やはり一刻も早く安全に避難場所まで逃げること。子どもからお年寄りまで誰でもが無事に避難場所にたどりつけるよう工夫を重ね開発された「逃げ地図」が今、広まりつつある。「逃げ地図」の研究開発・普及をすすめてきた日建設計ボランティア部の羽鳥達也氏、明治大学教授の山本俊哉氏に話を伺った。

■逃げ地図を一緒につくりあげて、リスクを共有する

「逃げ地図」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 正式名称は「避難地形時間地図」という。津波などのハザードマップや過去の自然災害の履歴をもとに、近隣にある高台などを避難目標地点として、そこまでの避難経路を示したものだ。避難経路は、避難目標地点までの所要時間が一目で分かるように、歩行時間3分(1分=43m)ごとに異なる色で塗り分けてある。最も近い区間は緑色、最も遠い21~24分の区間は黒だ。避難目標地点から離れるにつれ、暗く濃い色に設定されているので、直感的に危険度の移り変わりが分かる。

実はこの「逃げ地図」のいちばんの特徴は、避難場所までの距離や経路が分かりやすいこと……ではない。ある地域に住む老若男女の住民が一緒になって、地域のいくつかの拠点から避難目標地点までの安全な経路を意見を出し合って決め、つくり上げる点にある。小学生、中学生などの子どもたちが加わるケースもある。話し合いながら、これまで知り得なかった危険個所の情報交換をはじめ、より安全な避難経路の検討ができる。

住民同士が、非常時を念頭に置き一緒に「逃げ地図」をつくることは、その地域でのリスクやその重要性の共感につながる。また、この共同作業をきっかけに住民の輪が広がり、非常時の助け合いに結び付く可能性もある。「逃げ地図をもとに避難訓練や避難経路の整備などを始めた地域もある」と山本氏は話す。

【画像1】陸前高田市長部地区の逃げ地図。地上のグレーで塗られた部分は東日本大震災の津波の浸水域。右端の走り書きのメモは、避難に有効そうな近道をつくった場合の費用。1mあたり4万円の工事費用で換算している(画像提供:日建設計)

■11都県に広がる”逃げ地図”ワークショップ、きっかけは東日本大震災

この「逃げ地図」を発案したのは、大手設計事務所である日建設計のボランティア部だ。きっかけは東日本大震災の直後に、現地には頻繁に行けないものの、建築のプロとしてできる支援を模索したことにある。「被害の深刻さを目の当たりにし、できるだけ実現性のある支援方法を探った」と、部員である設計部門設計部長の羽鳥氏は思い返す。避難時のリスクを可視化して被災者の将来への不安を和らげ、復興計画の立案に向けた合意形成に役立てば、という想いがあった。

「逃げ地図」は当初、ボランティア部がつくったものを現地の知り合いに渡していたが、なかなかそこに示されている情報の意味が伝わらなかった。あるとき現地の住民と一緒につくってみたところ、理解度が格段に上がったのだという。その後は希望のあった地域で、「逃げ地図」作成のワークショップを行った。 

2013年からは山本氏や千葉大学大学院教授の木下勇氏などの有志と研究開発グループを立ち上げ、ともに「逃げ地図」の作成・活用などの全国的な普及に取り組んできた。各地域の住民参加型のワークショップを中心に普及をすすめている。すでに、東日本大震災の被災地、南海トラフ地震の被害が想定される地域など、岩手県から高知県までの11都県で、ボランティア部や大学の研究室が牽引役となりワークショップを開催した。

【画像2】岩手県陸前高田市長部地区の住民と市議会議員を中心としたワークショップ。津波を前提とした避難経路の検討をした(画像提供:日建設計)

【画像3】高知県黒潮町佐賀地区で地元の自主防災会、漁協女性部、消防団などの住民のほか小学生も交えたワークショップ。南海トラフ地震での津波を想定した(画像提供:明治大学山本研究室)

■用意するのは「地図」「色鉛筆」「ひも」だけ

「逃げ地図」は、基本的に2000~2500分の1の地図と12色以上の色鉛筆、ひもだけでつくれるようにした。ひもは長さ5~7㎝で、伸び縮みしない素材のものがいい。このひもは地図上での3分間の移動距離=129mに相当する長さになっており、色を塗る目安にする。

【画像4】メジャー代わりにした皮ひも。柔軟なうえ丈夫で繰り返し使える(画像提供:日建設計)

【画像5】高台などの避難場所に赤い丸印をつけ、そこから徒歩で3分の距離ごとに色分けして塗っていく(画像提供:日建設計)

そのほか、注意すべき場所には、そのコメントを書き込んだ付箋を貼る。最後に、それらの情報をもとに避難する方向を矢印で示していく。ワークショップで複数のチームがあった場合は、「この後に班ごとに成果を発表しあい、さらに多くの情報を共有する」と山本氏は話す。

【画像6】高知県黒潮町佐賀地区で作成した地図を学生がPCで仕上げたもの。コメントが重要なことが分かる(画像提供:明治大学山本研究室)

【画像7】作成後、各チームが気づいた点を発表している。宮城県気仙沼市津谷川流域地区でのワークショップの様子(画像提供:明治大学山本研究室)

「逃げ地図」のつくり方はWEBサイトで無料公開されており、情報を参考にしながら、誰でも、どの地域でも自由に取り組める。また今後、明治大学の山本研究室では、津波だけでなく、土砂災害や火災への応用について研究を進め、後に関連情報を公開する予定だ。

最後に、ワークショップや完成した「逃げ地図」を有効に活用するためのポイントをふたりに聞いた。
「突然の災害に対応するには、危機感の維持が必要だ。ワークショップは継続的に行うといい」(羽鳥氏)。「子どもから高齢者までの幅広い年齢層の人たち、また行政、消防団、学校関係者などできるだけ多様なグループの住民が参加して情報や考えを共有してほしい」(山本氏)

ぐらっと来たときに、一緒に「逃げ地図」をつくった仲間の顔が頭に浮かぶ。仲間同士で声を掛け合いながら互いに無事を確認し、皆で考えた避難路をたどってゆく。そんなシーンが想像できる。作業を通して生まれた近隣とのつながりが、ひとりでも多くの人を救うことになるに違いない。

●取材協力
・日建設計ボランティア部 羽鳥達也氏
・明治大学教授 山本俊哉氏

●参考
・避難地形時間地図 逃げ地図
・一般社団法人 子ども安全まちづくりパートナーズ

介川亜紀

最終更新:6月16日(木)20時48分

SUUMOジャーナル