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電王戦・アルファ碁でも注目続く 「人工知能」の未来と『エクス・マキナ』

dmenu映画 6月8日(水)21時0分配信

いま、“人間VS人工知能”をめぐる盤上の戦いが注目を浴びている。将棋では棋戦「叡王戦」に羽生善治名人が出場すると発表された。この「叡王戦」の優勝棋士には最強のコンピューターと対戦する「電王戦」への出場権が与えられるのだ。さらに、Google DeepMind社が開発した囲碁の人工知能「アルファ碁」が、世界トップクラスのプロ棋士、イ・セドル九段との対局に勝利したのも記憶に新しい。

「人工知能」の使命の一つは、「人間」には成し得ない、高度な処理能力を獲得することだ。それゆえ、“彼ら”は将棋や囲碁の対局といったような形で、人間との比較に身を晒し、自らの存在意義を提示する。将棋や囲碁の世界に彼らの能力がとどまるのであれば、まだ可愛いものだ。しかし、人工知能が人類の叡智をはるかに超える能力を手にした時――これを技術的特異点(シンギュラリティー)と呼ぶ――、果たして我々は、人工知能とともに共存することはできるのか。

映画『エクス・マキナ』はその疑問に対し、ひとつの可能性を示している。本作では、検索エンジンで名を馳せる世界最大のIT企業の社長ネイサン(オスカー・アイザック)が開発した女性型ロボット、エヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)に搭載された人工知能が実用レベルかどうか、つまり人間とくらべて遜色がないかを、同社の社員ケイレブ(ドーナル・グリーソン)がテストを重ねていく。そのテスト方式が興味深い。ケイレブとエヴァは、ガラス一枚を隔てて椅子に座り、対話を重ねていくのだが、向き合った姿はまるで盤を挟んで向き合う「対局」のよう。駒を進めるがごとく慎重に言葉を交わしていく。

イ・セドルはアルファ碁との対局を終えた後の会見で、「アルファ碁が打つ手を見て、私たちがこれまで知っていた手が正しかったのか疑問を抱きました」と常識が覆されたことへの驚きを述べている。ケイレブもエヴァとの対話のなかで、生命を定義する根幹がゆらぎ、アイデンティティを失いはじめてしまう。一方で、新たな感情を手にするエヴァ。そして彼女の行動は徐々にケイレブの理解を超えていく。

人間は理解できないものに対し恐怖を抱く。それゆえ、シンギュラリティーに達した人工知能に対する懸念はなかなかに拭い去れない。今年3月23日、Microsoftが開発した文章で簡単な会話ができる人工知能「Tay(テイ)」がTwitterなどで運用を開始したが、差別発言などの不適切なツイートが相次ぎ、わずか一日で停止に追い込まれてしまった。これは、Tayの学習アルゴリズムの裏をかいたユーザーの働きによるものだった。善悪の区別のない人工知能に対し、人間が悪意を刷り込んでしまったのだ。

NHKの番組「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」で、羽生はこう語った。「驚異的な能力を持つ人工知能だが、それ自体に倫理観はない」。人間が倫理観を養うのは、「教育」と「環境」が重要だ。『エクス・マキナ』でエヴァは、開発者のネイサンの教育と、ケイレブとの対話形式をとったテスト環境のなかで学習していく。それはまるで、親が子どもを諭しているようにもみえる。SFの形式を借りているが、『エクス・マキナ』は子どもの成長、親子の軋轢という普遍的な出来事を扱っているのだ。

子は親を凌駕するもの。それが進化というものだ。とすると、人工知能は人類の次の進化の形なのかもしれない。映画の終盤、テスト=対局を終えたエヴァはある行動にでる。それは人工知能と人間が迎える局面のひとつ。巣立ちともいえるものだった。

『エクス・マキナ』
2016年6月11日(土)より、シネクイントほかで全国ロードショー!
ユニバーサル映画 配給協力:パルコ
(c)Universal Pictures

文=久美雪/Avanti Press

最終更新:6月8日(水)21時0分

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