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米利上げ観測後退、景気失速の懸念広がる

ZUU online 6月9日(木)19時10分配信

来週14~15日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれる。5月の米雇用統計が予想外に低調だったことを受け、来週の利上げ見送りはもちろんのこと、7月の利上げ見通しも大きく後退している。年内利上げの可能性はまだ消えてはいないが、ウォール街の市場関係者からは「利上げ時期に頭を使うより、景気そのものが失速している可能性に注意を向け始めたほうが賢明かも知れない」と将来を危惧する声も出始めている。

FRB(米連邦準備理事会)がまだ7月の追加利上げに含みを持たせているにもかかわらず、マーケットは何をみて米景気の先行きを懸念しているのか、そのあたりを探ってみよう。

■雇用統計の弱さは「単月の振れ」で済まされるのか?

イエレン議長をはじめとして、少なからぬエコノミストが5月の雇用統計の弱さについて、単月での判断を控えるべきだとの見解を示している。もちろん、雇用統計は月次での振れが大きいことは承知しているが、トレンドや他のデータからも雇用情勢の減速は指摘できそうである。

まず、弱かった雇用統計の内容を確認すると、非農業部門の雇用者数は3.8万人の増加となった。国勢調査の影響で減少した時期を除くと、金融危機からの回復後、実質的にみて最低の数字に落ち込んだ。イエレン議長は労働市場への新規参入を吸収できる水準を10万人と指摘しており、5月までの3カ月平均は11.6万人増加とこの水準を若干上回ったことから、まだ危機的な状況にないことは確かだろう。ただし、問題は水準ではなく方向性となる。3カ月平均は昨年12月の28.2万人増加をピークに減少を続けており、トレンドそのものは明らかに下向きを示している。したがって、雇用の伸びの鈍化を「単月の振れ」とするのは少々無理がありそうだ。

また、失業率の低下や賃金の高い伸びが7月の利上げを正当化できるのと見方もあるが、いずれも留意が必要だ。まず、失業率の低下は労働参加率の低下によるものであり、雇用の質は改善していない。失業中の人が職探しをあきらめると、統計上は失業者から除外されてしまうので、失業率が低下する。今回の失業率の低下はこの影響を排除できず、必ずしも雇用情勢の改善を示唆しているわけではない。

次に、賃金の伸びはそれほど高くはない。平均時給は前年同月比2.5%上昇と前月から横ばいにとどまっており、年初からの動きをみても加速している様子はうかがえない。イエレン議長は、2%のインフレ目標を達成するには3~4%の賃金の上昇が必要としているが、昨年12月の利上げ開始時の賃金の伸びが2.5%だったことを踏まえると、5月の水準は利上げ実施にはギリギリの数字だったといえる。また、労働時間は2月から横ばいが続いているほか、前年同月比では下回っている。したがって、受け取る金額は時給ほどには伸びていない。

加えて、FRBが公表している労働市場情勢指数(LMCI)をみると、5月はマイナス4.8となり、4月のマイナス3.4からマイナス幅を拡大した。マイナスは5カ月連続となり、これは今回の景気回復局面では初めてのこと。マイナス幅も拡大が続いていおり、雇用情勢が趨勢として鈍化していることはFRBが公表している統計からみても明らかであろう。

■米景気が失速している可能性への警戒が必要

昨年12月に利上げして以降、米景気が失速していることから、その責任を問われたくないFRBが今回の数字を1カ月のみで判断すべきでないとするのは当然といえる。とはいえ、米景気が失速しつつある兆しが雇用統計以外にもうかがえるので、景気失速への警戒は緩めるべきではなかろう。

米経済が失速している兆しとして最初に指摘できるのが、労働生産性の低下である。1~3月期の米労働生産性は前期比0.6%低下と昨年10~12月期の同1.7%低下に続き、2四半期連続でマイナスとなった。これは米経済の潜在的な成長率が低下していることを示唆しており、FRBが目標とする2%を長期的に達成できる能力がもともと備わっていない可能性がある。別の角度からみると、目標とする水準を達成する以前にインフレが加速してしまう可能性があるともいえる。

また、労働生産性の低下は単位労働コストを押し上げるが、労働コストの上昇が企業収益を圧迫し、投資や雇用の抑制につながる可能性がある。また、賃金が上昇すればその分労働コストも上昇するので、生産性が低下するなかで賃金が上昇した場合には雇用に対してよりネガティブに働くことになる。

ファクトセットによると4~6月期のS&P500採用企業の業績は5四半期連続での減益が予想されている。逆風となっていたドル高と原油安が反転していることは明るい材料ではあるが、コストの上昇と業績の悪化がさらなる雇用の鈍化を促すことは十分に考えられる。

5月の雇用統計では、経済的な理由でパートで働く労働者が46.8万人も増加しており、これは労働コストの上昇と業績の悪化による雇用への悪影響が既に現れている徴候かも知れない。米雇用統計でのパートタイムとは、勤務時間が週34時間以下の労働者のことを指し、労働時間が伸びていないのはパートが増加していることも影響している。また、正社員になれないので仕方なくパートで働いてる労働者などを実質的な失業者とみなした広義の失業率は9.7%で前月から変わっていない。

■6月の利上げ確率は2%、次回雇用統計では鉱業への期待も

CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のフェドウォッチによると、5月には30%を上回っていた6月のFOMCでの利上げ確率は、6日現在で2%にまで低下しており、可能性はかぎりなくゼロに近くなった。また、同じく50%を上回っていた7月のFOMCでの利上げ確率も25%にまで低下している。まだ、可能性は残されているが、厳しい状況となったことは間違いない。ちなみに、12月のFOMCでは64%となっており、現状では年内に1回あるかどうかという織り込み具合となっている。

最後に、7月の利上げを占うことになるであろう「6月の雇用統計での注目点」を挙げておく。まず、ベライゾンのストライキが妥結したことで、統計上は約4万人分が上乗せされる計算となる。次に、製造業での雇用者数が減少しているが、石油採掘施設であるリグの稼動数が増加に転じており、6月以降の製造業の雇用を下支える可能性がある。これらの点を考えると、雇用統計でポジティブサプライズがないとも断言はできず、雇用の鈍化・景気の失速をメインに考えた場合には、リスクシナリオとなる。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

最終更新:6月9日(木)19時10分

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