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欧州経済見通し~緩やかな景気拡大、低インフレ、そして政治的な緊張も続く~

ZUU online 6/9(木) 19:30配信

■要旨

◆ユーロ圏では、内需主導の緩やかな拡大が続いているが、国ごとの方向や水準、ピッチのばらつきも目立つ。

◆16年の実質GDPは1.6%と予測する。個人消費は、低インフレによる実質所得押し上げ効果は徐々に剥落するが、雇用所得環境の改善が続き、緩やかなに拡大がしよう。著しく緩和的な金融環境は設備投資の追い風となろう。

◆ECBの追加緩和の余地は、すでに踏み込んだ緩和を実施している上に副作用の懸念もあり、狭まっている。16年の財政政策は全体ではやや拡張的だが、南欧、フランスなど経済や雇用情勢が厳しい国ほど財政政策の制約が強い。ユーロ圏は構造的に金融政策に負荷がかかりやすい。

◆国毎に景気の位相は様々だが、国民の既存の政治に対する不満の高まりは広く共通する傾向だ。各国の選挙では、主流派政党の支持が低下、反緊縮や反EU・反移民など従来の政策路線を否定する政治勢力に支持が広がる傾向が鮮明になっている。

ギリシャを除き、政局の変化が経済活動に大きな影響を及ぼしたケースはないが、今後、6月23日の英国の国民投票など大国で重要な政治イベントが相次ぎ、その結果の重みは増す。

■緩やかな景気拡大、低インフレが続く

◆1~3月期のユーロ圏は前期比年率2.2%。緩急の差はあるものの主要国は総じて改善

ユーロ圏では、14年6月以降の欧州中央銀行(ECB)の金融緩和の強化、中立からやや拡張的な財政政策に支えられた内需主導の緩やかな景気拡大が続いている。

16年1~3月期のユーロ圏の実質GDPは前期比0.6%、前期比年率2.2%と10~12月期の同0.4%、同1.7%から景気拡大のテンポが加速した。

需要面では、最大の需要項目である個人消費が前期比0.6%と10~12月の同0.3%から加速したことが最大の押し上げ要因となった。固定資本形成は、10~12月期の同1.4%から鈍化したもの同0.8%と高めの伸びを保った。

政府支出の伸びも10~12月期の同0.5%から1~3月期は同0.4%とやや鈍化したが、引き続き成長の押し上げ要因となった。外需は、3四半期連続で成長の下押し要因となったが、成長の押し下げ幅は10~12月期の0.3%から同0.1%に縮小した。輸出が同0.7%から同0.4%に減速したものの、輸入の伸びが同1.4%から同0.7%へと鈍化した。

主要国では、スペインが前期比0.8%と最も高く、ユーロ圏で最大のドイツも暖冬の影響で投資が上振れたこともあり、10~12月期の同0.3%から同0.7%に加速した。フランスは、パリのテロ事件がおきた10~12月期の低成長の反動もあり、1~3月期は同0.6%に加速した。イタリアは1~3月期は同0.3%と10~12月期の同0.2%からやや加速したものの、主要国で最も低調に推移している。

◆4~6月期も緩やかな拡大持続も成長テンポはやや鈍化。イタリアに失速の兆候

4~6月期も緩やかな景気拡大は続いているが、1~3月期の成長を押し上げたパリのテロ事件の反動や暖冬など特殊要因が剥落で成長のテンポは鈍化している。実質GDPと連動性が高い総合PMI(購買担当者指数)は5月(確報値)が53.1と4月の53.0から僅かな改善に留まった。PMIは50が生産活動の拡大と縮小の分岐点に相当し、ユーロ圏の4~5月期の実績値は実質GDPで前期比0.3%に相当する。

総合PMIは、ユーロ圏全体では緩やかな拡大が続く一方で、国ごとの方向や水準、ピッチのばらつきも目立つようになっている。

スペインは、引き続き主要国で最も高い水準を保っているが、回復ピッチが鈍る兆候を示している。ドイツは昨年12月をピークとする鈍化傾向にいったん歯止めが掛かり、実質GDPで前期比0.5%相当の勢いを保っている。フランスは今年2月には50を割込む水準まで低下したが、直近3カ月は50を上回る水準で緩やかな改善が続いている。

他方で、イタリアが4月の53.1から5月は50.8まで急低下し、特にサービス業PMIは49.8と50を下回る水準まで低下しており、回復基調の持続に黄信号が灯った。

ユーロ圏経済で緩やかな拡大が続くようになったのは、雇用所得環境の改善が定着し、個人消費が底堅さを増し、自律性が高まったからだ。ユーロ圏全体の雇用は14年に入ってから拡大基調が定着している。賃金の伸びは、世界金融危機前に比べて伸びは鈍化しているが、原油安によってインフレ率を差し引いた実質雇用者所得は、15年を通じて2%台半ばで推移した。

しかし、雇用の回復にも、生産活動と同じく、国ごとの方向や水準、ピッチのばらつきが大きい。ユーロ圏全体の失業率は13年のピーク時の12%超の水準から今年4月には10.2%まで低下した。主要国で最も早いペースで低下しているのはスペインだが、直近でも20.1%でユーロ参加国中24.2%のギリシャに次ぐ高水準だ。

他方、ドイツは4.2%で、ユーロ圏で最低、かつ現行統計開始以来、最も低い水準で失業者数の減少傾向も続いている。フランスは9.9%でようやく10%を切ったが、世界金融危機前の7%台を遥かに上回っており、引き続き雇用の創出と失業の解消が政策課題となっている。景気回復の持続力が心配されるイタリアは11.7%で14年初のピーク(12.8%)から改善しているものの、ここ1年ほど一進一退が続いている。

賃金の伸びも国ごとの差は大きい。欧州委員会統計局が作成している労働コスト指数の前年比の伸び率を見ても、ユーロ圏平均の伸びの安定は、完全雇用のドイツの高めの伸びとイタリアの鈍化、スペインの底這いという結果である。

ユーロ圏経済のエンジンとなっている個人消費を支える雇用所得環境は、全体では改善しても、国ごとのばらつきは大きく、各国の国民の景況感にも大きな開きがあると推測される。

◆2016年の実質GDPは1.6%、内需主導の緩やかな拡大続く

ユーロ圏全体で見れば、16年後半も著しく緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策が下支える内需主導の緩やかな景気拡大は続く見通しである。16年年間の実質GDPは前年比1.6%と潜在成長率を上回ると予測する。

個人消費の伸びはやや鈍化しても、底堅さを保つ見込みだ。16年後半には、原油価格の低下による低インフレの実質所得を押し上げ効果は徐々に剥落するが、ユーロ圏全体では雇用・所得の緩やかな伸びが期待される。

設備投資の拡大も続くと見られる。稼働率の上昇傾向は足踏みとなっているが、長期平均を上回っており、今年3~4月に実施された欧州委員会の設備投資計画調査でも、昨年秋の計画からは下方修正されているが、実質前年比6%増と、ここ数年の比較で見れば、強気の目標が維持されている。

企業マインドは、年初に世界的に金融市場の緊張が高まり、新興国経済の減速懸念が高まったことを受けて弱含んだが、その後、下げ止まっている。

著しく緩和的な金融環境、特にECBの資産買入れ策の対象に6月からは社債が加わり、ゼロ金利、場合によってはマイナス金利による4年物の資金供給も実施されるという金融環境も追い風となって、計画の伸びには届かないとしても、投資の拡大は続くと見られる。

輸出は、ロシアとの関係悪化、中国経済の減速で新興国の伸び悩みが続く一方、米国を中心とする先進国向けも減速している。

輸出環境は明るくはないが、当研究所が想定する米国経済は4~6月期には成長率が持ち直し、中国経済の減速も緩やかに留まる。後述のとおりECBの著しく緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策という政策の下支えもあるため、外部環境の悪化を理由とするユーロ圏経済の失速は免れると見ている。

◆ECBは、著しく緩和的な金融環境を維持し、回復をサポート

欧州中央銀行(ECB)の金融政策は、14年6月以降、デフレリスク回避のために強化されている。ECBの緩和強化策は、中銀預金金利をマイナスとするマイナス金利政策、国債等を買い入れる資産買入れプログラム(APP、量的緩和)、最長4年の資金を供給するターゲット型資金供給(TLTRO)、政策金利の先行きに関するフォワード・ガイダンスの4本柱からなる(*1)。

今年3月にこれら4本柱を駆使する包括的緩和を決めている。APPの中核をなす国債等の買入れは財政規律を形骸化させるおそれがある。ECBのマイナス金利政策は、APPやTLTROとの相乗効果で、緩やかな拡大を支える役割を果たしたと評価できるが、すでに導入から2年が経過、14年9月、15年12月、16年3月の3度の追加利下げで中銀預金金利がマイナス0.4%に達し、銀行収益の圧迫など副作用への懸念も広がりつつある。

南欧の経済情勢は依然として厳しく、著しく緩和的な金融環境を必要としているが、規制に起因する雇用創出力の弱さ、不良債権処理の遅れなどの構造問題は金融政策では解決できない。ECBは、追加緩和に慎重な姿勢を採ると思われる。

今回の見通しでは、ECBが次の一手を打ち出すタイミングは、9月8日の理事会が有力であり、内容も、世界的な金融市場の混乱などの波乱がない限り、現在、17年3月としている資産買入れプログラム(APP)の半年間の期限の延長とそれに伴うフォワード・ガイダンスの修正など現行政策の期間延長に留まると見ている。

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(*1)ECBの金融政策については2016年3月11日発行の経済金融フラッシュ「16年3月10日ECB政策理事会: 包括的追加緩和策を決定。必要だった利下げ打ち止めのシグナル」(http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52486?site=nli)をご参照下さい。
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◆財政政策は全体ではやや拡張的に

ユーロ圏全体では財政緊縮策の山を超えたことも、緩やかな景気の拡大が続くようになった要因だ。加盟国の財政ルールへの適合性を判断するEUの欧州委員会が、裁量的財政政策の規模を測る基準としている構造的財政収支の前年差は、15年がゼロで中立、16年はGDP比0.3%とやや拡張的となり、財政面からの下支えは15年比で拡大すると見られる。

◆財政赤字削減を求められているポルトガル、スペイン、ギリシャ、フランス

財政緊縮の圧力が緩和した背景には、多くの国で過剰な財政赤字の是正が進展したことがあるが、なお財政赤字削減に取り組まなければいけない国もある。世界金融危機後のユーロ圏は、経済や雇用情勢が厳しい国ほど、財政政策の制約が強いという悩みを抱え続けている。

ユーロ参加国で、財政赤字の名目GDP比が3%を超えて「過剰な財政赤字是正手続き(EDP)」の対象となっているのは第3次支援プログラムで支援を受けながら財政再建に取り組んでいるギリシャを含めた4カ国。

うち、ポルトガルは15年が3%基準の達成期限だったが、銀行の破綻処理の負担が膨らんだことなどで、財政赤字は同4.4%と基準値を超えた。スペインの過剰な財政赤字の是正期限は16年だが15年の財政赤字は同5.1%と赤字の削減が遅れている。両国が今年4月に欧州委員会に提出した中期財政計画は、ポルトガルは16年、スペインは17年と、それぞれ1年遅れの基準達成を目指す内容である。

EDPでは加盟国が目標達成に向けて効果的な措置を採らない場合には、GDP比0.2%相当の無利子預託金に始まる「制裁」の対象となる。しかし、5月18日に欧州委員会が示した判断は、スペインが6月26日に議会の再選挙を控えるという政治スケジュールにも配慮し、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)に「制裁」の決議を求める提案は見送り、3%基準の達成期限の1年間延長を認める方向で、7月上旬に改めて審査する方針を示すに留めた。

3%基準の達成期限の延長は、フランスについては2009年以降、3回の延長が認められている。欧州委員会は、現在の期限の17年の達成も難しいと見ており、再延長も排除できない情勢だ。

現行のユーロ参加国に対するEUの財政ルールはユーロ導入当初よりも強化されている。ドイツ、フランス、イタリアなど大国が違反を繰り返したことで形骸化し、後の財政危機につながったという教訓に基づくものだ。しかし、他方では、財政ルールの厳格すぎる運用が、潜在成長率の回復を妨げ、政治の不安定化につながるおそれもある。

ユーロ圏は、景気の位相も財政事情も異なる国々で単一通貨を共有しながら、圏内の景気格差を調整する財源を欠いている。共通の財政ルールと各国の事情に配慮した裁量のバランスは、債務危機が沈静化した今も悩ましい問題である。構造改革は、効果が顕現化するまでに時間を必要とする。

ユーロ圏は、構造的にも金融政策に負荷が掛かりやすくなっている。

■そして政治的な緊張も続く

◆景気の位相は様々でも、既存の政治に対する不満の高まりは広く共通する傾向

国毎に景気の位相は様々だが、国民の既存の政治に対する不満の高まりは広く共通する傾向だ。

昨年秋以降、EU各国で実施された選挙では、主流派政党の支持が低下、反緊縮や反EU・反移民など従来の政策路線を否定する政治勢力に支持が広がる傾向が鮮明になっている。

◆これまでのところ、ギリシャを除き政局の変化が経済活動に大きな影響を及ぼしたケースはない

これまでのところ、15年のギリシャを除いて、政局の変化が経済活動に大きな影響を及ぼしたケースはない(*2)。

理由の1つは、ECBの国債買い入れとマイナス金利政策によって、金利の水準が全般に低下、域内のスプレッドの拡大が持続し難くなっていることにある。

ECBの国債買い入れは、現時点での期限は17年3月だが、少なくとも17年9月まで半年程度は延長する可能性が高く、その後もさらに半年程度、規模を縮小しつつ継続の可能性がある。

ユーロ参加国の場合は、EUのルールを明らかに逸脱するような政策運営に踏み込まない限り、自力の資金繰りが困難になるような国債利回りの上昇は回避され、ユーロ圏内で財政危機が拡大した2010~12年のような経済活動の萎縮に至ることはないと考えられる。

しかし、これまでは、国政選挙で主流派政党の退潮、あるいは反緊縮、反EU・反移民の政治勢力の台頭が明確になったのは主に中小国であり、主要国では欧州議会選挙や地方での選挙に限られてきた。しかし、今後は、欧州の主要国で重要な政治イベントが相次ぐ。従来路線を否定する政治勢力が伸張した場合の重みが増す。

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(*2)2015年のギリシャ危機については、近日公表予定のニッセイ基礎研究所「基礎研所報」2016年 Vol.60収録の「ギリシャ危機2015 緊迫の3週間を振り返る」をご参照下さい。
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◆英国の国民投票の離脱多数は世界的な金融市場の動揺をもたらすおそれ

近い将来では、やはり6月23日に英国で行なわれるEUへの残留か離脱かを問う国民投票が注目される(*3)。

今回の経済見通し(表紙図表参照)は、経済的なコストとベネフィットのバランスから導かれる「残留多数」という結果を前提としたが、離脱多数となった場合には、イングランド銀行(BOE)の金融政策の見通しなどに修正が必要となる。

英国の国民投票が、他の政治イベントと違うのは、かなり大規模な資本の移動が生じて、世界の金融市場に影響が広がる潜在的なリスクがある点だ。イングランド銀行(BOE)は、主要中銀とのスワップ・ラインリスクに対して十分な備えを用意していると思われる。

リーマンショック当時と異なり、銀行等の資本基盤も強化されており、金融システムの耐性も高まっていると思われる。しかし、他方ではグローバルな規制の強化で、金融機関のリスク許容度が低下している面もある。

今年初、世界市場の不安材料となった新興国やエネルギーセクターの債務問題も解決した訳ではなく、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げの小休止で小康状態を保っているに過ぎない。

英国国民投票が離脱多数という結果が終わった場合には均衡を崩すきっかけとなるおそれがある。

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(*3)英国の国民投票については2016年5月18日発行の基礎研レポート「近づく英国の国民投票-経済的コストへの警鐘が相次いでも落ちないEU離脱支持率」(http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52928?site=nli)をご参照下さい。
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◆英国の国民投票の3日後にはスペインで再選挙

昨年12月の総選挙後の政権交渉がまとまらなかったスペインでは6月26日に再選挙を予定するが、今回も4党に票が分散、単独過半数を獲得する政党は現れず、新政権の発足には政権協議が不可欠となり、直ちには決着しない見通しだ。

政権の組み合わせとしては、中道右派の国民党(PP)と中道左派の社会労働党(PSOE)という旧2大政党による大連立や、急速に勢力を拡大したポデモスを主軸とする左派合同会派ウニードポデモスによる左派連合などが考えられるが、再々選挙回避のために妥協の余地を探りあてることができるのか、情勢は楽観できない。

実質GDPの推移を見る限り、スペインの景気回復は順調だが、スペイン社会学研究センター(CIS)が毎月行なっている意識調査の最新版でも(*4)、経済情勢は「悪い」という見方が4割を占め、過去1年間で「変わらなかった」という見方が5割、先行きについても「変わらない」が4割と最多で、「良くなる」との見方が減り、「悪くなる」という見方が増えている。

政治状況については、前回総選挙が行なわれた昨年12月以降、「とても悪い」という割合が増えて足もとでは4割を超えている。

前述の通り、財政政策面で、15年で名目GDPの7.2%に膨らんでいる財政赤字の3%の目標達成に多少の猶予が得られそうだが、財政健全化措置を継続せざるを得ない状況は変わらない。政権が交代しても、政策の大枠を変わり難く、国民の政治への不満は一層深まる可能性がある。

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(*4)5月1~10日に全国256自治体、48件で2,500人を対象に実施した調査(出所:PressdegitalJapan)
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◆今秋のイタリア国民投票は首相辞任に発展する可能性。17年には蘭、仏、独で国政選挙続く

さらに今秋、イタリアでは、上院の権限縮小のための憲法改正の是非を問う国民投票が行なわれる。就任以来、欧州委員会から財政ルール面での譲歩を引き出しつつ、労働市場などの改革に意欲的に取り組んできたレンツィ首相は、国民投票が否決という結果に終わった場合、辞任する意向を示している。

イタリアでは、民主党の支持率が低下、コメディアンのグリッロ氏が創設したポピュリスト政党「五つ星運動」の人気が高まっている。首相辞任の場合も、18年2月に予定される総選挙の前倒しは回避されると見られるが、イタリア経済の成長の再開に不可欠な改革が滞る懸念がある。

さらに17年にはオランダ、フランス、ドイツというEUの中核国が国政選挙を予定する。オランダでは、難民問題への危機意識が高まった15年秋以降、難民への国境封鎖、EU離脱を掲げる「自由党」の支持率がトップとなっている。フランスでも、オランド政権が進める労働市場改革への国民の不満は広がっており、マリーヌ・ルペン党首が率いる「国民戦線」への支持が広がる。

ドイツでは、メルケル首相のキリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)が支持率で第1位を保っているが、大量の難民が流入した昨年夏を境に明確に支持率が低下している。さらにECBの超金融緩和策の副作用である家計の金利収入の低下などへ不満は高まっている。他方でユーロ圏からの脱退、難民受け入れ制限を求める「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持が拡大している。

「国民戦線」や「AfD」が政権の座につくことはなく、景気やEUの運営に大きな支障を来たすおそれはないと思われるが、EUを牽引してきた両国の政治の変容を象徴する選挙となる可能性がある。

◆ギリシャ危機2016は回避の目処

ユーロ圏で唯一の支援プログラム国となったギリシャの資金繰りについては、5月24日のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)で15年8月にスタートした第3次支援プログラムの第2次融資枠として103億ユーロを設定、6月中に75億ユーロの融資を実行することで大筋合意した。7月23日に予定する23億ユーロの国債償還の目処が立ち、「ギリシャ危機2015」は回避の見通しとなった。

第3次支援プログラムへの国際通貨基金(IMF)の参加の障害となっていたギリシャ政府の債務の持続可能性回復のための政府債務に関しても、第3次支援プログラムが終了する18年8月までに返済期限の平準化や金利負担の軽減などの措置を実施する、大国の政治イベント終了後、ギリシャが支援プログラムを卒業するにあたり実施する中期の措置、さらに長期の措置として総必要調達額(GFN)目標の達成が困難になった場合の追加措置という3段階の負担軽減策が提示された。

元本削減という抜本措置は盛り込まれず、IMFが、ユーログループが予定する一連の措置が債務の持続性回復に十分と判断するかは不透明な面もある。それでも、難民危機によってEUにとってのギリシャの地政学的な重要性が再認識される一方、主要国が重要な政治イベントを控えるタイミングでギリシャ問題が再燃するリスクに早めに対応すべきとの判断が働いたようだ。

伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

最終更新:6/9(木) 19:30

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