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暴走電車をも止めるポテンシャル持つクモ糸を衣料に!

ニュースイッチ 6月9日(木)11時50分配信

「未来の繊維」開発進む

 アメリカン・コミックスのヒーローが猛スピードで暴走する電車をクモ糸で止めてしまうシーンがある。空想の中の作り話かと思いきや現実世界でも理論的には可能だと言うから驚きだ。クモ糸は鋼鉄と同等の強度を持ちながらナイロン以上の伸縮性があり、重さ当たりのタフネス(材料が破壊されるまでに必要なエネルギー)は既存材料でも群を抜いている。その圧倒的な性能に加え、石油に依存しない環境に優しい未来の素材であることから、実用化に大きな期待が寄せられている。

<微生物で人工合成>
 クモは肉食性で縄張り意識が強いため、カイコのように家畜化することは難しい。そのため人々の期待とは裏腹にクモ糸はいまだ量産化されていない。こうした中、私たちSpiber(山形県鶴岡市)はクモ糸の主成分であるたんぱく質を微生物に作らせることで人工合成する技術の開発に取り組んできた。

微生物にとって異物のクモ糸たんぱく質を効率的に作らせるにはさまざまな課題があった。クモ糸たんぱく質の遺伝子を微生物好みにデザインし直すことや、微生物そのものの特性を全遺伝情報(ゲノム)レベルで改変することもその一つだ。

 私たちは「高機能遺伝子デザイン技術研究組合」に参画し、産業技術総合研究所などとの連携のもと、こうした課題を一つひとつ解決してきた。結果、クモ糸たんぱく質の生産性は研究開始当初に比べ4500倍にも効率化し、人工クモ糸の工業利用を実現する製造コストが照準に入ってきた。

<製品化加速>
 2015年10月、私たちは実際のアパレル工業プロセスを経て作られた世界で初めての人工クモ糸衣服「MOON PARKA」を発表した。人工合成したクモ糸は、天然クモ糸と同じく美しい「黄金色」に輝いていた。衣料は大量生産・大量消費の代表とも言える製品だ。人工クモ糸をはじめとする環境に優しいたんぱく質材料を普及させ、既存の石油製品を置き換えることで、持続可能な社会の実現に貢献したいと考えている。

 衣料だけでなく、他にも人工クモ糸を使った自動車部品や医療機器など、さまざまな製品開発にも並行して取り組んでいる。将来、人にぶつかってもけがをさせない自動車や、体の中で組織再生を促す人工血管が実現するかもしれない。「未来の繊維」と言われたクモ糸の実用化はもうすぐそこまで来ている。

【解説】
 東日本大震災の直後、バイオ技術復興のため次世代遺伝子組み換え技術としてのゲノムデザイン技術開発計画中に初めて人工クモ糸と出会った。当時、わずか数グラムの試料の生産に苦労していたが、それが連携につながった。人工クモ糸の普及を期待している。
(産総研生命工学領域研究戦略部イノベーションコーディネータ・新間陽一氏)

Spiber取締役兼執行役・菅原潤一

最終更新:6月9日(木)11時50分

ニュースイッチ