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本当に恐いのは“隣人”なのか? 黒沢清監督が新作『クリーピー』を語る

ぴあ映画生活 6月10日(金)10時30分配信

黒沢清監督が、西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、藤野涼子、香川照之らをキャストに迎えた最新作『クリーピー 偽りの隣人』が間もなく公開になる。黒沢監督は、これまでも様々なかたちで“恐怖”を描き続けてきたが、本作でも試行錯誤を重ね、上映が終わった後も観客をとらえて離さない恐怖を描こうとしたようだ。

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本作は、第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕の小説を基にした作品。元刑事の犯罪心理学者の高倉がかつて同僚だった刑事・野上から分析を依頼された6年前に起こった一家失踪事件と、高倉の隣人一家のあまりにも不可解な関係を軸に、日常に忍び寄る恐怖を描く。

この世には恐怖を描いた作品が数多くあり、黒沢監督も多く手がけているが、『回路』『叫』のような“この世のものではない存在”が登場する作品も、『地獄の警備員』や『蛇の道』のような作品も監督の中では「明確な違いが実はあまりない」という。「当然ですが、死んだ人間が再び現れて襲ってくる世界観と、死んだら終わりなのでなるべく死なないようにしようという世界観はまるで違うもので、ある時期までは厳密に区別していたのですが、映画表現ではそれらは限りなく近づけられるということをいくつかの映画を観て理解するようになりました。一番よく覚えているのは『羊たちの沈黙』という作品です。これは明らかにサイコスリラー、サスペンスの類の物語ですが、いくつかの描写はどう見てもホラーで、幽霊は出てこないんですけど、ほとんどホラーに近い表現がサイコスリラーでもじゅうぶん通じるという映画でした」。

本作も“この世のものではない存在”が登場する作品ではないが、そこで描かれるいくつかの表現は、ホラー映画のような、いやそれ以上の恐怖をもって描かれる。新居に引っ越してきた高倉の隣人、西野は謎めいた存在で、予測不可能な行動で高倉を翻弄し、魅了し、いつしか追いつめていく。しかし、黒沢監督は西野を『羊たちの沈黙』に登場するレクター博士のような悪人にはしないと最初から決めていたという。「西野をどう描くのか試行錯誤はありましたが、レクターのようにはしないということが出発点からありました。西野を“悪の化身”として描くのではなく、世界の僕らが普通に知っている仕組みとは“違う仕組み”が彼を通じて作動してしまって、そのことが映画を通して見えてくるようになればいいなぁと思っていました」

この世界には私たちがまだ知らない、知ってしまうと戻ることができない、一度動き出すと絶対に止めることができない“システム”が存在し、物語を通じてそれが作動してしまう……これまで黒沢作品が何度か描かれてきた恐怖が『クリーピー…』でも描かれるだろう。本当に恐ろしいのは“隣人”ではなく、隣人を含む“まだ見ぬシステム”が恐ろしい。「だから、この映画をどうやって終わらせるのかについては、結構な迷いがありました。そこに描かれているのが単に倒せばいいだけの悪ではない、主人公そのものが、そのシステムに組み込まれてしまった時に、どんなエンディングがふさわしいのか?」

本作は、観客の予想を大きく裏切る展開とスケールで物語が展開していく。日常は観客が知らない間に終わっていて、何げなく見えるドアの向こう側には、我々の常識や正義がまったく通用しない世界が広がっている。それは映画を観ている間はもちろん、観終わった後も観客をとらえて離さないだろう。「久しぶりにこのジャンルを撮ったので、やっていて楽しくはありました。実は、感動的な話を撮っている時の方がどこか後ろめたいんですよ(笑)。でも、こういう内容的には非人間的なものを撮っている方が『どうせ嘘なんだから』って。フィクションであることを素直に楽しめますね」。

『クリーピー 偽りの隣人』
6月18日(土)全国ロードショー

最終更新:6月10日(金)10時30分

ぴあ映画生活