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【藤島大コラム】「麻布開成連合」

ラグビーリパブリック(ラグビーマガジン) 6月10日(金)18時2分配信

 東京の西日暮里、庶民の下町にある校舎から制服姿の少年たちが外へ出る。徒歩で最寄りの地下鉄の駅へ向かい、千代田線に飛び乗って、日比谷駅下車、こんどは日比谷線で広尾まで。地上に到達したら少し太陽光線が眩しい。右折、歩道を速足で進む。山の手の高級住宅街の景色は、さて、目に入っただろうか、ずんずんと坂を上り、もどかしくも信号で待たされ、私服で下校の生徒たちとすれ違って、出発からざっと半時間、あと少しで質素な白い校門に到着する。

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 好敵手が手を結ぶ。スポーツ観戦の喜びのひとつだ。昔、「早明連合」というチームが編成された。1977年、来日のスコットランド代表と対戦、13-59で敗れた。少年ファンとしてやけに胸がときめいたのを覚えている。展開の早稲田と突進の明治、ユサブリと前へ、例年12月の第一日曜に地響きをたてて激突する歴史上のライバルが、なんと肩を組んで強豪国代表に立ち向かうのだ。

 あれから39年、ふとした噂を耳にして、東京都内の校庭へ向かった。どうやら好敵手が手を結んだらしい。その名も「麻布開成連合」。なんとなくよいではないか。6月11日、熊谷ラグビー場で開幕する中学の関東大会に推薦枠での出場を果たし、これから初戦の神奈川合同戦2日前の練習を始める。冒頭の描写は、開成中学ラグビー部の有志たちの道筋である。グラウンドに着くと、麻布のキャプテン、新原浩太が言った。「あ、開成、きた」。想像していたより早かったので、それがうれしそうだ。

 受験事情には疎い。ただ麻布と開成が斯界の頂点のあたりに位置するとはわかる。小学生にして勉強の難関に挑み、突破した者がここに集っている。また古典的イメージでは、自由闊達の麻布、質実剛健の開成、すなわち対照の妙がある。自立と結束こそを最高の美徳とするラグビー競技において、さて両校はいかに溶け合うのか。と構えて凝視してみたら、すでにチームはひとつであった。

 麻布の山川しげみコーチが教えてくれる。「連合チームって、試合や練習が終わると、それぞれの学校の部員だけで帰ることがどうしても多い。でも彼らは、三々五々、まざるんです。自然に」。ちなみに、いま、ホーチミン(若い読者は調べてください)のような髭を伸ばした69歳のこの人を便宜的に「コーチ」と記した。実はそうでもない。後述する本稿の主題である。

 単独で出場不可能だから連合で臨む。東京の中学は、高校の「合同」とは異なり、組みたい相手の希望がおおむね認められる。交通の便、学校行事の日程など、さまざまな条件を考慮して麻布開成連合は長く続いてきた。どちらの部員にとっても入学してからのいわば「日常」なのである。ゲーム主将、ハーフの遠藤宏哲(麻布)が明かす。「去年、一緒に日本ハムの野球を観戦したこともあります。そのときは麻布が4人、開成はひとり」。最初に合同で練習した日の印象は? 「開成、頭よさそうだなって」。スウェーデン人がノルウェーを「寒そうだな」と語っているみたいでおかしかった。

 練習は選手主導だ。山川コーチは自称「見守り人」。自主性尊重は、母校でもある麻布のラグビー部の伝統でもある。そして、ここが重要なのだが、その自主が中途半端ではないところに価値はある。「もどき」とは違うのだ。もちろん中学生が仕切るのだから、なかなか滑らかには進行しない。強くコーチングされたチームに勝利するのはとても簡単ではあるまい。大人が関われば、ひとまず、部員の潜在力は短期に引き出されるはずだ。でも麻布開成連合はそうしようとはしない。「練習が始まったら眼鏡を外そうではないか」から「試合当日の天候の予報からするとキックをもっと用いるべきでは」まで選手はよく話し合う。その分、練習のテンポは遅れる。それでも元編集者の「コーチ」はもっぱら傍観を決め込んだ。

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最終更新:6月10日(金)18時2分

ラグビーリパブリック(ラグビーマガジン)