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[寄稿]THAADはミサイル防衛ではなく先制攻撃

ハンギョレ新聞 6月11日(土)8時59分配信

 コウモリは獣にも、鳥にも、自分が彼らの仲間だと言い張った。だが獣も鳥も、その日和見主義を蔑んだ。結局、コウモリは獣にも鳥にもなれずに、洞窟で一人取り残されることになった。朴槿恵(パククネ)政権はまるで、そんなコウモリになろうとしているかのようだ。

 1967年、米国のリンドン・ジョンソン大統領は、ソ連のアレクセイ・コシュキン首相とニュージャージー州のグラスボロー州立大学で会った。この首脳会談でジョンソン大統領は、米ソ両国が「反弾道ミサイル(ABM)競争を統制すべきだ」と強調し、ロバート・マクナマラ国防長官(当時)も、このような軍備競争を加速させることは、より深く「狂った道に陥るもの」と口添えした。両大国の軍備統制交渉が始まる瞬間だった。

 ソ連が1966年からモスクワの周りに構築し始めた反弾道ミサイル防衛システムについて、米国はなぜ懸念を示したのか?核兵器開発の先頭を走っていた米国は、戦略爆撃機で投下できる核爆弾や陸上から発射できる大陸間弾道ミサイル、水中で発射できる潜水艦発射弾道ミサイルの核兵器3点セットを揃えた状態だった。これに負けまいとして、ソ連も同じ3点セットを開発し、米国と戦略的に同等になるために邁進していた。しかし、1966年当時、米国は核弾頭5千発を保有していたのに対し、ソ連の核弾頭は550発に過ぎなかった。

 圧倒的な核軍事力にもかかわらず、ソ連の反弾道ミサイル防衛システムを警戒した理由を、米国務省の歴史は正直に記述している。 「反弾道ミサイルシステムは一方が先制打撃を加えてから、相手のミサイルを迎撃し、相手の報復を不可能にする」。ソ連が先制攻撃をしたとしても、報復攻撃の被害が大きいなら、攻撃を行う誘引はなくなる。逆に攻撃をしても、報復を受けなけないなら、先制攻撃への誘惑は大きくなる。すなわち米国は、ソ連が米国の核ミサイルを防げる能力を確保すれば、報復の心配なく先制攻撃ができることを懸念していたのだ。相互抑制の状況では、防御が攻撃という逆説が成立するからだ。

 国際政治学では常識とされる話を改めてここでする理由は、朝鮮半島ではその常識が失われているためだ。THAAD(サード)というなじみのない名前で呼ばれる高高度防衛ミサイルは、その本質上、反弾道ミサイル防衛システムだ。したがってTHAADを構築する側は、報復攻撃を恐れず先制攻撃を加えられるようになる。この論理を駆使し、1960年代末、米国はソ連のミサイル防衛に反対し、今日の中国とロシアは同じ論理に基づき米国のミサイル防衛に反対している。この論理は、当然、朝鮮半島にも適用される。北朝鮮と韓米が相互抑制を成している状況で、韓米ミサイル防衛を構築すると、北朝鮮は先制攻撃の脅威にさらされるという常識を、なぜ誰も言わないのか。

 THAADは韓国を守るには無用の長物だが、米国を攻撃できる北朝鮮の核兵器開発に対応し、米国は配備を急いでおり、韓国政府は「明確な意志」を持ってそれを後押ししている。オバマ政権は、北朝鮮に対する先制の核使用の可能性を否定しないまま、韓米連合司令部は制攻撃を含む作戦計画を進めている。THAADは朝鮮半島の軍備競争が先制打撃の段階に移ることを加速させることになるだろう。

 きれいな修司で飾られているものの、米国のTHAAD配備論と中国の反対の間で、適当にあいまいな態度を取る韓国政府の立場は、幼稚であると同時に危険である。コウモリの真似をしていては、コウモリのような目に遭うことになるだろう。洞窟さえも炎に包まれるかもしれない。解決策は、平和へとつながる大きな道に足を踏み入れることだ。南北対話を再開すると共に、朝米の対話を呼びかけることで、朝鮮半島の非核化と平和体制を構築することよりも安全かつ完全な解決策が存在するだろうか。朝鮮半島は獣と鳥が共生する地となるべきだ。

ソ・ジェジョン国際キリスト教大学政治・国際関係学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

最終更新:6月11日(土)10時9分

ハンギョレ新聞