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 鈴木IIJ会長、 「ネットスケープ」を一緒にやれたのに

ニュースソクラ 6/12(日) 18:00配信

「わが経営」を語る 鈴木幸一インターネットイニシアティブ会長兼CEO(2)

 ――インターネットの可能性にいち早く注目して、インターネット接続サービスに乗り出そうと、「特別第二種電気通信事業者」の登録を申請したけれど、1年余りも認可されませんでした。当時の郵政省に理解されなかったのでしょうか。

 郵政省の若い人たちは僕たちの話を聞いてくれて、「うちは何でこれを認めないんだろう」と言っていました。やはりNTTとの関係があったのでしょう。「NTTがつぶれる」という声がありましたからね。

 NTTはつぶれやしませんよ。インフラ(回線)を持っているところは強いんだから。僕らもインフラを借りなければならないでしょ。寄生虫みたいにね。

 ――この1年余りの遅れは痛かったですか。

 インターネットイニシアティブ(IIJ)をつくった時は、WWW(ワールド・ワイド・ウエブ=インターネット上の情報を結びつける仕組み)が公開されたころでね。もし僕らが自由にできたら、米国から参加を打診されたウエブ閲覧ソフトの「ネットスケープ」を一緒にやれたのです。

 この程度の技術ならば、後からでも間に合うと思っていたが、よくわかっていなかった。あっという間にグローバルにいわゆるデファクト・スタンダードが出来上がっちゃった。

 そんな中で、米国にあった画像配信のベンチャー企業のジング・テクノロジーとか、うちは結局、悪あがきをしてたんだよね。ジングはマイクロソフトに買われました。後にサンフランシスコで創業者にあったら、「こんど遊びに来てくださいよ。海沿いに住んでヨットで遊んでいます」と言っていた。

 スコット・マクネリなんかも創業したサン・マイクロシステムズを売っちゃった。彼とは気が合ってね。「鈴木さん、日本でやっても、たかが知れているんじゃないの。最後は米国でやったら」と言うんです。70歳近くになって米国で失敗する人生とはどういうものか。ちょっとやってみたい気がするんだけどね。

 ――そういう誘いが米国からいろいろあったようですが、鈴木さんは日本で頑張っている。国士的なところがありますね。

 何でだろう。そういうのは嫌なんだけどね。おカネとかに執着がないしね。好きな音楽への支援はやっていますよ。おカネを捨てているようなものだけど、もうビル1棟分くらい捨てている。

 だけどIIJの株は売ったことが無い。普通、株式を公開すると売るでしょう。僕は売っていない。だから社員が困っている。一緒に働いてきた古い連中が、株を売るために会社を辞めるんだ。会社にいると「鈴木さんが売らないので売りにくい」と言ってね。会社辞めて株を売ると、みんな億万長者ですよ。

 でもいろんな人がうちに酒を飲みに来てくれる。「鈴木バー」とか言ってね。部屋が雑然としているので、みんな「高級学生下宿」だって言う。役所の人たちも新聞記者もやってきます。

 ――人が集まってくるのは、鈴木さんおお人柄ですか。

 いや、どうですか。僕はあまりこだわりが無いから。音楽祭(「東京・春・音楽祭」)なんかやると、外国の音楽家と親しくなって、毎日、酒を飲んでいます。だから普通なら来てくれないような音楽家も呼べます。

 イタリア人の指揮者、リッカルド・ムーティなんて世界で一番だと思うけど、僕を気の置けない友達だと思っている。下らない雑談を3時間でもやっていますよ。そんなこんなで安く来てくれるのですが、今度イタリアでも日伊の音楽祭をやらなくてはならないから大変ですよ。

「鈴木さん、イタリアでもやりたい」と言うので、「誰がカネを出すんだ」と訊いたら「まあ、鈴木さん、世の中のためだ」と、わけのわからないことを言っていました。

 ――多彩ですね。日本能率協会を辞めてから、一時、日本アプライドリサーチ研究所の社長をやっていましたね。

 社長はやっていません。代表取締役ですよ。日本で一番古い産業研究のシンクタンクで、エコノミストの大来佐武郎先生と原子力委員会委員をされた向坂正男先生に「鈴木さん、面倒をみてくれ」と言われたんです。

「何をするのですか」と訊いたら、「つぶれたらいけないから、おカネを集めてきて」というわけ。大先生2人から言われたら、仕方がないですよ。仕事も取ってきました。今は特に何もやっていません。おカネを集めたり出したりする程度です。

 ――活動分野が幅広いから、あちこちに人脈がある。

 僕は大酒のみだけど、家に帰るのは割と早いんです。僕のペースに合わせて飲むと、みんな早く酔いつぶれるので、「それでは」と言って、9時には家に帰っている。朝は3時ごろ起きだして、そのまま論文を書くようなことをしている。いろいろやれるのは、結局、体力と本を読むのが好きだってことではないですか。

 ――著書の『日本インターネット書紀』に「壮大な夢」と書いている「クロスウェイブ コミュニケーションズ」(CWC)をIIJ設立から6年足らずの1998年に設立できたのは、鈴木さんの豊富なネットワークがあればこそだと思います。
 NTTのインフラの「寄生虫」状態から脱して、データ通信専用の通信インフラを独自に構築する狙いでしたが、会社更生法の申請に追い込まれ挫折しました。しかし夢破れて立ち直ったのですから、相当にタフですね。

 鈍感なのではないですか。あれは自殺するような話ですよ。追い詰められてね。ですが今でも、あれが一番素晴らしい事業だと思っています。

■森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:6/12(日) 18:00

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