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反EU感情を燃え上がらせた難民問題

ニュースソクラ 6/13(月) 14:00配信

経済強い国にも、弱い国にも不満鬱積

 5月29日、独仏国境にある町、ヴェルダンで、第1次大戦中の激しい戦闘―ヴェルダンの戦いでの死者を追悼する式典が行われた。この式典には、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領が参加し、両国の戦没者を悼んだ。今年は、ヴェルダンの戦いの百周年にあたる。1916年の2月から12月まで続いた激しい戦闘により、独仏の兵士が30万人以上亡くなった。

 第1次大戦後、汎ユーロッパ運動が、オーストリアの元貴族、リヒャルト・クーデンホフにより繰り広げられ、欧州の不戦と恒久平和確立のための欧州連邦樹立が唱えられた。この考えが、第2次大戦後、EU(欧州連合)という形で実現された。独仏首脳は、ヴェルダンの戦いから百周年の追悼式典で、EUの寄って立つところを再確認した。またこの式典には、ユンカーEU委員長とシュルツ欧州議会議長も参列した。

 さてそのEUで、EUに懐疑的な勢力が力をつけている。さきのオーストリア大統領選挙では、反EUの自由党の候補がわずかの差で敗れた。有権者のほぼ二人に一人がEU統合に反対している党に投票したことになる。大統領選挙の投票率が70%を超えていたことを考えれば、多くの国民が現在のEUのあり方に疑問を示したといえよう。

 6月23日には、英国でEU残留の是非を問う国民投票が行われる。半分前後の人が、EUからの離脱に賛成していると世論調査の結果は伝えている。仮に、英国がEUに残留することになっても、英国はEUの政治統合に参加しないことになっている。

 これらの2か国以外にも、独仏やイタリアにも反EUを主張する政党があり、それぞれ力をつけている。いずれも極右といわれる政党が反EUの受け皿になっている。

 なぜ、欧州でEUへの懐疑心が拡大しているのであろうか。

 EU成立の由来から説き起こしてみよう。そもそもEUは欧州で再び戦いを起こさないために、国民国家が主権の一部を超国家的な機関であるEUに預けて協力し合うために作られた。

 はじめは経済の効率化を目指して、経済分野を中心にEU統合が進められた。しかし最終的な狙いは、欧州連邦の樹立にある。

 これは言うは易いが、行うのは難しい企てである。欧州は米国と違い、様々な言語・習慣を持つ民族が、各々の伝統を大切にしながら暮らしているからである。EUの狙いそのものに分裂の要素が潜んでいる。

 欧州連邦の樹立を図ろうとするのであれば、欧州の諸国民による国民投票で決するのが筋であろう。しかし、こうした住民投票で連邦国家の樹立が支持されるとは、考えづらいのが現実である。何年か前に、欧州憲法が制定されようとした際、EUの創設国のフランスとオランダが国民投票で否決したことを見ても明らかである。

 そこでEUの政治統合を実現していくために、EUや各国のEU統合派のエリートは、巧妙な手を編み出した。ユーロの導入である。EU加盟国に財政政策の権限を残したまま、通貨と金融政策を一本化したのである。このような政策は基本的に無理があり、いずれ破綻することは誰の目にも明らかだった。

 英国やデンマークなどはこの矛盾に気づき、ユーロを自国通貨として採用しなかったが、他の国は国民投票にかけることもなく採用した。導入から10年近くはたいへんうまく機能しているように見えたが、やがてギリシャ経済危機が表面化し大きな問題となった。リーマンショックのあおりで、ギリシャ経済が低迷、対外債務の返済がままならなくなったのが危機の実相だ。

 その結果、繰り返しEUからの離脱問題がとりざたされ、それを避けるために欧州を中心に金融支援をしてきた。その過程では、ギリシャの場合、経済統計を粉飾してEU加盟を実現していたという不正も明らかになった。そのうえ、ギリシャ危機はスペインやアイルランドのように安易にユーロを調達し、金融機関が破綻する国まで現れるなど、周辺国に波及した。救済側に回ったドイツからもその負担に対して国民の間から不満が噴出している。

 ギリシャ危機をきっかけに、EUは分裂の不安が浮上した。耐乏生活を強いられるEU内の経済的に弱い国ばかりか、経済強国にもEUへの不満は鬱積している。しかし、結果的には、EU統合派の狙いは当たったようにも思える。

 ユーロ危機を回避するためには、各国の経済政策をブラッセルで調整しなくてはいけなくなった。現在、ユーロ圏の国々は自国の議会に諮る前に、政府予算案をEUに承認してもらわなくてはいけなくなった。

 予算策定する権利は、各国の主権に属する最も重要な権利である。これをEUに差し出さざるを得なくなったのである。さらに将来、EUに財務大臣を置き、EUが各国の予算をコントロールする案まで出ている。

 もっと身近な問題でもEUの規制への不満は少なくない。たとえば、オーストリアのように大きな地震がない国にまで、EUの統一基準での日本並みの耐震設計が求められる。そんな理不尽な事例は数多い。

 最近のEUへの反発のうねりは、なんといっても、難民問題がきっかけだ。難民がテロの多発や治安の悪化などの原因とみなされ、反感は高まるばかりだ。大量流入は域内の国境の解放を定めたEUのシェンゲン条約が源になっており、それがEUへの反感を生んでいる。

 反EUの動きは以前より根強くあった反EU感情に、難民問題が火をつけた格好。簡単には収まらず、結果として極右勢力の台頭の燃料になっていくことだろう。

■茶野道夫(ウィーン在住コンサルタント)
日系金融機関のウイーン駐在代表を定年退職後、不動産投資コンサルタント。日系金融機関のウイーン駐在代表をつとめた後、定年退職。ウイーンで、不動産投資コンサルタント。英、独、仏、西、伊、露語に通じ、在欧経験28年。英国、スペインにも勤務。

最終更新:6/13(月) 14:00

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