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安倍政権の終りの始まり?

ニュースソクラ 6/14(火) 11:50配信

露呈した「安倍1強」のきしみ 麻生氏、菅氏とぎくしゃく

 国会会期末に勃発した消費増税再延期と衆参同日選を巡る政局。安倍晋三首相が政権中枢の反対を押し切る形で決着したが、政権内の微妙な人間関係のきしみや先行きへの不安材料も露呈した。永田町では「安倍1強」が曲がり角に差し掛かったとの見方がささやかれる。

 「この選挙戦の最大のテーマは経済政策です。アベノミクスはまだ道半ば。エンジンをフル回転させていく必要があります」
 7月10日投開票の参院選まで約1か月。安倍晋三首相は早くも遊説を本格化し、各地で消費増税を2年半先送りした自らの判断やアベノミクス推進への理解を訴えている。

 6月1日の増税先送りの正式表明以降の各種世論調査では見送りを支持する割合が大きい。内閣支持率はオバマ米大統領の広島訪問効果もあり、軒並み跳ね上がっている。

 安倍首相にとって追い風が吹く展開だが、その心中は決して穏やかではないはずだ。消費増税先送りと衆参同日選を巡る今回の騒動で、「安倍1強」と称されてきた権力基盤の内情や軋みが表面化してしまったからだ。

 まずは一連の経緯をおさらいしておこう。景気腰折れや不人気政策の実施による支持率低下を懸念した安倍首相は、今年に入り、中国経済の失速に端を発した急速な円高・株安を目の当たりにし、増税先送りへの環境整備に着手した。

 最も障害となったのが、2014年11月に増税先送りを決めた際「再び延期することはない」と断言した自らの発言との整合性だった。しかも、前回の先送り時に財務省や自民党の財政再建派から猛烈な抵抗を受けたことは記憶に新しい。

 増税派の巻き返しを警戒した安倍首相は、今井尚哉首相秘書官ら首相官邸の数人の側近と極秘に議論を重ね、「アベノミクスは失敗していない。だが、世界経済が危機に陥るリスクに対応するため、あらゆる政策を打つ」との論理をひねり出したのだ。

 おぜん立ての舞台に選んだのが、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)だった。サミット議長を務めた安倍首相は、現在の世界経済の状況がリーマンショック前に似ていると説明するための参考資料を駆使し、各国首脳に力説した。

 各国の報道機関からは「増税先送りの狙いが明白」「あまりに芝居がかっている」などと酷評された。とはいえ、首脳宣言には狙い通り「新たな危機に陥ることを回避する」「すべての政策手段を個別にまた総合的に用いる」との文言を盛り込むことに成功した。オバマ米大統領の歴史的な広島訪問も予想以上の反響を呼び起こし、安倍首相は上機嫌で帰京した。

 この時、既に安倍首相はもう1つの懸案である衆参同日選については見送る意向を固めていた。安倍首相の自民党総裁任期は2018年9月まで。同日選で勝利すれば政権基盤を再強化できるうえ、「総裁任期満了までにもう一度衆院解散を仕掛ける可能性がある」と解散カードを保持することで求心力を維持できる--。こうした思惑から安倍首相が検討を重ねてきたのは事実だ。

 4月14日発生の熊本地震の影響もあったが、最終的には自民の情勢分析などを基に、衆院選は20議席超減らす公算が大きい一方、参院選は自民の単独過半数も十分うかがえると判断したのが見送りの理由だった。

 後は増税再延期と同日選見送りの考えを政権中枢に伝えるだけ。安倍首相は単なる通過儀礼のように考えていた節があるが、思いがけない展開が待ち受けていた。

「宰相になるか、ポピュリストになるか、どちらかですよ」
 5月28日夜、安倍首相と向き合った麻生太郎副総理兼財務相はこう言い放った。菅義偉官房長官、谷垣禎一自民幹事長が協議に加わると、麻生氏は「前回、総理は国民に2017年4月に必ず上げると約束しましたよね」と畳み掛けた。公約を守らない以上、解散して国民に信を問うべきだと迫ったのだ。

 これに谷垣氏も同調。菅氏が公明党が同日選を嫌がっていると安倍首相に助け舟を出したところ、麻生氏は「公明党の言うことばかり聞くな」と不快感を示したという。

 昨年、軽減税率の導入を巡る議論が沸騰した際、対象品目をできるだけ絞る考えだった谷垣氏や麻生氏を「公明への配慮」を錦の御旗にした菅氏がねじ伏せ、公明の主張に沿って決着したことは記憶に新しい。これ以降、麻生氏と菅氏の関係はぎくしゃくしている。この日の麻生氏の発言には菅氏への複雑な感情が率直に表れたと言える。

 翌日、麻生氏は講演で「衆院を解散して信を問わなければ筋が通らない」と持論を展開。永田町では安倍首相と麻生氏の役割分担との解説も流布したが、実態は違った。

 「平場」で公然と異論を唱える麻生氏に対し、安倍首相は親しい関係者に麻生氏への疑念を吐露。「どうして麻生さんはあんなに解散にこだわるのか?」と首をひねった。

 もっとも、麻生氏の怒りは自分への根回しがなかったことや、筋が通らないことに対する不満が大半だった。サミットに先立って行われた主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議は世界経済について「過度の悲観はやや後退した」との認識で一致していた。議長を務めた麻生氏からしてみれば、自分のあずかり知らぬところで無理筋のデータを作成してまで「危機」をあおった安倍首相と側近の手法に納得がいかなかったのだ。

 前回の増税先送り、軽減税率論議に続いて「3連敗」となる以上、簡単に振り上げたこぶしを下ろすわけにはいかない事情もあった。「後で説明すればわかってくれるはず」と気楽に考えていた安倍首相にとっては大きな誤算だった。

 結局、安倍首相に頭を下げられた麻生氏は「先に相談してもらえば、もっといい説明ができたはずだ」とトーンダウン。最終的には「総理の判断を尊重する」と矛を収め、谷垣氏らも従った。「終わりよければすべてよし」とある閣僚は語るが、一連の騒動の影響は決して小さくはない。

 まずは、「安倍1強」の内実があぶりだされたことだ。第2次政権発足以降、安倍首相は菅氏、麻生氏、甘利明元経済財政・再生相の3閣僚を軸に政権を運営し、基本方針を決めてきた。

 「俺と、菅と、甘利がしっかりしている限り、この政権は大丈夫だ」。麻生氏は親しい自民議員らにそんなセリフを口にしていた。
 だが、緩衝剤として重要な役割を果たしていた甘利氏が金銭授受疑惑で辞任し、政権内のパワーバランスは大きく変化した。前述のように麻生氏と菅氏の関係は冷え込み、麻生氏、菅氏はともに甘利氏の後任に就いた石原伸晃経済財政・再生相と不仲なことは政界関係者の間では公然の事実だ。

 さらに、安倍首相と菅氏の関係の変質を指摘する向きも少なくない。安倍首相は昨年から重要な政策決定や党役員・閣僚人事などで菅氏の意向を聞かずに独断で決める場面が増えている。このところ、安倍首相と菅氏の会話の機会が減っているとの証言もある。今回の件でも、安倍首相が側近とだけで「増税先送り・同日選見送り」のレールを敷き、菅氏は距離を置いていたと関係者は明かす。

 安倍首相にとって「盟友」と称されることが多かった麻生氏。お互いに相手を立てながら、いい距離感を保ってきた二人についても、「そこまで親密に物事を話す間柄ではなかったことが明らかになった」と自民のベテラン議員は話す。

 また、安倍首相の経済運営が実は行き当たりばったりで、戦略性に乏しいことも浮き彫りになってしまった。
 「地方創生の次は一億総活躍で野党の主張をつぶすなど、巧妙だが、選挙に勝つための仕掛けに終始している。2度の増税延期も、自分の任期にはもうやりたくないというだけだ」。民進党のある幹部はこう喝破する。

 安倍首相の経済政策に批判的な自民議員は「どんなに言い繕ってみても、アベノミクスは金融緩和と財政政策頼み。サミット以降の無理筋の説明を見ても、政策の継続性や透明性は軽視され、次にバトンタッチする人間にすべて押し付けてしまう腹積もりだろう」と話す。

 3つ目に挙げられる影響は、実は最も深刻かもしれない。同日選に踏み切らなかったことで、「安倍首相の勢いに陰りが見え始めた」との声が急速に自民や公明内で広がり始めたのだ。

 参院選は与党に対し、野党が1人区で野党統一候補を擁立する展開となっているが、自民の選挙対策関係者は「現時点では大勝はしないが、大敗もしない見込み。うまくいけば単独過半数もありうる」と漏らす。

 参院選を勝利に導けば安倍首相の党内基盤がすぐに揺らぐようなことは考えにくい。だが、自民の中堅以上の議員の間からは「解散は遠のいた。安倍首相はもう解散を打たない可能性がある」との声が相次いでいる。

 増税先送りというカードを手放し、今度こそ解散の大義名分がないとの見方が1つ。さらに、衆院選挙制度改革のスケジュールも解散戦略の幅を狭めそうな事情もあるのだ。

 衆院選挙区画定審議会は衆院小選挙区の「0増6減」を柱とする改正公職選挙法の施行を受け、今後1年以内に区割りの改定案を首相に勧告する。政府は内容を反映した公選法改正案を国会に提出。成立後、理論上は約1カ月間の周知期間を経て、それ以降の衆院選で新たな定数と区割りが適用される見通しだ。

 ただ、自民の中からは「定数削減は議員の生き死に関わる問題なうえ、区割り見直しの影響は小さくはない。勧告後、来年中に解散するのは難しいのではないか」との声があがっている。そうなると、現実的には今年後半から2017年前半まで、または2018年の前半ぐらいしか安倍首相が解散に打って出るタイミングはないことになる。

 「総裁任期延長を実現できる情勢であれば勝負するはず。そうでなければ、総裁任期満了で退任し、解散総選挙は後任首相に託すシナリオが有力だろう」。安倍首相に近い自民議員は安倍首相の胸の内をこう読んでみせる。

 果たして参院選を無事通過後もレームダック(死に体)化を防ぎ、悲願の憲法改正や経済再生への道筋をつけることができるのか。それとも、ポスト安倍レースの号砲が今度こそ鳴ることになるのか。

 国会会期末に勃発した今回の騒動。後になってみれば、盤石とみられた安倍1強体制の「終わりの始まりだった」と評されるのかもしれない。

鮎川 誠二 (ジャーナリスト)

最終更新:6/14(火) 11:50

ニュースソクラ

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。