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狂気?本気? ヒトラーを「コメディ映画」にする意味とは

dmenu映画 6月14日(火)12時0分配信

検索エンジンに「帰ってきた」と打ち込むと、これまで、いろんなものが帰ってきたことがたちどころに分かる。ヨッパライにウルトラマン、ドラえもん、時効警察に手裏剣戦隊ニンニンジャー……まだまだあるが、このへんで。おっと、一番最近のトピックはこれだ。『帰ってきたヒトラー』。2012年にティムール・ヴェルメシュによる小説がドイツで発表されるや、賛否を呼びながら世界的ベストセラーとなり、2015年に映画化。本国では(こちらも賛否分かれつつ)大ヒットを記録し、ヨーロッパ各国に続いていよいよ、日本でも公開される。

タイトルどおりに、かの独裁者アドルフ・ヒトラーが現代のドイツに帰ってくるわけだが、「な、何で?」というツッコミは無しにしよう。そういうシミュレーション、一種の思考実験なのだ。1945年、ナチス・ドイツは崩壊、敗色濃厚のなか、破れかぶれに自害を選んだはずだったのに、目が覚めたらなぜか2014年にタイムスリップしていたと。で、一体どうなるのかといえば、現代人は誰も彼を、ホンモノのヒトラーとは思わない。ちょっとカルトで物好きな、ヒトラーの“物真似芸人”として捉えるのだ。

もちろん当の本人は、そんなこと、知ったこっちゃない。どうも目の前の世界は時代が違うが、気持ちは“総統”のまま。依然、支配者のつもりでいる。そこに可笑しみが生まれる。周囲とのチグハグなやりとりが続出し、『テルマエ・ロマエ』さながらのカルチャーギャップネタで観る者をくすぐりまくる。歴史上〈絶対悪〉であるアドルフ・ヒトラーを、いわば“一発屋芸人”としてしまう風刺の効いた構成。なのだが、しかし! 本作は、単なるタイムスリップ物におさまるコメディではない。

やがてテレビ局をリストラされた男に声をかけられ、ネット動画で話題を集め、人気はうなぎ上り、果てはテレビ番組にも出演するようになる。ヒトラーを“完コピ”したコメディアンとして。でも当人は、そんな意識はない。当然だ。だってヒトラー本人なのだから。持ち前の演説力、プレゼンテーション、トーク術を駆使し、変わらぬ主張をカメラの前で繰り返しただけ。そのカリスマ性は再び、大衆をどんどん魅了していく……こっ、怖えー展開!

先ほど「ツッコミは無しにしよう」と書いたものの、ヒトラーはなぜ、現代に帰ってきたのか? それは明白だ。ヒトラーとは新聞や書籍、さらには当時最新鋭のメディア、ラジオや映画も活用したプロパガンダの天才で、インターネット全盛の現代ではどのように立ち回るかをシミュレーションしたわけである。案の定、劇中でヒトラーは(笑い者になりながら)YouTubeで人気者になり、Twitterでいっそう拡散、また、自らも進んで学習してSNS時代に順応、文明の利器を手中にして煽動してゆく。

本作でヒトラーを演じているのは、無名だが実力派の舞台俳優オリバー・マスッチ。監督、脚本を手がけたデヴィッド・ヴェンドは、彼が街に飛び込み、一般市民や実在の政治家、有名人、ネオナチなどと顔を合わせるアドリブシーンを盛り込んだ。フィクションにドキュメンタリー的な視点を融合させ、市井のナマの意見も拾っているのだ。ヒトラーは悪びれずこう言う。「怪物を選んだ者を責めるんだな。選んだ者たちは普通の人間だ。優れた人物を選んで国の運命を託したのだ」。これはドイツ人だけでなく、日本人にも耳の痛い言葉。怪物は「甦る」のではない、「帰ってくる」のだ。我々ひとりひとりの心の中から。

『帰ってきたヒトラー』
6月17(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー
配給:ギャガ
公式サイト:gaga.ne.jp/hitlerisback
(C)2015 MYTHOS FILMPRODUKTION GMBH & CO. KG CONSTANTIN FILM PRODUKTION GMBH

文=轟夕起夫/Avanti Press

最終更新:6月14日(火)12時0分

dmenu映画

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。