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タワレコはなぜCDを売らずゴミ袋を配るのか?【検証】フジロックが20年愛され続ける理由 ~TOWER RECORDS編~

BARKS 6月17日(金)13時14分配信

フジロックが開催されて20年。様々な人々や企業がフジロックに関わっているが、TOWER RECORDSは開催時から毎年参加している数少ないサポート企業である。しかしながらCD販売店であるにもかかわらず、10万人もの音楽好きが集結するという絶好のロケーションにありながら、TOWER RECORDSは会場で何も売らずにゴミ袋を作って配布し続けている。これはいったいどういうことなのか?

話を聞くと、「音楽を通して社会貢献する」という共通の使命感で両者はつながりを持っていることがわかった。そして今年TOWER RECORDSは、素晴らしい歴史を重ねてきた誇らしきフジロック20周年を祝い称えるかのように、<NO FUJI ROCK, NO LIFE.>という新たなメッセージを掲げる。ここに至るまでの20年の変遷について、嵐の初年度からフジロックを担当し続けているTOWER RECORDSの坂本幸隆氏に話を訊いた。

  ◆  ◆  ◆

■SNSが使われるようになってから
■バーチャルなフジロックを感じることがある


──坂本さんはフジロック初回から参加されているそうですね。

TOWER RECORDS 坂本幸隆氏:「日本でもロック・フェスが始まるよ」と、当時の社長(キース・カフーン)からとにかく行くように言われました。とりあえずLPバックを持って行ってこい、と。台風の雨風の中、とにかく大量に配りました。

──あの黄色いLPバックをレインハット風にかぶったオーディエンスが続出したという逸話がありますよね。

坂本:ホフディランが2年目の豊洲でのステージで1年目のオマージュとしてそれをやってましたね(笑)。そういう用途で持って行ったわけではなかったんですけど、役に立ったのならよかったです。でも、雨具を用意していなかったり軽装の方が多く、フェスにどう参加していいのか分かっていないように映ったのも事実でした。

──でも、そこでなぜタワレコがゴミ袋担当に?

坂本:2年目を迎えたとき、それまで日本になかったフェス文化を今後も残していくために、最初の年に関わった人たちでやれることをやろうというミーティングがあったんです。会場内外にゴミがたくさん出たので「ゴミは散らかさないようにしよう」という心得やマナーを広める啓蒙活動を始めようと、NGOと一緒にゴミ袋を作って配り始めました。1~2年目はLPバッグ、苗場に移った3年目からゴミ袋を作って配布しています。

──ゲートをくぐってすぐにそのゴミ袋を無料でもらえるわけですが、タワレコが作っていることを知らない人も多いと思うんです。

坂本:最初の3年ぐらいは真面目なメッセージを印刷していたんです。「自分のことは自分で」とか。でも入口でいきなりそんな難しいことは言われたくないですし、ゴミの分別回収も浸透してきたところで、キャッチーなデザインにちょっとメッセージがあるテイストに変えました。<NO SENSE, NO PIECE.>というコピーを立花ハジメさんが作ってくださって、横尾忠則さんのデザインを使用させていただいたりとか。

──巨匠のデザインだとは知らず、座ったり寝転んだりしてしまった(笑)。それにしても、何故現地でCDを売らないんですか?

坂本:20年間、何も売ってないですね。協賛社としてブースで何かを売っているわけでもないですし、お客なわけでもなく、かといって運営側でもない。お客さんと主催者側の中間という特殊な関わり方かもしれません。

──どういうことですか?

坂本:タワーレコードは小売店として、アーティストとお客様の間で両方をつなぐ役割です。それは、フジロックでお客さんと主催者との間で、NGO(iPledge)と環境活動等のナビゲーターを協働でやっていることにも通ずるところです。両者の間でタワーレコードなりの“音楽とフェス”とか、“音楽と社会”のあり方を提案できる立場にあります。

──なるほど。そのポジションを活かして環境問題にも取り組んでいるわけですね。

坂本:2005年には環境をテーマにした<ap bank fes>が生まれ、2006年にアル・ゴアが地球温暖化をテーマにした映画『不都合な真実(An Inconvenient Truth)』を制作した時代に、フジロックもエコに対していろいろ取り組んでいました。我々も最初は炭カルのゴミ袋だったのを、翌年からは前年に集めたペットボトルでゴミ袋を作って循環させることを始めたんです。それがある程度浸透した後はエネルギー問題へとシフトし、植物油の廃油を集めて発電する「NEW POWER GEAR」というカーボンオフセット・キャンペーンをサポートし始めました。

──主催者のみならず、協賛各社にもエコやエネルギー問題について共通認識はあったのでしょうか?

坂本:社会問題としてと言うよりは、環境の保全や負荷の軽減という意識はあったと思います。最初の5年でマナーを徹底していこう、その後の10年はエコ/カーボンオフセットに取り組み、震災後はアヴァロンでアトミック・カフェが開催されて、その中でエネルギーの課題にも触れています。

──なるほど。

坂本:今では当然のように毎年参加していますが、1年目、2年目の経験がなければ、タワーレコードがこれほどまで社会貢献に深く関わることはなかったと思います。音楽で世の中を変えるみたいな大げさなことではなく、ムードを作っていくことはできますから、社会貢献と向き合えるようなムード作りを日本を代表するフェスと共に創り上げる活動ができていることは、企業としても大きな意味があります。NGOの方々ともずっと一緒に活動できているのも、フジロックがNGOの活動にも寛容な事も一因だと思います。

──この20年、フジロックにはどんな変化がありましたか?

坂本:特に近年は、情報の伝わり方です。共有されるものが文字中心だった時代から写真へ移り変わり、写真が4kでより綺麗になったり、360度見られる動画になったり。フジロックが伝えたいことの伝わり方とか、お客さん同士の情報共有の仕方がここ10年くらいで劇的に変わりましたよね。

──現地の様子がどこでもわかる時代ですからね。

坂本:だから、バーチャルなフジロックを感じるときがすごくあるんです。友達同士だけの共有空間だったのが、主催者/関わる企業/お客さんがそれぞれSNSを使うことで、フジロックの巨大バーチャル空間ができあがっている。昔はフンドシ連中とか、変な格好の人も多くいましたが、今はみんな小綺麗じゃないですか。それも情報の伝わり方によるところなのかなと。「雨降っているらしいぞ」「今年は寒いらしい」とかもすぐわかるし。どんな格好が効率的で便利かが共有されている。ファッションで言う「ノームコア」のような。個人的にはもう少し変わった人がいたほうが楽しいですが。

──情報も音楽そのものも手軽に入手可能な時代ですから。

坂本:お店はパッケージを売ることが目的ですが、例えば渋谷店では年間1000本くらいイベントを開催しています。それは行かないと体験できないことを現場に作ることが必要だからです。フジロックにもそういうところがいっぱいあると思うんですよ。自然相手では予定調和にはいかないし、行ってぐちょぐちょになってみないと分からない。食べ物やお酒の匂いとか、そういう感覚的なものはバーチャルの世界では伝えきれないことが多い。そもそもフジロックはとても広いので、全部は攻略できませんし。

■フェスを皆で大切にする気持ちは
■社会を大切にする気持ちと似ているかもしれない

──広くて全部まわれないのは、一回じゃ攻略できないテーマパークと同じですね。いろんな発見があるタワレコ店舗も同じかもしれない。

坂本:そうかもしれませんね。だから「また行きたい」って思うんじゃないかな。タワーレコードとフジロックの根本的な部分での共通点は「“自分で選ぶ事”をできる人がいないと成り立たない」ということなんです。グリーン・ステージを観たかったけど、歩いていたら他にいい音楽があったから立ち止まってそれ聴いちゃったみたいな話、よくあるじゃないですか。それと同じで、決まったCDを買うつもりで店へ行ったけど、店内で流れていた音楽を気に入ってそれを買うとか、試聴して他のを買っちゃうとかね。チャート上位だから買うのではなく、自分でいいと思ったものだから買う。そういう自分の多様性を認めるマインドを持ったタワーレコードのお客様とフジロックへ行く人たちのマインドは似ている気がするんです。

──わかります。

坂本:オープン・マインドで自分で選ぶことのできる人、選んだものに責任を持つ。「あっちが観たかったけどこっちがよかったから今日はよし」みたいに、自分の選択をポジティブに捉えられる感覚を育てることが大切だと思うんです。<NO MUSIC, NO LIFE.>は、渋谷に店舗を構えた頃、HMVさんやVIRGINさんなどの外資系の大型店舗が多くオープンした時代に始めたものなんです。外資系大型店という括りの中での差別化として、「音楽カルチャーに役立つこと」をしていこうという想いが込められたものなんですけど、フジロックとの関わり方も同じかもしれません。フェス文化を日本に残すためには、CDを販売しなくても、ゴミ袋を作ったり協賛してサポートするのもいいんじゃないの?って。大きな外資系のお店はいっぱいありますけど、そういうことができるのは我々くらいでしょう!というプライドを持つことも大切だと思います。

──フジロックファンもタワレコファンも、<NO MUSIC, NO LIFE.>な人々ですもんね。

坂本:実は今年、フジロックが20周年なので<NO FUJI ROCK, NO LIFE!>というキャンペーンをやるんです。タワーレコードとも縁の深い忌野清志郎さんのフジロックでの写真を使わせていただきました。

──忌野清志郎とフジロックは深い関係ですし、ロックへの敷居を低くしてくれたスーパースターですからね。

坂本:本当は毎年は出られないのに、名前を変えて出続けたっていう(笑)。

──日本最高峰のフジロックに日本最高峰のロック・スターが出続けていたわけですが、まるで「清志郎が苗場に帰ってきた」みたいです。

坂本:20年=成人ですから、若い人にはぜひ清志郎のような大人を目指して欲しいと思っています。フジロックは山なので虫に刺されるとか雨が降るなどのハードルは確かにありますけど、逆に簡単に行けないからいい面もあると思うんです。

──他のフェスとフジロック…何が違うんでしょう。

坂本:目的や行く理由を皆がそれぞれ持って向かうのがフジロック。そして、目的は違ってもフジロックという空間を大切にしているのは同じなんです。自分も楽しむし他の人も楽しんでいる…その場所を継続させたいという共通意識やその環境を大切にしようという想いが基本にある人たちが参加しているので、ゴミの分別なども協力的です。スタッフがいなくても、お客さん自ら行ってくれるのはそういった意識の現れに他ならないです。そういう点でも、フジロックは敷居が高いと言われているのなら、それは一般的な「敷居が高い」の意味とは少し違うと思います。

──人間力も試されますね。

坂本:具合の悪い人がいた時に素通りするかしないか…電車の中でおばあちゃんに席を譲るかどうかと同じですけど、非日常だからこそ、自分が試されるような自分自身に向き合わなければいけないシーンがフジロックにはたくさんあると思うんです。そこでの経験を日常に戻ってからも持ち込めたら素敵ですよね。

──山での体験が人生経験そのものですね。

坂本:フェスを皆で大切にする気持ちは社会を大切にする気持ちと似ているかもしれない。ゴミを分別するとか、困った人を助けるとかね。それが日常に反映できれば、逆に、行くのも億劫じゃなくなる。ああいう環境なので、みんなで創り上げる/成功させるという気持ちがないとなかなか大変なことだと思うんです。“フェス”と名前が付いているものはたくさんありますけど、ただの大型イベントじゃないの?みたいなのもたくさんありますから。お祭りはみんなで作るものですよ。

──本来、「フェス=お祭り」ですもんね。子供も大人も持ち分があって、やぐらを囲んでみんなで踊る。みんなで作る空間なんだということが分かります。

坂本:やぐらと言えば…前夜祭の目玉として大抽選会があるんですが、毎年チケット3日通し券分の金券というタワーレコード賞を出しているんです。私がプロレスのマスクをつけてタワーマスクをやっていまして…。

──そんなことまで坂本さんが?

坂本:若手スタッフが部署異動になり、2年前から私が(笑)。最近タワーマスク太ったな、とか思われているかもしれません(笑)。メガネも掛けられないし、ここ数年のフジロックでは、あれが一番のプレッシャーなんです(涙)。

──前夜祭の楽しみがひとつ増えました(笑)。

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“敷居が高い”とも言われるフジロックが支持され続ける理由を検証しているこの特集において、フジロックは「簡単に行けないからいい面もある」という坂本氏の言葉には、考えさせられるところがあった。「自然と音楽の共生」を掲げるフジロックは、私達の日常から逸脱した異空間であることは言わずもがな。だがそれと同時に、人間力を試され、人間の本能を呼び起こさせてくれる原始的な環境でもあるのだ。そこに身を置いてみることは、紛れもなく重要な人生経験のひとつだと言える。

そして、その現場で「物を売ること」ではなく「日本にフェス文化を残すため」に、CD屋がCDを売らずにフジロック参加者の一員として育んできた信頼関係は、<FUJI ROCK>と<NO MUSIC, NO LIFE.>を交流させた<NO FUJI ROCK, NO LIFE!>という極上のコラボ・コピーを誕生させた。これまで両者が音楽産業の中で支え合ってきた証であり、これからも共存していこうという互いへの最大級のリスペクトであることは誰の目にも明らかだろう。

「そこに人がいるから行く」と坂本氏は語っていた。フジロックへ向かうのもレコードショップに向かうのも、そこに人との出会い、そして音楽との出会いがあるからだ。シンプルで力強い衝動。そこには、フジロックとTOWER RECORDSが多くの人々から愛され支持される共通した想いが渦巻いている。

取材・文=早乙女“ドラミ”ゆうこ、BARKS編集部

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<FUJI ROCK FESTIVAL'16>
2016年7月22日(金)23日(土)24日(日)
@新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※各券種、受付などの詳細はオフィシャルサイトへ http://www.fujirockfestival.co

最終更新:6月17日(金)13時14分

BARKS