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普通の家族の“崩壊”を描く。赤堀雅秋監督が語る映画『葛城事件』

ぴあ映画生活 6月16日(木)11時8分配信

『その夜の侍』の赤堀雅秋監督が三浦友和を主演に迎えた新作映画『葛城事件』が今週末から公開になる。理想の家族像を追い求める父親をはじめとする葛城家が、理想を追い求めるがゆえに崩壊していく過程を描いたドラマだが、赤堀監督はこの物語を基本的には「普通の家族を描いている」と語る。

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映画は、葛城家の次男が、ある事件を起こして死刑を宣告される場面から始まる。かつて、葛城家は普通の、どこにでもいる一家だった。家族を守ろうとする父の清と、夫に従う妻、従順な長男と、兄と比較されて育った次男。なぜ、葛城家は崩壊したのか? 映画は、どこにでもいる家族が変容していく様を容赦なく描き出していく。

本作は、赤堀監督が2013年に作・演出を務めた舞台が基になっている。その際、自ら父・清を演じた赤堀監督は「僕はまったく記憶になかったんですけど、公演中の楽屋とか酒の席で『これが映画になるなら、主演は三浦友和さんがいいなぁ』って言ってたらしいんですよ」と振り返る。「当時から心のどこかで『これを映画にしたいなぁ』という気持ちはありました。三浦さんは国民的なスターなのに、どこか匿名性もあるし、恐ろしいイメージも、優しさも秘めている気がするんです。だからいろんなキャスティング案を考えたんですけど、直感的に三浦さんだったんですね。会議室で三浦さんに出演をお願いするとき、ドアが開いて三浦さんが入ってきた段階で鳥肌がたって、初対面だったんですが『絶対にこの人しかない!』と思いましたし、撮影前に本読みをしたり、衣装合わせをしている間に『三浦さんで間違いなかったな』と改めて思いましたね」

とは言え、本作は舞台をそのまま映画化した作品ではない。赤堀監督は、映画化の話が進み脚本を執筆する過程で、さらに作品のモチーフについて調査し、考えを深め、事件を起こしてしまう次男・稔の人物像を舞台版とは大きく変更した。「舞台版は、モンスターのような人物を生み出してしまった家族の悲喜劇を描いたのですが、映画にする際には、稔のキャラクターを大きく変えて、どの家庭であっても生れ出る可能性を秘めたキャラクターにするべきだと強く思ったんです。誰もが普通の家族なのに、人間の”愚かな部分”が漏れ出てしまう……そういうものを描きたかった」

監督が語る通り、葛城家の面々は、物語としてやや誇張されてはいるが、”怪物=モンスター”のような人物は誰もいないし、これまでの多くの文学や映画が描いてきたような激しい愛憎が入り混じる家族関係も描かれない。だからこそ観客は、普通の家族が、それぞれに暮しているだけなのに不可避的に崩壊していくドラマに衝撃を受けるだろう。「端から見れば、何でそんなことも言えないの?ってことが、家族だから言えないってことが実生活ではあったりすると思うんです。昔、風俗のおねえちゃんに『私、実はレズビアンなんだ』ってカミングアウトされて(笑)。たぶん、友達には言えないんだろうけど、それを俺はどう受け止めたらいいんだって(笑)。でも関係ないからこそ、喋れる部分はあるだろうから……家族だったり、友達だったりっていうのはやっぱり難しいんですよね」。

父は家業だった金物屋を継いだことをいまだに後悔しており、妻は高圧的な夫に意見ができない。長男は仕事をクビになったことを隠したまま暮らしていて、次男はいつも自分が兄と比べられ、父親から叱責されることに理不尽な想いを抱いている。これまでの赤堀作品同様、本作でも監督は、どこにでもいる人間の”化けの皮”を引き剥がし、その奥にある姿を描こうとする。「映画を通して、単に人間を描きたいんだけなんです。曖昧模糊とした人間を曖昧模糊に描写したい。昨今、善悪や白黒を目くじら立てて線引きしようとするヒステリックな雰囲気がすごく嫌なんです。下世話な話なんですけど、ある時期からコンビニでエロ本のコーナーが線引きされるようになっていて、ビックリして(笑)……すごく嫌悪感を感じたんです。理屈じゃないのかもしれないですけど、いろんなものが無菌状態にされようとしていて、もっと世の中は猥雑でいいじゃないかと、その方が力強く人間は健全に育つんじゃないかと僕は思うんです」

興味深いのは、それでも赤堀監督は人間を単に”愚かな存在”として描かないことだ。葛城家の人々は、確かに失敗を重ねてきた人間たちかもしれない。しかし、赤堀監督は「僕は人間が好きなのと同じぐらい、人間が嫌いだし……複雑なんです」と笑みを見せる。赤堀監督の提示する”どこにでもいる家族”を観客はどう受け止めるのだろうか? 「前作は初監督だったから、映画が完成したことに青臭い感慨があったりしたんですけど、今回はこの映画をひとりでも多くの人に観てもらえたら、という想いがあります。もしかしたら、観終わった後、家に変えるまで悶々とするかもしれないですけど(笑)、僕も強烈な映画を観て、終わった後に席も立てないようなこともありましたから……そういう映画になっていたらうれしいですね」

『葛城事件』
6月18日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー

最終更新:6月16日(木)11時8分

ぴあ映画生活

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。