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良品計画・松井忠三前会長が明かす 無印良品、絶好調のヒケツ(下)

ニュースソクラ 6/16(木) 12:20配信

【ニュースソクラ編集長インタビュー】 「セゾンの常識はMUJIの非常識」 大胆な改革で時代をつかむ

 雑貨店「無印良品」を展開する良品計画が絶好調だ。2001年から2015年にかけて同社を率い、赤字からV字成長に導いた、松井忠三前会長に話を聞いた。(聞き手はニュースソクラ編集長・土屋直也)

 ――松井さんが社長に就任してすぐの2001年8月に、良品計画は38億円の赤字に転落していました。当時、現状をどう分析していましたか。

 たしかに、商品開発力は弱体化していたし、国内外での出店戦略も上手くいっていませんでした。しかし、業績不振の最たる要因は、セゾングループ時代から連綿と続く“考え方”にありました。そこで、私は「セゾンの常識はMUJIの非常識」と位置づけ、大胆な改革に着手したのです。

 ――「セゾンの常識」とは、堤清二代表のもとで一時代を築いた“文化と感性”に象徴される企業風土ですね。

 人材育成は先輩の背中を見て学ぶ“経験主義”に依存していました。また、それぞれの店舗では業態に大きな差があり、チェーンオペレーションが効いていませんでした。セゾン特有の「標準化ができない体質」は時代に沿わなくなっていた。ここから脱却しない限り、良品計画の再生はありえないと考えたのです。

 ――改革をどのように進めたのでしょうか。

 マニュアル「MUJIGRAM(ムジグラム)」を作成し、誰が店長でも同じように効率的な店舗運営ができる体制にしました。今までとは真逆の発想に対して、社内からは異論や反発もありましたが、弱点を補強するためには「見える化」を徹底するしかありませんでした。また、店舗規模を3つに絞り込んでチェーンオペレーションを強化したり、決断力と実行力のある組織にするために紙の使用を減らしたりもしました。

 ――松井さんの専門である人事制度で、気を付けた点はありますか。

 西友時代に大企業病の弊害を目の当たりにしてきました。私のいた人事部でも、全体を見て動くのではなく、専務の“御用聞き”のように立ち振る舞うスタッフが増えていたのです。上司に媚びへつらう「良い社員」は会社を滅ぼします。そうした反省もあり、良品計画では、仕事を任せると最後までやりきってくれる人材が正当な評価を受ける、“実力主義”を意識しました。また、優秀な社員を一つの部署で囲い込むのではなく、様々な分野で活躍できるようにしたのです。

 ――現場レベルのオペレーションや人事制度と共に、出店戦略の大幅な見直しもしたそうですね。

 良品計画は2000年から、急速な拡大戦略に突入していました。日本では売り場面積を4割増やし、ヨーロッパに5店舗しかなかった海外店舗も50店にするというプランでした。当然、質を伴わない拡大はリスクでしかなく、戦略を大胆に練り直す必要がありました。

 ――海外店舗を黒字化させる上で、キーポイントは何だったのでしょうか。
 
 世界の大都市は、とにかく家賃が高いのです。そこで、2003年にイタリアのミラノに出店した際には、ロンドンとフランスから社員を長期出張させて、不動産屋さんを介さずに自分たちで物件を探しました。その結果、売り上げに占める家賃比率を10%程度までに抑えられ、1年間で投資回収ができました。11年間赤字続きだった欧州で、黒字化の見込みがやっと出てきたのです。

 ――自社で店舗物件を探すと、安上がりにはなりますが、難しさもあるのではないですか

 物件の選定にあたっては、全25項目からなる「出店基準書」を作成し、売り上げに占める家賃比率を詳細にシュミレーションしていきます。これによって、ミスを最小限に食い止め、出店成功率を格段に向上させました。開店したのちも、店舗立ち上げに専門性を持った社員を店長として送り込み、順調なスタートが切れるようにしました。

 ――松井さんの改革は、意識改革とビジネスモデルを並行して見直すのが特徴的です。
 
 西友時代の苦い経験が原点でしょうね。人事部教育課長時代に3億円の予算を持たされ、部長から役員に至る300人の意識改革というミッションを任されました。しかし、結果からいうと、成功しませんでした。高度成長期の終焉とともに、GMS(大規模総合小売店)のビジネスモデルが崩れていました。「ビジネスの立て直しなしに、意識改革はできない」と、大金を使わせて頂いて学ばせてもらいましたね(笑)。

 ――良品計画は、セゾン時代からのGMSから、より時代に適合したビジネスモデルへ転換しました。

 GMSには、大量仕入れ大量販売、セルフサービス、ワンストップショッピング、チェーンオペレーションといった特徴がありました。しかし、このうち、個人ニーズが細分化した現代で今なお有効なのは、チェーンオペレーションのみです。3か月前のバイヤーズプランで商品のラインナップが決まるようでは、ニーズやトレンドの変化に追いつけないのです。

 ――世界のアパレル市場の構図も変わってきています。
グッチやシャネルといった専門店か、H&MやZARAといったSPA(製造直販型専門店)が生き残っているだけです。ユニクロさんやしまむらさんを挙げるまでもなく、日本でもそうなりつつあります。ただ、日本の場合は、100円ショップの品物でも高品質を求められるという特殊要因がありますが…(笑)。こうした大きな見取り図を持ちながら、ビジネスモデルの転換を進めてきたつもりです。

構成・河野嘉誠

■松井忠三(まつい・ただみつ) 株式会社良品計画名誉顧問
1949年静岡県生まれ。73年、東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業。西友ストアー入社後、92年に良品計画へ。総務人事部長、無印良品事業部長を歴任。2001年には社長に就任し、赤字状態からのV字成長を実現する。08年から会長、15年から名誉顧問。ベストセラーになった『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』(角川書店)など、著書多数。

■土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設

最終更新:6/16(木) 12:20

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