ここから本文です

患者を作り出す実損保険 不必要な手術を勧められる韓国の医療事情

ハンギョレ新聞 6月16日(木)18時59分配信

40万円で椎間板手術、30万円で人工水晶体

 「担当医師に実損(補てん型医療)保険に加入しているかと訊かれ、『入っている』と答えたところ、『それならウィンウィンしましょう』と言われました」。7~8年前から腰に痛みがあり椎間板ヘルニアという診断を受けた50代半ばのキムさんは、昨年7月歩けないほどの腰痛に襲われた。仕方なく知人に脊椎手術がうまいという病院を訊いて訪ねた。医師は「椎間板ヘルニアで手術が必要だ」として「高周波減圧術を受けるのが良い」と勧めた。高周波減圧術は、椎間板ヘルニアの部位に高周波エネルギーを発する特殊な針を刺し、突き出たヘルニアを減らす施術で、健康保険の適用ができない非給付治療だ。キム氏は病院側から本人負担は30万ウォン(約3万円)程度にするという話を聞いてこの治療法を選択した。施術と4日間の入院費を合わせて総額440万ウォン(約40万円)だった。キム氏は病院代を払った後、保険会社から380万ウォン(34万円)を返してもらった。

 キム氏は「施術経過を見ようと病院にまた行くと、病院の事務長が実損保険でいくら返してもらったかと尋ね、現金30万ウォン(約3万円)か入った封筒を受け取った」として「結局、自分のお金は30万ウォンしかかからなかった」と話した。キム氏はまた「入院した時に他の患者から聞いたところ、同じ高周波減圧術を受けても実損保険に加入しているか否かにより病院から言われる施術費が違っていた。病院が手術費を勝手気ままに受け取っているのではないかという疑いを持った」と話した。キム氏は施術後5カ月も経たずに再び腰痛が再発し、結局大学病院を訪ね、椎間板手術(皮膚を切開し飛び出した軟骨を切除する手術)を受けた。キム氏は「実損保険に加入したと言えば、効果もない施術を病院が勧めるのではないか」として「実損保険に加入していなければ不必要な施術を受けることもなかっただろう」と話した。

 イ氏(56、ソウル江東区)は先月、視野がちょっとぼやける気がしてソウルのある眼科病院を訪れた。身の回りに白内障にかかった人をたくさん見て心配になったためだ。病院では白内障手術が必要で、実損保険に入っているかと尋ねられた。イ氏は「加入したと言ったところ、医師が『手術代はほとんど全額補償されるので、どうせなら質が良く価格の高い多焦点人工水晶体を入れなさい』と勧めた」と話した。一般的に白内障手術に使う30万ウォン(約3万円)程度のものではなく、200万~300万ウォン(20~30万円)のものを使えという意味だった。イ氏はできれば手術は避けたいと思い、他の眼科専門病院を訪ねた。その病院では「白内障の初期で手術をしなければならない段階ではないので、定期的に観察してみましょう」と言った。

 韓国で実損保険に加入した人は、全国民の60%にあたる3200万人に達するほど普遍化した結果、不要で高価な診療が乱発される現象が深刻になっている。10余年前から販売され始めた実損保険は、健康保険では支給されない病院代を支援するという点を前面に出して「国民保険」水準になるまでに大衆化したが、本人負担が少ない点が悪用され、過剰診療問題が発生している。検証されていない治療法の乱用、実損保険料や健康保険料の引き上げなど、その被害はそっくり国民に戻ってくる。

 実損保険の最大の弊害は、非給付項目診療(健康保険が適用されない診療)の急増が挙げられる。かつては高い費用のせいで非給付診療を病院が勧めることは容易でなかったが、最近は病院が積極的に勧めている。問題は非給付診療の相当数が、安全性や効果の面で医学的検証が風十分で、副作用が発生する可能性があるという点だ。ソウルのある大学病院の整形外科教授は「腰痛患者は薬を服用すればほとんどが6カ月以内に痛みがなくなるのに、最近は検証が不十分な神経成形術(脊椎の尾骨側に薄い管を入れ痛む部位を除去する施術)や、高周波減圧術が乱用されている」として「後遺症を残しかねないうえに治療効果はなく、患者が被害を受ける可能性がある」と話した。効果に比べて費用が過度に高い治療法が乱用されていることも問題だ。医療費総額が増えるためだ。ソウルのある大学病院の眼科教授は「白内障患者のうち一部は多焦点人工水晶体が必要だが、すべての患者が必要なわけではない」として「実損保険のために高価な多焦点人工水晶体が拡散している」と話した。

 非給付診療だけが増えるのではない。実損保険加入者は、給付項目診療(健康保険が適用される診療)の患者負担金も実損保険から支援されるので、全体的な病院利用が増えやすい。国民健康保険公団関係者は「非給付施術を受けても入院費は健康保険で支給しなければならないという点、自己負担が少ないために健康保険が適用される一般診療の回数も増える点が問題」と話した。これに伴い、健康保険の財政支出が増加すれば結局は全国民の健康保険料引き上げにつながることになる。

 実損保険商品を販売している民間保険会社も、表面的には非給付診療が増加する現象に反対している。保険金の支給が増え、利益が減るためだ。今年初め、保険会社は損害率(加入者保険料に対して支給した保険金の比率)が急増したとし、実損保険料を大幅に引き上げた。損害保険業界のある関係者は「治療目的と医師が判断した施術や治療に対しては、保険金を支払わざるをえない」として「保険会社の立場では、多くの非給付治療の種類や回数を制限する方法がない」と話した。過剰診療問題は医療界の責任とする論理だ。だが、「私が作る福祉国家」のキム・ジョンミョン政策委員は「民間保険会社は医療スタッフが初めから不必要な施術をしても、患者がこれを簡単に受け入れるように保険商品を作り、大々的な広告で加入者を増やしておきながら、今になって医療界と保険加入者に責任を転嫁している」として「実損保険に対する根本的な手術が必要だ」と話した。

キム・ヤンジュン医療専門記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

最終更新:6月16日(木)18時59分

ハンギョレ新聞

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。